環境変化をチャンスに〜タイのマーケティング産業の発展に向けた挑戦

THAIBIZ No.148 2024年4月発行

THAIBIZ No.148 2024年4月発行タイで成功する日系企業デンソーのWin-Winな協創戦略

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環境変化をチャンスに〜タイのマーケティング産業の発展に向けた挑戦

公開日 2024.04.10

タイで変革や挑戦に立ち向かう日系企業の駐在員に迫る新連載。第1回は、広告会社大手博報堂グループのタイ法人Media Intelligence Group(以下、MI GROUP)で取締役を務める利根川公司氏に駐在員としてのミッションと帰任までに成し遂げたいことなどについて話を聞いた。

グループ全体の競争力を高めシナジーを生む

Q. MI GROUPの事業内容を教えてください

博報堂が初めてタイに進出したのは1973年、昨年50周年を迎えました。現在タイでは、ホールディングス会社であるHakuhodo International Thailand(HIT)の傘下に12の事業会社を展開し、1,000人近くの従業員を抱えています。私が所属するMI GROUPは、1999年に博報堂グループとタイの消費財大手サハグループとの合弁で設立、タイに根ざした経営で今年25周年を迎えます。HIT傘下のグループ全体でマーケティングや広告などの支援をしていますが、当社は主にメディアプランニングやTVなどのマスメディア、YouTubeやFacebookなどのデジタルメディア、OOHメディア(Out of Home)など、全てのメディアの広告枠の買い付け、販売を行っています。

「利根川氏(左上)とMI GROUPの役員メンバー」出所:博報堂

Q. MI GROUPの取締役としてどのような取り組みをしていますか

当社はタイ人CEOを筆頭に約120人のスタッフがおり、その中で日本人は私1人です。MI GROUP内では取締役 Chief Synergy Officer(CSO)として会社経営に携わっています。私の駐在員としてのミッションは3つあります。1つは、博報堂側の代表・拠点長として、タイ人CEOと拠点経営をすること。2つ目は、ソリューション開発をすること。例えば日本にあってタイにないソリューションがあればどんどん移転する。結果として、MI GROUPの成長はもちろん、博報堂グループ全体の競争力も高めることができます。3つ目は、海外進出支援事業の拡大です。タイ企業や在タイ日系企業が近隣諸国に進出する際に、博報堂の各国拠点と連携して、クライアント企業のメディアコミュニケーション面の支援サービスを提供しています。

Q. タイ駐在前と比べ仕事面での違いや変化は

まず、マネジメントとしての視座が一段上がりました。赴任前も部長職としてマネジメントには携わっていましたが、タイでは拠点の経営数字を見ながら、次のアクションプランを考える必要があり、経営者視点で会社全体を見るようなりました。実は、赴任前にスペインのIE Business schoolでExecutive MBAを取得し、次のキャリアとして経営面に携わることを目指していた絶好のタイミングでタイ赴任が決まったので、思い描いていたキャリアを歩めていることを有難く感じています。ソリューション開発と海外進出支援については、日本では経験していなかった業務なので一から取り組んでいる状況です。また、個人的には、自身の今後の社会への貢献として後進の育成に取り組みたいと考えており、現在ビジネスやキャリアのコーチングトレーナーになるための勉強をしています。

環境変化は苦労ではなく、むしろ発見

Q. タイのビジネス環境やタイ人の仕事に対する姿勢で日本との違いは

タイと日本では、メディアの特性や広告業務の進め方などそもそもの前提が異なるため、日々タイ人スタッフから教わることばかりです。また、日本以上にコミュニケーションの大切さを感じています。日本の場合、仕事の中身やアイデアの議論が重視されますが、タイ人の場合はそれよりもお互いの関係性を重視する傾向にあると感じています。

Q. ビジネス環境の違いで苦労した点、またどのように克服したか教えてください

苦労と感じたことはなく、私がタイに来ている立場なので、むしろ一つひとつが発見だと思っています。そのため“克服”とは捉えていないですが、「タイだから仕方ない」と環境のせいにしないように心がけています。「タイだから」で片付けてしまいたくなることも、よく噛み砕いて話を聞いてみると、単にプロセス上の問題だったということもあります。また、お互い第二言語の英語で会話をしているので、複雑な話になると認識の違いが出ることもあります。そこで、私はもともと図解が得意ということもあり、絵を描いて説明をします。絵に描いて確認すると苦手な第二言語同士でも、同じ図を見て話をすることで的確に意思疎通を図ることができます。

環境変化をチャンスに〜タイのマーケティング産業の発展に向けた挑戦

日本からタイ、そして周辺地域のビジネスを活性化

Q. 帰任までに成し遂げたいことは

大きく2つありますが、第一に、MI GROUPの次の成長の柱を作ることです。TV広告をはじめとするメディアの収益は今後どんどん縮小していくことが予想され、CEOを筆頭にどのように3本目、4本目の柱を作っていけるか戦略を立てています。その中で、海外進出支援事業がその一つになるのではないかと考えています。博報堂のナレッジをタイのコアメンバーに移転し、さらに彼らがタイやミャンマーなど他地域のローカルスタッフと連携し、そのナレッジを使ったビジネスが生まれつつあります。現在メコン領域を中心に取り組んでいますが、仕組みとして広がっていくことで、周辺地域のビジネス活性にもつながることを期待しています。

2つ目は、日本のソリューションをタイに浸透させ、タイのマーケティング産業の発展に貢献することです。例えば、現在日本では博報堂DYグループが広告メディアビジネスの次世代型モデルとして「AaaS(Advertising as a Service)」を提唱しており、タイでも去年から導入をはじめています。AaaSとは、従来の「広告枠」を売るビジネスモデルから、データやシステムなどを活用し広告効果を可視化することで、広告主の「メディア投資対効果」の最大化を目指します。このような考え方は広告業界では今後より世界的な潮流となっていくと捉えており、AaaSの浸透を推進することでタイのマーケティング産業の発展に貢献したいと考えています。

Q.最後に駐在員として最も重要な役割について考えをお聞かせください

駐在員としていざ自分が経験してみると、職務内容は多岐にわたり、想像していた駐在員像と全く異なり刺激を感じる日々です。もちろん本社への報告業務はありますが、それは役割ではなくタスクです。私はこれまでの18年の業務経験をフル活用した時にタイ(駐在国)にどう貢献できるか考えて、それを実行することが駐在員の役割だと考えています。自身の過去の経験・ケーパビリティをフルに投入して、その国の“何に”貢献出来るかを考えることで、その人にしか出来ない唯一の価値貢献が出来ると信じているからです。私が駐在している今は私にしかできないことを精一杯やるだけで、次の人にはその人にしかできないことが必ずあります。それをいかに実行できるかではないでしょうか。


利根川 公司 氏
Company director / Board of Directors of Media Intelligence Group Co., Ltd.
HAKUHODO INC.

2006年博報堂入社後、営業職を経てマーケティング専門職へ職種転換、クライアント企業のマーケティング戦略や、ブランディング、新規開発プロジェクトなどを多く手がけた。2020年に統合プランニング部長就任。スペインのIE Business schoolでExecutive MBA取得後、2022年4月よりタイ法人MI GROUPに駐在。


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THAIBIZ編集部

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