公開日 2024.02.05
タイ内務省地方自治局(DLA)、デジタル経済社会省傘下のデジタル経済振興庁(DEPA)、国際協力機構(JICA)は昨年11月22~23日、クイーンシリキット国際会議場(QSNCC)で行われた「タイランド・スマートシティEXPO 2023」の一環として、国際ワークショップ「すべての人のためのスマートシティ:包摂と持続可能性の推進」を開催した。これはタイなど東南アジア諸国連合(ASEAN)、日本、国際・地域機関などのスマートシティ計画の担当者が一堂に会して、知識の共有化を通じて政策の方向性を提言するのが狙いだった。イベントでは23日に、会津若松市、福岡市、高松市などの日本の先駆的スマートシティを紹介するセッションもあったが、今回は22日に行われた開会式と、タイのスマートシティとグローバルなトレンド・チャレンジ・オポチュニティー」と題するパネルディスカッションの様子を紹介する。
目次
開会式ではまず、デジタル経済振興庁(DEPA)シニア執行役のパサコーン・プラトンブット氏があいさつし、「タイでは2018年から、市民のニーズを優先した市民中心のスマートシティ開発が始まっている。われわれのフォーカスは大都市だけにとどまらず、全国のすべての都市を対象としており、『だれ一人取り残さない』という東南アジア諸国連合(ASEAN)のテーマに沿ったものだ」と強調。「スマートシティ開発における重要なキーワードは、『市民中心』『データ主導』『共創』だ。タイでは税制措置を通じて、民間部門が都市のリーダーと協力してスマートシティを開発することが奨励されている。さらに、タイは経験を交換するために、国際協力機構(JICA)とパートナーシップを結んでいる。今後も新たなパートナーシップを構築していきたい」と訴えた。
また、「スマートシティ開発には7つの側面があり、その中ではスマート環境は重要な要素だ。都市は環境の影響を受けるからだ。また、都市は温室効果ガス排出量の70%を発生させているため、持続可能な発展に対する責任がある」との認識を示した。
次に、国際協力機構(JICA)タイ事務所の鈴木和哉所長が登壇。「タイ内務省地方自治局(DLA)やDEPAとのスマートシティ開発への協力は、すべての人に役に立つスマートシティ開発を推進するというわれわれのミッションの中核だ。スマートシティは主要都市だけではなく、中小規模の都市やコミュニティーにとっても重要だ。われわれが共有するビジョンは、テクノロジーを活用して生活の質を高め、環境を保全し、利用しやすい公共サービスを提供、現在と次世代のためにより良い生活空間をつくることだ」と主張。また、「タイと日本は所得格差や少子高齢化、大都市と中小都市の不均等な成長などの課題に直面しているが、スマートシティはこれらの複雑な課題に対処する革新的な方法を提供できる」と訴えた。
続いて、在タイ日本大使館の西岡達史次席公使は「日本政府は、タイをはじめとするASEAN諸国とスマートシティにおける協力の強化に取り組んでいる。具体的には、日ASEAN相互協力と日ASEANスマートシティ・ネットワーク・ハイレベル会合による海外スマートシティを促進する『Smart JAMP』プロジェクトなど、注目すべき取り組みがある」と説明。今後さらに協力関係が強化され、両国の取り組みはさらに大きな成功を収める可能性があるとした上で、日本の知識と技術はタイの課題解決に貢献できる一方、日本はタイの経験から貴重な知見を得ることができるなどとアピールした。
開会式の後に行われたパネルディスカッションではまず、JICA シニアエキスパートでDLA アドバイザーを務める是澤優氏は、タイにおけるスマートシティ開発の将来について、課題を指摘するとともに10項目の政策提言を行った。その主なものは次の通り。
・地域の即時課題解決に向けた地域中心のアプローチ:地域の課題を優先することで、住民の生活の質に直接貢献する効果的なスマートシティ・ソリューションを実現
・平等な発展と地域の成長の促進:大都市だけでなく、中小都市も対象とし、中小都市や地方への投資は、バランスの取れた発展を促進し、地域格差を縮小し、経済の安定を強化
・都市全体における気候変動へのレジリエンスと適応力を最優先:世界中、特にタイや日本のような自然災害の多い国で重要
・バランスの取れた発展のために中規模都市に活力を与える: 日本とタイは共通の課題を抱えており、その1つがバンコクや東京、大阪などの大都市と、地方の小都市やコミュニティーとの格差であり、中規模都市はバランスの取れた開発を実現する上で非常に重要な役割を担う
国連人間居住計画(UN-Habitat)のバンコクオフィスでASEANチームリーダーを務めるリカルド・マロソ氏は、スマートシティのグローバルトレンドについて、「現在、世界が直面しているメガトレンドは、デジタル化、気候変動、人口動態の変化、都市化だ。スマートシティはこれらの要因が集約される場所であり、デジタル技術で人々の生活を向上させ、社会経済成長を促進するソリューションに変換されなければならない」と述べた。
同氏は、UN-Habitatの役割と活動内容について、「人間中心のスマートシティ」と呼ぶ人間の居住に焦点を合わせたフラッグシッププログラムに取り組んでおり、グローバルな支持活動や各国政府の能力開発・アドバイザリーサービス、資金アクセスへの支援など、幅広いサービスや実践を行っていると説明した。
そして、UN-Habitatは活動の例として、廃棄物がどのように発生し、収集・管理されているかを都市が分析するためのツールとなる「waste-wise cities」を提供しており、タイではチョンブリ県で採用されていると報告。また、ソンクラー県ハートヤイでのスマートシティプロジェクト開発では、デジタル・アプリケーションを通じて安全・安心を向上させるために技術を支援しており、ハートヤイは、都市管理を改善するためのツールとして、CCTVカメラの導入に取り組んでいることを明らかにした。
東南アジア諸国連合(ASEAN)のコネクティビティー部門ディレクターのLim Chze Cheen氏は、「ASEANスマートシティネットワーク(ASCN)」を紹介した。ASCNは「ASEANのスマートで持続可能な都市化へのアプローチの1つであり、各国政府及び都市が交流し、パートナーシップや提案、共同でできる行動について話し合い、協力するためのプラットフォームを提供している。現時点で加盟しているのは29都市で、約86のプロジェクトがある。プロジェクトは6つの分野に分かれており、中心は市民社会、建設インフラ、環境に関するものだ。都市が利用可能な資金調達を提供するASEANスマートシティ投資ツールキットなど、都市のニーズを強化・支援することにも取り組んでいる」と説明した。
さらに、スマートシティは大都市だけではなく、中小規模の都市も対象とすべきであり、すべての都市がそれぞれの方法でスマートシティとなり、ASEAN地域全体で発展していくことを期待していると表明。これを実現するために、さまざまなパートナーと協力していきたいと訴えた。
パネルディスカッションにはタイから、DEPA執行役のパサコーン氏が参加。スマートシティ開発における世界の主要トレンドとして、①急速な都市化の進展:タイでは人口の50%以上が都市に移動しているため、渋滞や公害などの問題が生じている②持続可能性の重視③市民中心のアプローチ④テクノロジーの到来:特にAIについては、人間の仕事に取って代わると懸念する人がいる一方で、メリットをもたらすと考える人もおり、諸刃の剣と見られている−という4つを挙げた。
その上で、パサコーン氏はスマートシティ開発の課題について、①資金不足:インフラには多額な投資が必要②既存インフラと新設インフラの統合:既存の都市インフラに新たなインフラを追加③データのセキュリティとプライバシー:現在すべてのものがデータに大きく依存④新技術に対応するスキルの格差:すべての人がデジタル機器に利用できるわけではなく、デジタルデバイド(情報格差)が生じる可能性⑤平等とインクルージョンの維持:だれ一人取り残さない⑥連携と協力の不足:スマートシティ開発にはさまざまな部門と協力するのが必要−という6つあると説明した。
パサコーン氏は最後に、「スマートシティにはデジタル関連産業であるIoTやセンサーなどの技術が必要であり、各都市の市民の生活の質を向上させることと同時に、経済成長を促進することを目指している。スマートシティは、現在都市が直面している多くの課題を解決する可能性を秘めており、コラボレーションはそれを実現するための重要な鍵となる」と訴えて、締めくくった。
TJRI編集部
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