社内インフルエンサーとなり意識改革に挑む〜大海原での奮闘、鍵は「行動変化」

THAIBIZ No.150 2024年6月発行

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社内インフルエンサーとなり意識改革に挑む〜大海原での奮闘、鍵は「行動変化」

公開日 2024.06.07

在タイ駐在員に共通する悩みの一つに、本社とタイ拠点の温度差がある。日本人駐在員として、そのギャップをどう埋めていけばよいのか。今回は、タイ日産自動車の千葉ゆりか氏に、タイでのミッションや苦難、それを乗り越えるための行動変化について話を聞いた。

着任時は、本社との温度差に焦燥感

Q. タイ日産自動車、千葉さんご自身について教えてください

弊社は1952年に設立され、他の日本車メーカーに先駆けてタイに進出した歴史があります。現在は自動車の生産、販売、部品の輸出、R&D、小売金融の5つの事業を展開。従業員数は約4,800名、うち日本人は60名ほどです。私は2015年に日産自動車に新卒入社し、日本国内やASEANの販売・マーケティング業務を担当。2022年4月にEVのマーケティング担当としてタイ赴任となりました。

2年間タイ国内でのEV販売と周辺ビジネスの業務に携わっていましたが、この4月に部署異動し、現在は社長業務秘書が主な業務です。

Q. 着任後、最も印象的だったことは何ですか

一番衝撃的だったことは、EVに関する、日本本社とタイの温度感の差です。日産自動車の中期経営計画「Nissan Ambition 2030」では「EVの販売を55%以上とすることを目指す」と電動化の推進を謳っており、本社ではEVに注力する雰囲気が出来上がっていました。

私の着任時のミッションは、タイで日産が販売する唯一のEV「LEAF」の認知拡大と売上の向上。しかし、いざ来タイすると、日産でEVを生産・販売している事実すら知らない社員が多く、電動化の必要性を認識している人もほぼいませんでした。中期経営計画の浸透度合いや取り組みの姿勢が国によって大きく異なることを、初めて目の当たりにした瞬間でした。

LEAFには、車内に貯めている電気を家や建物、さらには充電網にも逆潮流できる機能的な特徴があります。タイで販売されているEVの中ではLEAFのみが有する機能で、災害など有事の際にも役立ちます。存在や魅力を広めることができればニーズはあるはずですが、着任当初はタイ国内の販売の0.2%程度(約1,400台)に留まっていました。

LEAFの存在すら認識していないディーラー、認知はしていても「高いだけ」のイメージを持つお客様、電動化の意義よりもICE(内燃機関)車の拡販を優先する社員。

焦燥感を抱きつつ社内で理解促進を図ろうと試みるも、全体会議では議題にすら上げられず、ICEのほうへ原資はまわされ、当時新車であったにも関わらず予算の確保も困難な状況でした。

メルマガ配信やEV試乗会で徐々に社内の理解を促進

Q. EVの認知拡大や売上向上のために取り組んだことは

予算をかけずに、自分が出来ることは何か。知恵を絞った結果、まずは社内向けのメルマガ配信を開始しました。実際にLEAFを利用してくださっているタイ人のお客様インタビューなど、EVに関するコンテンツをゼロから作り、発信。最初は気恥ずかしい気持ちもありましたが、自分の顔写真を毎回掲載し、1年半ほど月一回の配信を継続しました。

また、日産EVのフラグシップモデルである日産アリアを一台、日本から取り寄せ、希望する社員に試乗機会を提供。タイ日産では初の試みだったため、関係部署との調整に苦労しましたが、乗り心地を体験してもらいながらEV戦略の概要や日産のEVの技術の説明を地道に行いました。約3ヶ月間にわたり130人以上の社員が試乗し、社内における日産のEV技術の理解促進機会となりました。

アリア試乗会での講座の様子
アリア試乗会での講座の様子

Q. 取り組みの成果は

日産アリア試乗後に実施したアンケート結果では、EVの重要性に対する理解度が4.4倍に向上したことが分かりました。また、顔写真付きのメルマガ配信の効果もあり、ディーラーの方や社内メンバーから「EVの人ですね」と声をかけてもらうことが増えました。私という一人の駐在員を通して、EVの認知や理解を広げられたのは一つの成果だと捉えています。

着任直後からタイ政府によるEV補助金政策が始まったことと、中国企業が積極的にEVを投入し始めたことから、EVの販売台数は2023年度実績で約8万台にまで伸びました。このような背景からLEAFだけでなく、日産のEV技術から派生したe-POWERを搭載した「Kicks」もプロモーションすることができ、大きな後押しとなっています。

Q. タイ人社員とのコミュニケーションに難しさを感じることは

共通言語は英語ですが、使う言い回しや表現の仕方が異なり、またタイ人社員にはタイ特有のアクセントがあるなど、着任当初はスムーズな意思疎通が難しい状況でした。また、私は感情的になると勢いよく話してしまう癖があるため、タイ人社員が萎縮して意見が言えなくなってしまったり、理解できなくても「分かった」と返事をしてその場を凌いでしまったり、決して良いとは言えないスタートでした。

そんな状況を改善するために、相手の理解度について丁寧に確認することを心がけました。時間はかかりましたが、個別対応と地道なフォローアップが功を奏し、徐々にタイ人社員とのコミュニケーションが促進され、私が求めなくても積極的に自分の意見や提案を述べてくれる人が増えたことは嬉しい結果です。

不安や批判を恐れずに挑戦することの大切さ

Q. 来タイ前と後で、駐在員の役割に対する意識の変化は

駐在未経験の赴任前は「駐在員=社内メンバーの管理や統括といったマネジメントを行う立場」というイメージがありました。一方で、いざ赴任してみると、肩書やポジションも関係なく自らがリードして、周囲を積極的に巻き込む力が求められるのだと痛感しました。

目の前に存在しているタスクを管理し、今現在の状況を維持するだけでは自分も組織も発展しません。ミッション実現のために、いかに三遊間を拾い、周囲を巻き込みながら具体的な行動を起こせるかが大切なのだと気づきました。

Q. 残りの任期で成し遂げたいことや今後の展望は

任期は残り1年間ですが、今年4月に部署異動し、現在は社長の秘書業務を担当しています。経営の視点から自動車のバリューチェーン全体を見る立場になったことで、戸惑いもありつつ視野を広げるチャンスとも思っています。将来的には経営に携わりたいと考えているため「インプットの年」だと捉え、社長の知識や思考を積極的に吸収すべく日々の仕事に向き合っています。

不明点は周りに頼りながら業務を進めていますが、幸いなことに「EVの千葉さんが依頼している」と、私の知りたいことを丁寧に教えてくれるメンバーに恵まれ、過去の自分の行動が良い形で今に繋がっていると実感しています。

決して積極的に周りを巻き込むタイプではなかった私が、タイに来て大海原に放り出されたことで、不安や批判を恐れずに新しい挑戦に一歩踏み出し、自分だけでなく周りにも変化の渦を巻き起こすことができました。とてつもなく勇気のいることでしたが、この経験は残りの任期含め今後のキャリアでも活かせると信じています。


千葉 ゆりか氏
Assistant General Manager / Technical Assistant to President ASEAN
Nissan Motor (Thailand) Co., Ltd.

2015年に、日産自動車に新卒入社。日本国内やASEANの販売・マーケティング業務等を経て、2022年4月にタイ日産自動車へ異動。タイ国内でのEV販売および周辺ビジネス業務を担当した後、2024年4月より社長業務秘書。

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THAIBIZ編集部

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