公開日 2023.12.13
ひろぎんホールディングス(HD)傘下の広島銀行は11月28日、バンコク市内のホテルで、「第12回<ひろぎん>バンコック広友会」を開催した。取引先企業などとの交流を深めるこのイベントは、新型コロナウイルス流行期間中は中止されており、4年ぶりの開催となった。第1部のセミナーではまず、ひろぎんHDの部谷俊雄社長が開会あいさつで同グループの現状を報告した。続いて山田コンサルティングのタイ法人「YAMADA Consulting & Spire(Thailand)」の吉越廉朗社長兼CEOが主に在タイ日系企業の動向について講演したほか、広島港、福山港、広島国際空港のプレゼンテーションもあった。今回は吉越氏の講演の一部を紹介する。
吉越氏は「コンサルティングの現場から見た企業動向」と題する講演でまず、タイ経済の概況、そしてタイにおける日系企業進出の歴史を簡単に紹介。その後、同講演の本題である「コンサルの現場で多いご照会」で多い事例について1つ1つ丁寧に説明した。
まず、「照会-その1」は「市場調査」だとし、依頼の背景として「タイに進出をしようと思うが、どんなビジネスが通用するか分からない。もしくは、もう既にタイに出ていて新しい事業分野に出たいが、そもそもどのくらいの市場規模で、どんな人が戦っていて、どういうお客さんの志向があるか分からない」といった相談を多数受けていると指摘。競合他社も意識しなければいけないので、自社の名前を開示せず、代わりにコンサルティング会社が情報を集めて経営の判断にしていただく形でお手伝いをしていると説明した。
また市場調査がなぜ重要なのかについては、野村総合研究所の「海外展開に失敗した理由」に関する興味深いアンケート調査(複数回答あり)を引用。「販路を十分に開拓できなかった(52.6%)」「現地ニーズに合わせた商品・サービスを提供できなかった(48.7%)」「既存の商品・サービスが現地ニーズに合わなかった(22.4%)」「現地の生の情報を取得できなかった(13.2%)」と市場調査不足が原因となるケースが上位に入っていると報告した。
そして、「照会-その2」では「タイのパートナー探索」を挙げた。吉越氏は「御社は何が得意で、タイで何をしたら成功すると思っているか」を確認した上で、勝てそうな領域に対してどこが対象先に上がるのかをリストアップし、絞り込むことで、最終的に打診する先を決めていただくなどのステップを説明した。
「照会-その3」では「ジョイントベンチャーの組成方策」を挙げ、ジョイントベンチャーは「経営権を保持でき、事業パートナーのノウハウが活用でき、事業リスクを分散できる」のがメリットだと指摘。一方で、「9割日本の技術を持ち込んで日本側が営業をするのに、51パーセントもタイ側が保有してるというミスマッチ」が将来的な歪みになり、うまくいかなかったケースとなり、「それぞれの役割分担に応じた株式保有割合とするのが1つポイントになる」と訴えた。
そして、ジョイントベンチャー交渉時に留意すべき点として、「組む相手を吟味し、名義借りはしない」「自社のみならず、タイ企業にもメリットあるか」「タイに表敬訪問はない。交渉は一発勝負」「事業経営の決定権者と話をしているか」「できればマジョリティー(過半数)を押さえる」「現地経営を任せることができる人材がいるか」などを挙げた。
また、「照会-その4」の「パートナーからの株の買い戻し」では、「適正な株式の買い戻し価格」が重要だとした上で、買い戻し交渉時の留意点として、「タイ進出時の、タイ側パートナーとの合弁に至る背景・交渉経緯をできるだけ詳細に把握」「自社の誰が、どういうタイミングで、どういう条件で株式譲渡を申し入れるのか、よく戦略を練ってから交渉に臨む」ことが重要だとアドバイスした。
そして吉越氏は、最も問い合わせが多いのが企業合併・買収(M&A)だとし、「2000年以降、日本企業によるタイでのM&A件数はコロナ前までは右肩上がりで増えていた」と紹介。ただ、「このグラフにはジョイントベンチャー、買収、少数持分取得、増資が含まれており、純粋なM&Aは153件(2000~2022年8月)にとどまる」と説明した。さらに同期間の日本企業のM&Aを業種別のシェアでは、「不動産(25%)」「情報通信・サービスその他(16%)」、「建設/資材(8%)」などが上位だったと報告した。
さらに、2016~2023年第3四半期の日本企業のタイにおけるM&Aのみのデータでは、「2021年は1件しかなかったが、コロナが明けた2022年は12件、2023年第3四半期までで7件と順調に回復している」と指摘。また、2022~2023年10月までの日本企業のタイにおけるM&A(20件)の業種別シェアは、「工業製品・サービス(25%)」「化学・原料(25%)」「金融サービス(15%)」「消費財(10%)」の順だったことを明らかにした。
一方、吉越氏はタイ企業による国内外でのM&A取引件数(In-out、In-in)の推移のグラフも紹介した。これは主に財閥企業や上場企業などタイ企業が2022~2023年10月に国内外で行ったM&Aの件数だと説明。業種別では「エネルギー&再生可能エネルギー(17%)」分野がトップ。続いて「工業製品・サービス(13%)」「金融サービス(12%)」「コンピューター・ソフトウエア(8%)」「食品サービス(5%)」「ロジスティクス(5%)」などの順だった。
そしてM&Aに関する現状説明の最後に、山田コンサルティングがタイで手掛けている進行中のM&A案件を紹介。
①日系製造業が、「自社事業とのシナジー効果を最大化できる事業を買収し、成長速度を加速させたい」という案件では、「タイ現地企業の買収支援とバイサイドの金融アドバイザリー」を担当
②日本の製造業が、「EV化を見据え、技術的に近い分野の事業を買収し、自動車に対する依存度を下げたい」という案件では、「市場分析、パートナー候補のリストアップ、個別交渉、パートナー企業の株式の一部取得」を担当
③非日系の工業用品製造業が、「工業用材料を製造する企業が後継者不足のため後継企業を探索」する案件では「タイ現地企業の日系企業への売却支援、セルサイドの金融アドバイザリー」を手掛けているとした。
吉越氏はこのほか、「コンサルの現場で多い照会」事例として、「不正対応」「吸収合併」「タイの自動車業界の動向」を取り上げている。そのうち、吸収合併については、タイでは従来、吸収合併はなかったため、合併をする場合には新しい会社を作って双方の資産や負債を譲渡しなければならず、「新設合併」「事業譲渡」の形しかなかったと指摘。その問題点としては、移したあとの会社は必ず清算しなければならず、清算は2年ぐらいかかる大変な作業で、これがネックとなって合併がなかなか進まなかったと説明した。
しかし、今年2月に法律改正があって吸収合併ができるようになったことが非常に大きく、問い合わせも多いと述べた。その上で吸収合併のメリットは、「許認可・ライセンスの再取得の手間を減らせる」「新設合併で求められる両社の全従業員からの合併に関する同意が不要となり、吸収合併では存続会社従業員の合意も不要」「消滅会社の清算手続きが不要」になることで、非常に合併のハードルが下がったと報告した。
TJRI編集部
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