カテゴリー: ビジネス・経済, カーボンニュートラル
公開日 2023.05.10
バンコク都と横浜市、日本の環境省、一般社団法人・海外環境協力センター(OECC)は3月2日、「バンコク・横浜City-to-City(都市間連携) プログラムに基づくネット・ゼロ・エミッション・ビジネス機会」と題するワークショップの第2回をバンコク都内のホテルで開催した。目的は気候変動対策や「バンコク気候変動マスタープラン2021-2030」の実行状況とその成果を報告するとともに、日タイ間で低炭素・脱炭素技術の知見を交換・共有することなどだ。
同ワークショップではまず、この日参加できなかった横浜市の山中竹春市長のメッセージを、同市国際局長の橋本徹氏が代読した。山中市長は「バンコク都と横浜市は、昨年7月から脱炭素化に向けた都市間連携プロジェクトをスタートさせた。11月にはタイ、日本から120社を超える企業に参加いただき、脱炭素ビジネスについて第1回目のワークショップを開催した。第2回となる本日のワークショップが、イノベーションやビジネスチャンスの創出につながることを願っている」とこれまでの経緯を説明。
各地でグリーントランスフォーメーション(GX)が進む中で、2027年に横浜市で開催予定の国際園芸博覧会「GREEN×EXPO 2027」では「Nature Based Solution(自然に根差した社会課題の解決)」とのメッセージを世界に発信していくとした上で、バンコク都と横浜市は「ともに国内の脱炭素化をリードする都市として一緒にアジアの持続可能な発展に力強く貢献していきましょう」と呼びかけた。
続いて環境省の小野洋地球環境審議官が登壇。「日本政府は、2050年までのネットゼロ達成目標に対応し地域レベルでの脱炭素化対策を整備するために2021年6月に地域脱炭素ロードマップを策定した」とした上で、このロードマップを実行する具体策として環境省は、国家目標として、2030年までにネットゼロ達成を目指す「脱炭素先行地域」を100以上の地域に指定する計画だと説明。こうした先行地域の1つとして、横浜市は事業・商業地区での革新的な脱炭素化モデルを提供していると紹介した。
さらに、環境省が資金提供する「国際都市間連携プログラムでは過去10年間で20の日本の地方自治体と世界の45都市・地域がパートナーになった」と報告。その1つの例が、バンコク都と横浜市間の連携であり、バンコク都の気候変動マスタープランに基づき、国際協力機構(JICA)の支援の下、横浜市はバンコク都の「エネルギー分野行動計画」とマスタープラン実行において特定された軽減プロジェクトの開発に協力してきたことを強調した。さらに、「都市間連携」からの経験と教訓に基づき、環境省とJICAは先2月に他の主要関係者とともに、「クリーンシティー・パートナーシップ・プログラム」を開始したことを明らかにした。
バンコク都からは、チャチャート知事自らが開会あいさつに立ち、「気候変動の実施では多くの問題解決でバンコク都は公共部門、民間企業、国際機関との協力を重視しているが、最も重要なのは市民との協力だ。企業レベルの協力で、天然資源・環境省と共同で委員会を立ち上げ、バンコク地域の環境管理業務を推進し、微小粒子状物質(PM2.5)の問題を解決することを目指している。これは温室効果ガス排出量の削減にも役立つと考えられる。また、バンコク都は温室効果ガス管理機構と協力し、カーボンフットプリントプロジェクトを実施し、二酸化炭素排出量を算出している」と報告。
ワークショップについては、「日本の環境省の支援による横浜市との協力で、バンコク都庁が温室効果ガス排出削減対策を徹底的に実施し、新しいバンコク都マスタープランの目標を達成できるように推進する。また、バンコクが技術やイノベーションを具体的に活用できるよう、タイと日本の機関や企業の協力を促進する」と改めて訴えた。
バンコク都の気候変動対策を報告する「全体セッション1」ではまず、バンコク都庁環境局のウォラヌット・スアイカーカーオ副局長が、バンコク都がJICAの協力を得て策定した「バンコク気候変動マスタープラン2021-2030」について講演。「バンコクは持続可能な開発に向けた全国的な協力のもと、緑豊かで住みやすく、気候変動に強い都市へ向かう」のがビジョンだと強調。2050年には「バンコクを住みやすく革新的な都市として、ネットゼロエミッション達成への取り組みを推進し、全ての面でレジリエンスを高めていく」と訴えた。
その上で同副局長は次の4分野における温室効果ガスの排出削減・吸収の施策を説明した。
(1)運輸・交通分野
バンコク高架鉄道BTSや地下鉄MRTの路線延伸、MRTの新路線追加、公共交通機関への接続性の向上、公共バスやタクシー、ソンテウ(乗合タクシー)を低公害車(LEV)への変更など。また現在、電気バス「BMA Feeder」により乗客を鉄道駅まで送るシャトルバスサービスを提供している。
(2)エネルギー分野
LED照明への変更をはじめ、省エネ機器の導入によるエネルギー効率の改善、太陽光発電の屋上設置などを推進。バンコク都の付属病院の建物に試験的に太陽光発電を導入した。
(3)ゴミと排水の管理分野
廃棄物処理と、排水処理の2つあり、廃棄物は発生源で削減・分別し、排水は処理システムで収集する。
(4)緑の都市計画分野
公共空間における緑地の増加、100万本の木を植えるプロジェクト、マングローブ林再生など。
続いて長年、バンコク都の環境対策に協力してきた国際協力機構(JICA)タイ事務所の鈴木和哉所長がバンコク都とJICAの連携の現状と将来について講演。バンコク都市圏でのJICAのプロジェクトについて、全体の水供給量の92%はJICAが支援した水処理システムを通じて供給されたものであり、チャオプラヤ川に架かる22の橋のうちの15にJICAは協力、さらに2016年時点で大量高速輸送機関(MRT)の39%に対しJICAは支援してきたと報告した。
その上で、バンコク都の気候変動対策への協力は3つのフェーズに分かれており、「第1フェーズが2009~2013年で、日本の専門家も参加する小さなグループでバンコク都のマスタープランについて議論」し、2013~2015年の第2フェーズでは、第1回マスタープランを策定。2017~2022年の第3フェーズではマスタープランの更新と2050年を目標とする長期計画を作ったと説明した。さらに現在は2030年までのマスタープランを策定しているという。
そして横浜市との協力では、「バンコク都の職員が横浜市を視察し、経験や知識を共有した」と述べた上で、横浜市でのごみ収集方法を視察し、バンコク・スクンビット通りでも実践したことや、微小粒子状物質「PM2.5」の削減対策での協力について報告。
さらにバンコク市内の渋滞解消では、「Area Traffic Control」システムをバンコク都に試験導入し、特に渋滞のひどい地域から実証試験を始め、他の地域にも拡大していくとの方針を明らかにした。その上でJICAは今後も、①PM2.5の影響削減 ②「Action for Climate Empowerment」の実行 ③「住みやすいバンコク」の実現-という3つのテーマでバンコク都に貢献していくと訴えた。
「全体セッション2」のテーマは「カーボンクレジットとESGファイナンス」で、主な日タイ関係政府機関から現在あるカーボンクレジットの活用方法などについての専門的なプレゼンテーションが行われた。タイ側からはまず、タイ温室効果ガス管理機構(TGO)が自主的な排出削減プログラム(T-VER)について、また、タイ発電公社(EGAT)が再生可能エネルギー証書(REC)について、その仕組みや課題を報告した。一方、日本の海外環境協力センター(OECC)からは、「カーボンクレジットの品質に関するトレンドと企業のネットゼロの主張」とテーマとする講演があった。
さらに、午後のグループセッションでは「エネルギートランジション(水素、アンモニア、CCUSなど)」をテーマとするセッションAと「スマートシティーと電気自動車(EV)を含むエネでルギー・マネジメント・システム」をテーマとするセッションBで、日タイの民間企業の取り組み報告があった。登壇したのはタイ側からサイアム・セメント・グループ(SCG)、不動産開発大手セナ・デベロップメント(SENA)、再生可能エネルギー事業やEV関連事業を手掛けるエナジー・アブソルート(EA)、タイ輸出入銀行が登壇。一方、日本からは日揮(JGC)、EV製造のベンチャー企業FOMM、東京センチュリーがプレゼンテーションを行った。
TJRI編集部
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