カテゴリー: ニュース
公開日 2023.05.23
5月14日のタイ下院総選挙の驚く結果を受けて、普段は国際ニュースではほとんど取り上げられることがないタイが、海外メディアでも大きく取り上げられた。ユーチューブを見ていても、普段はタイ語の国内メディアでしか見る機会しかないタイのニュースが、英語、そして日本語でも大量に流れている。そして勝利した前進党のピター党首が外国メディアにほぼネーティブの英語で答えていることにこの政党の1つの特質を見ることができる。
英エコノミスト誌20日号では、このニュースを5本のLeadersのうちの1本と、アジア面の1本で取り上げている。滅多にタイのニュースを取り上げることのない同誌が同じ号で2本の記事を掲載するのは珍しい。今回は後者の「タイの民主派政党が軍政の既得権益層を打ち負かした」というタイトルの記事を中心に紹介する。
同記事の副題は「しかし、政権を作るのは容易ではない」で、「タイの政治は長年、王党派の『黄シャツ』と、タクシン元首相支持派の『赤シャツ』の戦いの構図だったが、5月14日の総選挙はこの戦いの構図を劇的に変えたようだ」と話を始める。そして、王室と軍部改革を主張する第3勢力の前進党が大勝利した結果はタイを完全な民主国家にすることを求める多数派と、没落する少数の王党派の戦いという構図に再定義することになると指摘する。
そして米ハーバード大学卒業で42歳の前進党のピター党首が8党連立構想を取りまとめ、下院で313議席を確保する見通しだと報告。しかしそれでも、上院が親軍派であり、憲法裁判所、選挙管理委員会などが王党派であるため政権を樹立するのは容易ではないと予想している。特に前進党の前身である新未来党が2018年に結党され、2019年の前回総選挙で第3党に躍進したにも関わらず、軍部の縮小提案を恐れた既得権益層がタナトーン党首の議員はく奪、新未来党の解党に追い込んだことを指摘。その上で、親軍派がピター党首のメディア株の保有を政府当局に告発したことに言及し、タナトーン氏の政治活動禁止に追い込んだ同じ策略を取ろうとしていると警告している。
同記事はさらに、現在のタイの親軍政権がミャンマー問題にリーダーシップを取ろうとしていないことを問題視。前進党はさまざまな問題に取り組むための憲法や軍部の改革などのアイデアを持っているとし、さらにアルコール産業や農業などの産業の独占支配の解体から、ミャンマー国境地域の「人権回廊」の構築と平和計画への支援を訴えていることを評価する。一方で王室に支援された軍政の既得権益層は簡単には負けを認めないだろうとし、新政権樹立までには数週間かかり、民主主義の獲得までにはさらに時間がかかるだろうと予想。それでもタイ人はようやく、国の将来により希望を持てるようになったと結論付けている。
Leadersの「タイの体制派の屈辱がアジアの民主主義を押し上げる」との記事では今回のタイの総選挙結果がアジア各国にどのような影響を与えるかを論じている。タイは1932年の立憲革命以来、13回ものクーデターがあったものの、ミャンマーとは違うとした上で、「東南アジア第2の経済国であり、世界で唯一の事実上の軍政下にある上位中所得国だ」と表現。また、タクシン元首相について農村を地盤とするそのポピュリズムと王室に対するあいまいな態度により、民主主義のチャンピオンになれなかったとの見方を示す。一方、前進党のピター党首の総選挙の勝利はその他の地域で苦闘する民主主義を鼓舞するだろうと強調。中国の抑圧やロシアのウクライナ侵攻のおかげで、多くのアジアの国で独裁主義が力を失いつつあり、バングラデシュ、カンボジア、インド、インドネシアで選挙が近づく中で、さまざまなレベルで民主主義が試され、タイの民主派の挑戦が良い前兆になると論評している。
TJRI編集部
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