事業成長とM&Aの関係性

ArayZ No.134 2023年2月発行

ArayZ No.134 2023年2月発行タイ鉄道 - 新線建設がもたらす国家繁栄と普遍社会

この記事の掲載号をPDFでダウンロード

最新記事やイベント情報はメールマガジンで毎日配信中


    事業成長とM&Aの関係性

    公開日 2023.02.10

    まず本稿では、「事業成長とM&Aの関係性」について取り上げていきたい。M&Aは中期経営計画の1項目として掲げられることがあり「戦略」として取り上げられることもあると思うが、戦略というよりもあくまで何かしらの目標を達成するための「手段」であると考えている。

    例えば「売上を××億円伸ばしていきたい」という目標があるのであれば、そのためにどのような事業において何を新たに始めていくかを考えるべきであり、その後に「手段としてM&Aの検討」というものが来るべきだと考えている。しかしながら、実際の手順などは意外に語られる機会が少ないので、本稿で整理していきたい。

    ここで事業成長を「売上成長」と捉えるのであれば、図1のようなステップを取ることが想定される。

    事業成長の考え方の全体像

    この回では、①フレームワークなどを使って成長のためのオプションを検討する ②オプションに優先順位をつける について考えていきたい。

    フレームワークを使った考え方

    ここでは、前述の通り事業成長を売上の成長と捉えて進める。まずはどのような方向性を取るべきなのか、仮説を考えることが重要である。ブレインストーミングのようにまず自由にアイデア出しを行っていくのも1つの手ではあると思うが、フレームワークを使った方法もあるのでここでご紹介したい。

    様々なフレームワークがあるが、図表2のように商品およびチャネルの新規/既存をマトリックスにして事業成長を考える例をここでは取り上げたいと思う。

    事業成長の考え方の全体像

    商品/チャネルについて新規および既存を横に並べ、マトリックスを作る。それぞれのマス目で何ができそうかということを検討する。

    1. チャネル開拓 :同じ製品の新市場への展開
    2. 多角化 :新たなチャネルで新たな商品を販売する。既存事業からの シナジーが期待できないため、相対的にリスクが高い
    3. 市場浸透 :既存市場内でのシェアの拡大による成長
    4. 製品開発 :販売、投資、経営管理のシナジーの活用

    水産加工業者の例

    ここで水産加工品の製造及び販売を行う企業の例を見てみよう。エビのすり身を主にスーパー向けに提供している企業を例に出すと、図表3のようになる。

    水産加工業者の例から見る事業成長の考え方ステップ

    Aチャネル[既存]×商品[既存]では、現在のスーパーの水産加工品市場でシェアを高めていくことを考える。

    Bチャネル[新規]×商品[既存]では、まだ開拓できていないコンビニ向けの市場を開拓するなどが挙げられる。

    Cチャネル[既存]×商品[新規]でいえば、すでに展開しているスーパーで需要が拡大しそうな商品を取り扱うことが考えられる。また、

    Dチャネル[新規]×商品[新規]は基本的には難しいことが多いが、例えば在庫管理で使っているシステムを外販するといったようなことが考えられる。

    オプションの優先順位付けの例

    アイデアが色々とあったとしても、もちろん全てを実行するのは難しいため、優先順位を付けていく必要がある。優先順位付けを行うには外部環境の調査を行うことが有効であると想定される。

    優先順位付けには様々な方法があると思うが、例えば図表3の通り「市場・顧客」「競合・参入障壁」といったような項目を調査することが考えられる。例えば図表4のような結果が得られれば、Bチャネル[新規]×商品[既存]といった方向性が良いのではということになる。

    調査結果を元に取るべきアクションの例

    これは非常に単純な例ではあるが、調査結果を単に羅列するのではなく、そこから何が言えるのかを踏まえて、取るべきアクションを考えるのが望ましい。

    もちろん実際には、このような新たな取り組みのための調査に時間や費用をかけることが難しいことも往々にしてあり得る。しかし、この例でいえばスーパーの関係者や仕入れ業者へのヒアリング、SNSの口コミ調査など、時間や費用をそれほどかけずに自身が立てた仮説を検証していく方法もある。(実際に我々が市場調査を行う際もそのような手段を通じて仮説の検証などを行っていくケースもある)。

    ここまでは優先順位付けの話まで行ってきた。次回はオプションの実行にあたり不足する経営資源は何か、またそれをどのように補っていく手段があるのかといった点について解説をしていきたい。

    ※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする

    寄稿者プロフィール
    • 谷口 純平 Jumpei Taniguchi プロフィール写真
    • Deloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.
      Financial Advisory Services / Manager谷口 純平 Jumpei Taniguchi

      Deloitte入社以来、一貫してM&A・事業戦略をテーマに活動。特に各関係者の調整やスピード感を持ったプロジェクト推進で高い評価を得ている。主な実績は、大手ファンド向けBDDと事業戦略検討。総合商社のクロスボーダーM&AのPMIリードなど。2020〜22年8月タイ駐在。同年9月〜シンガポールに赴任。

      TEL:+65 (0) 8-763-6373
      E-mail: [email protected]


    • 柴 洋平 Yohei Shiba プロフィール写真
    • Deloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.
      Financial Advisory / Manager
      柴 洋平 Yohei Shiba

      大手生命保険会社、大手電機メーカーを経てDeloitte入社。M&A関連や事業戦略策定、マーケティング支援などのプロジェクトに従事。入社以来、金融・テクノロジー・ライフサイエンス・消費財・電力など幅広い業種における支援をリード。22年8月からバンコクに赴任、特にPre M&AやPMIに力を入れて活動中。

      TEL:+66 (0) 6-3079-4893
      E-mail: [email protected]


    Deloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.<Financial Advisory>

    Deloitteは会計・財務・税務・M&A等のサービスを世界各国で行うプロフェッショナルグループの一つであり、 主にタイの日系企業様向けにM&Aやリストラクチャリング/再編に関わるサービス提供を行っております。

    AIA Sathorn Tower, 23rd – 27th, Floor11/1 South Sathorn Rd. Yannawa, Sathron, Bangkok 10120

    https://www2.deloitte.com/jp/ja.html?icid=site_selector_jp

    Deloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.
    Financial Advisory Associate Director

    谷口 純平 氏

    商社を経て、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社。2020年からバンコク及びシンガポール事務所に出向。戦略策定からPMIまで、シームレスに事業成長をサポートできることが強み。

    【谷口 純平】
    +65 (0) 8-763-6373
    [email protected]

    Deloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.

    デロイトタイの日系企業サービスグループ(JSG)では、多数の日本人専門家を抱え、タイ人専門家と共に、タイにおけるあらゆるフェーズでの事業活動に対して、監査、税務・法務、リスクアドバイザリー、フィナンシャルアドバイザリー、コンサルティングサービス等を日系企業のマネジメントの皆様に提供しています。

    Website : https://www2.deloitte.com/th/en.html

    ArayZ No.134 2023年2月発行

    ArayZ No.134 2023年2月発行タイ鉄道 - 新線建設がもたらす国家繁栄と普遍社会

    この記事の掲載号をPDFでダウンロード

    最新記事やイベント情報はメールマガジンで毎日配信中


      Recommend オススメ記事

      Recent 新着記事

      Ranking ランキング

      TOP

      SHARE