バッテリーの主戦場はアジア、インド禁輸のコメ市場への影響

バッテリーの主戦場はアジア、インド禁輸のコメ市場への影響

公開日 2023.08.08

英エコノミスト誌7月22日号はアジア面で、電気自動車(EV)用バッテリーのアジア市場の動向を分析している。タイトルは、「中国を除いたバッテリーサプライチェーンは不可能に見える」だ。同記事は、40年前にリチウムイオン電池を開発し、ノーベル化学賞を受賞したジョン・グッドイナフ氏は2018年のインタビューで、「私は世界の高速道路からすべての排気ガスを取り除きたい」と語ったと記事を始める。グッドイナフ氏はその夢が現実化する前の今年6月25日に死去した。しかし、世界各国政府はその取り組みを強化し、結果も出ており、EVの世界販売台数は2022年には1000万台を超え、2019年比で4倍になったという。

一方で同記事は、リチウムイオンバッテリーの世界需要を満たすためにはその原料供給を今後10年間、毎年3倍に増やさなければならないと指摘。特に米国は2030年までのEV目標生産台数を満たすためにバッテリーが数千万個必要になるが、ライバルの中国がバッテリー原料の加工、バッテリー生産では世界最大であるため米国のEVサプライチェーンの維持に脅威となるなど、「バッテリー生産が“新たな冷戦”の最も重要な戦場の1つだ」との見方を示す。

そして、この戦争の結果はバッテリーサプライチェーンの基地となっているアジアで決まるとした上で、その最初のボトルネックは最も重要な2つのバッテリー原料であるリチウムとニッケルの生産・加工だと強調。2022年のリチウム生産の約半分はオーストラリア、30%はチリ、15%が中国で、一方、ニッケル生産では48%をインドネシアが占め、残りはフィリピンが10%、オーストラリアが5%だと説明している。

そして、2035年までにEV用に270万トンのニッケルが必要になるとの大手コンサルタントPWCの予測を引用した上で、インドネシアは現在、160万トンしか生産しておらず、その大半はステンレス製造に使われているとし、「インドネシアのニッケル生産独占自体が潜在的なボトルネックだ」との認識を示す。そして、中国が世界のニッケルの約4分3の精錬・加工を行っており、中国を抜きに作ることが最も難しい分野だとする。さらに、中国はリチウム加工能力の3分の2を占めており、中国国外での加工でも中国企業がかかわっているとしている。


8月4日付バンコク・ポスト紙(ビジネス4面)は「コメ市場に複数の逆風が吹いている」というタイトルの1問1答形式の解説記事を掲載している。同記事は、世界は食料危機の高まりに直面しているとし、その原因としてエルニーニョ現象による気温上昇、ロシアとウクライナ戦争によるウクライナの穀物輸出の障害、さらにここにきて世界最大のコメ輸出国インドの白米輸出禁止が加わったと指摘。コメは世界の人口の約半分にとって不可欠の食品であり、国内価格の安定を目的としたインドの禁輸措置は、タイにコメ産業にも潜在的なインパクトになるとの懸念が高まり、タイの国内価格も10%上昇する可能性があるとの見方を示した。

こうした状況に対し、タイ国内でコメ不足が起こるかとの設問に対し、「タイは、コメ生産では毎年、国内消費を上回る国内生産能力がある」「価格上昇が農家のコメ生産継続の動機となる」などとし、懸念する必要はないとする。さらに、タイはコメ輸出を禁止する必要があるかとの設問には、タイは国内消費と輸出を賄うだけのコメ余剰があり、禁輸の必要はなく、むしろ禁輸は長年の高品質のタイ米に対する輸入国の国際的な評価を損ねる可能性があるとのタイ・コメ輸出業協会のチューキアト名誉会長の見方を紹介している。


4日付バンコク・ポスト紙(ビジネス3面)によると、タイ政府は、タイを東南アジア諸国連合(ASEAN)のロジスティクスのハブにし、産業をスマートでグリーンな産業に転換するための支援を求められているという。タイ・ロジスティクスサービスプロバイダー連盟のスウィット会長は、タイはラオス、カンボジア、ミャンマーと接続可能な空路と道路というインフラがあり、地政学的条件が良好であり、ASEANのロジスティクスハブになれるよう、タイの新政権が真剣に取り組むことを望んでいると訴えた。さらに、ラオスと中国を結ぶ高速鉄道が中央アジアへの移動日数を60日から15~16日間に短縮し、欧州にもつながると強調した。

TJRI編集部

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