カテゴリー: ビジネス・経済
公開日 2017.08.30
昨今の日系企業を取り巻く事業環境は、グローバル化がひとつのキーワードとなり、海外事業の戦略構築は必須の項目となりつつあります。
それは企業経営者が縮小する国内の市場環境に直面しており、株主、金融機関、競合企業、顧客、供給先等の経営に関わるステークホルダーそれぞれから、事業の国際化を求められる機会が増えていることが背景にあります。
しかし、勝手知れたる国内市場とは異なり、海外市場では市場環境が根本的に異なる場合があり、国内事業で強みとしている技術やサービスが、海外市場では強みとして生きない可能性さえあるというのが現状です。当然に、国ごとの規制、税務なども異なりますので、それらに対応することも必要です。
そのため、経営者が海外事業の意思決定を行うためには、国内事業における意思決定以上に入念な情報収集と、慎重な事業検討が必要であると日々感じています。
本稿では、新たな国や地域への海外進出を検討している日系企業の皆様の一助となるべく、当社が日系企業の海外進出のご支援を行う現場で実施している実務についてご紹介します
一般的な海外進出の検討フローは図表1の通りです。もちろん、企業の置かれている環境やタイミングによって検討フローは多岐にわたります。例えば、進出対象国の企業を買収して事業進出する場合もありますが、ここでは買収を伴わず、自社100%もしくはJV(合弁)事業として進出する場合を想定しています。
図表1における5つのフェーズについては、1~3のプロセスを先行して行うことが重要です。進出相談の現場においては、「ABC社というパートナーとJVを組むが、留意ポイントを教えて欲しい」といったフェーズ4、あるいは「BOIを取得したいが、この業種で取得できるか知りたい」といったフェーズ5から相談が開始することがあります。〝目的〟(タイで事業を行って何を成し遂げたいか)と〝手段〟(JVを組む、BOIを取得する)」が逆転してしまうことのないように、フェーズ1から3で実施する、検討のプロセスを踏むことが必要不可欠です。
それでは5つのフェーズのうち、当社が重要と考える1から4までを解説します。
まずは検討する海外事業のビジネスモデルを仮説ベースで構想します。
基本的には日本国内事業をベースに構想することが多いと思いますが、日本国内とアジアでは国自体の成長ステージが異なりますので、顧客像や規制環境が異なる場合があります。また競争環境も異なりますので、有効な市場調査を行うためにも想定するビジネスモデルを具体的に構想することが重要です。
特に国内事業モデルをベースとする場合は、国内でその事業が成立する上での常識的な要因等も具体的に書き出し、それが進出対象国の状況と異なるのかを調査することで、構想したビジネスモデルの検証が行えます。例えば、国内事業の顧客はどの程度の年収水準であるのか、その年収水準の顧客層は進出対象国に豊富に存在するのか等が単純な例として挙げられます。
国内事業では当たり前の常識として意識していない要因であっても、海外ではその常識が覆ることが多く存在するため、詳細の市場調査を行う前に必ず必要な作業です。
(1)何を調査するか?何のために調査するのか?
まずは進出目的の明確化を行うことが重要です。
この軸がブレるとそもそもの進出プランが根本から覆ってしまうため、何のために進出するかを明らかにし、その目的の達成のために必要な事項を調査する、という流れで検討を進めます。
(2)アジア諸国(新興国)における市場調査の難しさ
ある程度の事業投資を必要とする海外進出における意思決定には、正確な情報が不可欠であるものの、ASEAN諸国を含む、いわゆる新興国といわれる国・地域における市場調査には情報取得の面で困難に直面するケースが少なくありません。主に以下3点の課題が見られます。
①公開されている情報が限定的である
日本にいると細かなカテゴリーにおいても極めて正確で最新の情報が入手できるのが常識ですが、アジアを含む新興国では情報統計に必要なインフラが整備されておらず、日本では当たり前の情報が入手できないケースが多く存在します。
例えば、日本ではある特定の業界の市場規模は入手できる可能性が高いですが、アジアを含む新興国では有料・無料の情報源に限らず入手が難しいのが現状です。また、法規制に関しても、細則が公開されておらず、実務が分からない場合が散見されるため、関連の省庁等へ直接ヒアリングをしないと分からないということがあります。
②公開情報が現地語のみでしか提供されていないため、言葉の壁を克服しないと情報を入手できない
当然ですが、各国の現地語でしかアクセスできない情報が多く存在します。例えば、日本市場を調査する際に英語のみで情報を取ろうとすると、入手できる情報が限定的になることは容易に想像できると思います。進出を検討する国が非英語圏である場合は、英語ではなく、現地言語を用いて調査できなければ情報収集に支障をきたします。タイでは、ウェブ上の英語ベースの情報はタイ語の情報の半分以下であると言われています。
③入手できたとしてもその情報が正確でない場合がある
情報を入手できたとしても、その情報が正確でなければ意思決定に適した情報とは言えません。アジアを含む新興国においては、その情報統計インフラの脆弱性により、情報の正確性に疑問がある場合があるので注意が必要です。できる限り複数の手法を用い、複数の情報源から情報を得ることにより、情報の正確性を担保することが重要です。
例えば、デスクトップリサーチによって得られた統計データをその業界の製造プレイヤー・卸売プレイヤーそれぞれへのインタビューによって検証する等の手法を用いることで、情報が正確であるかどうかの確認をすることができます。
(3)調査方法
主な市場調査の手法は以下の3つがあります。それぞれの特徴を把握した上で適切な調査を選択する必要があります。
また、単一の手法を用いるよりも複数の手法を用いて、情報源を多く持つ方が情報の正確性を担保することができます。
①デスクトップリサーチ
主にウェブ上に公開されている情報を収集・分析する手法です。初期的な情報収集を目的とする場合が多く、マクロ情報・業界の統計情報・輸出入貿易統計・税制・法規制等の情報を分析します。PC・ウェブアクセス・現地言語堪能なスタッフがいればスピーディーに調査することが可能であり、複数国を同時並行的に調査し、深く調査する国を選定したり、対象市場においてより深く調査するポイントを絞り込むなどの目的でデスクトップリサーチが行われます。
②プライマリーリサーチ
対象市場の業界内プレイヤーに対し直接インタビューを行うことで情報を収集し、分析する手法です。一般に公開されない商流・バリューチェーン・商売慣習・商品購入の重要な要因・価格決定要因・競合他社の評判等の情報を収集します。公開情報が限られており、かつ情報の精度が低いアジア含む新興国においては、プライマリーリサーチは有効な調査手法ですが、有意義なリサーチを行うためには以下の点が重要となります。
a 信頼ある情報源を複数確保できるか
対象市場・業界に精通している組織・企業に対してインタビューの機会を得ます。具体的なインタビュー候補先は、業界団体・研究機関・関連政府機関・商流上のプレイヤー(製造・商社・小売・不動産デベロッパー)等が挙げられます。特に商流上のプレイヤーへのインタビューにおいては、各プレイヤーの思いや置かれた環境によってバイアスがかかる可能性があるため、前に述べたとおり、複数の情報源を確保することが情報の正確性を担保するために重要です。
既存の情報ネットワークを有する外部リサーチ・コンサルティング会社を活用する等も検討に入れながら、十分な情報源を確保し、限られた時間で調査ができる体制を作ることが必要です。
b 正しい問いを準備できるか
プライマリーリサーチを海外進出の意思決定に生かすために、業界内の関連プレイヤーへのインタビューによって、どのような情報を引き出せるかがポイントとなります。インタビューを行う時間内で引き出せる情報は限られています。漠然とした問いに対しては漠然とした回答しか得られないため、質問事項の一部は定量的な評価(5段階評価で回答してもらう等)を行える問いにする等、できる限り後に分析可能な設計を行う必要が考えられます。
③コンシューマーリサーチ
多数のエンドユーザーの声を直接収集・分析する手法です。エンドユーザーの嗜好(ブランド、価格、商品の味・色・匂い・機能等)を理解するために行います。特に対象市場にはまだ存在しない商品を用いて進出しようとする際に、有用となる手法です。
コンシューマーリサーチには大きく3つの手法があります。それぞれの特徴を理解した上で、調査の目的に合致する手法を選択することが重要です。
a インターネット調査
インターネット上で質問事項に回答してもらう方法です。一度に多くの対象者へアクセスできる反面、Yes/No等の選択式の質問事項以外の回答が得にくいデメリットがあります。
b F2F(フェイストゥーフェイス)インタビュー
調査員が対象者と1対1で向かい合い、自由なインタビュー形式でヒアリングを行う方法です。身体的・金銭的等の個人的な事情に立ち入った回答を得やすい反面、多数の対象者からの回答を短時間で得にくいデメリットがあります。
c フォーカスグループインタビュー
対象者が一同に会し、提示されたテーマに沿って座談会形式で発言し、その情報を収集する方法です。参加者同士が相互に会話・議論することにより、テーマを掘り下げ、参加者の本音を導き出せる可能性がある反面、まとめるファシリテーターの力量に調査結果が依存してしまう側面があります。
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THAIBIZ編集部
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