連載: 日系スタートアップ
公開日 2022.07.26
宇宙航空研究開発機構(JAXA)とタイ地理情報宇宙技術開発機関(GISTDA)が6月28日に開催した「日タイ宇宙ビジネスウェビナー・マッチングイベント」に参加した宇宙スタートアップ紹介の第3回は衛星データを主に農業分野で活用している「天地人」だ。
天地人は地球観測衛星データと人工知能(AI)を使って、地球をデータ化する「天地人コンパス」というサービスを提供しています。もともと「S-booster2018」でのトリプル受賞をきっかけに活動を始め、2019年にはJAXAのスタートアップに選ばれ、2020年には国内最大級の技術系スタートアップの支援組織『TEP』が主催する「J-TECH スタートアップ」に認定されました。昨年末にはオーストラリアで開催された「Gravity Challenge」というグローバルなコンテストでも部門優勝しました。
今、地球上で気候変動が問題となっていて、農作物が栽培できないエリアが出てきています。米国ではトウモロコシの収量が10~25%低下したり、英国ではポテトの農地の74%が栽培不適になったりしています。
天地人コンパスは、1つの衛星データを使って分析するのではなく、光学や気象系データ、地形データなど複数のサービスを掛け合わせてニーズに合わせて分析を行うのが特徴です。
サービスの中の「リスクマップ」という機能では、どこにリスクがあって、どこが良さそうかをひと目見て確認できるようになっています。もう1つは、ここがいい場所だろうというところを見つけた後、さらにピンポイントでどういうポテンシャルがあるのかを細かく衛星データで確認できるのも特徴となっています。
農業分野では、いい土地を探す、その土地に対して最適な品種を見つける、あとは病害虫のリスクを可視化するというところで天地人コンパスを活用して頂いています。
天地人コンパスでは農作物のリスクがひと目で確認できます。例えば富山県でリスクが高そうな場所を探すと、地表面温度や降水量がどうなっているのかをピンポイントで確認できます。2021年夏ごろ、昼の市街地で39度以上の温度となってリスクが高いことがすぐ分かりました。このように実際に行かなくても、センサーを置かなくても、すぐに世界中を確認できるデータベースを用意しているのが天地人コンパスのソリューションの一つです。
栽培に適していないので耕作放棄地になっている土地の場合でも、日照時間や日射量が多ければソーラーパネルを置いてエネルギーに変えるというビジネスのアクションも行えます。
タイでも例えば水上マーケットの近くのデータを実際に確認することができ、昼と夜の気温が安定していて平均30度未満で野菜が作りやすいというのが一発で分かる。世界中のデータを複数持って分析できるツールとして天地人コンパスを提供しています。
ニュージーランドでキウイフルーツを生産しているゼスプリ(Zespri)が九州でキウイの栽培ができるかどうか天地人コンパスを使って分析しました。九州をリスクマップで評価し、最適な場所をピンポイントのデータで確認してもらい、ゼスプリに非常に評価して頂きました。
日本の大手コメ卸の「神明」、アグリテックの「笑農和」と3社で衛星データを使ったコメの栽培をした事例では、日本の宇宙開発利用大賞で農林水産大臣賞を受賞しました。実際に水の温度管理で美味しいお米を作ること、ブランディングをすることでプロジェクトを進めました。収穫したコメの食味などを分析したところ、美味しいコメとなり、精米工場では収穫したコメが5日間で完売するというわれわれも驚くような結果となりました。
また海外で畜産の病害虫が増えるリスクが高い場所とタイミングを特定してアラートを出すというソリューションも提供しています。われわれは、地表面温度とか降水量、日射量を軸に分析して実際にマッピングしてユーザーに提供しています。
ビニールハウスメーカー「誠和」と明治大学の共同研究プロジェクトにもデータ提供しています。衛星データからビニールハウス内への影響を人工知能(AI)で分析し、そのデータを誠和に天地人コンパスAPI(Application Programming Interface)で提供し、最終的に農家に収量の予測データや実際の栽培管理のデータを提供しています。
このほか森林の種類や高さを分析している事例もあり、森に関してマップのような形でデータを可視化しています。現場に行かなくても森林管理の状況を把握し、カーボンがどのくらい貯蓄できているのかという分析も日本と欧州で行っています。
われわれは衛星データを使ってビジネスを進めたいという企業から問い合わせやニーズを聞いています。ビジネスモデルは必要なデータや分析方法をコンサルティングさせて頂いた上で、実際に天地人コンパスでPoC(Proof of Concept)として衛星データを使ってAI分析したデータを提示。お客さんのニーズに合っているかどうかを確かめながら提供するデータの精度を上げていきます。また、自社のサービスがあってデータだけほしいというお客さんにはAPIでデータだけ提供することもできます。
これまで衛星を2基開発している最高業務責任者(COO)の百束泰俊の宇宙の知見と、もともと土中の水分量を測定するIoTセンサーを開発していた私の2人で、双方のノウハウを掛け合わせてビジネス拡大できないかということで事業を始めました。今ではメンバーは40数人になっていますが、エンジニアや地理空間の専門家から農業系の専門家、気象環境の専門家もそろっています。天地人では、これらの技術を使って人類の文明を最適化し、国境や国とか関係なくニーズに合わせて必要なデータを提供、地球上が住みやすくなれるように貢献していきたいと思っています。
TJRI編集部
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