ArayZ No.144 2023年12月発行メコン5における中国の影響拡大
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カテゴリー: ビジネス・経済, ASEAN・中国・インド
公開日 2023.12.09
前項(10月号)では、VinFastの米国での上場の状況についてまとめた。本稿執筆の11月末時点で株価はその後、6USD台と伸び悩んでいるが、一方でアジア発のEVメーカーとして同社の中長期的な有望性については依然として注目が集まっており、同社のポテンシャルや課題についての評価を整理したい。
正式名称 | VinFast Auto Ltd. |
業種 | 電動自動車及び電動バイクの開発、製造及び販売 |
設立 | 2017年 |
上場 | ナスダック(2023年8月) |
主要株主 | Vingroup (51.03%) Vietnam Investment Group JSC(33.16%) Asian Star(15.00%) ※上記3社の実質的支配権はVingoup会長であるブオン氏が保有 |
販売展開国 | ベトナム、米国(2023年開始)、カナダ(2023年開始)、欧州(2023年予定) |
| 14,505名(2023年3月31日時点) |
連結総収益 | 525百万USD(2022年12月31日時点) |
時価総額 | 398億USD(2023年9月12日時点) |
「内燃系の自動車開発は垂直型の産業ピラミッドであるのに対して、EVの場合は水平型の産業構造となる」という言い方がされることがある。たしかにEVは部品点数が内燃系の1/3程度になることもあり、製品開発においてすり合わせの要素が低い。そのため商品自体は外部調達品をパッケージ化すれば成り立つものの、基幹部品については内製化しない限り採算は悪いままとなる。内燃系車両についてもエンジンなど基幹部品は車両コストに占める割合が高く自前で生産しないとコスト構造的にペイしないが、EVに関しては特に電池が車両コストの30〜40%を占めることもあり、例としてはVinFast社のEVモデルであるVFe34の車体価格3.1万USDに対して、バッテリーコストはおよそ1万USDと見込まれている。
これらのコストの低減はメーカーにとり死活問題となってくるが、このような状況下で拡販を推めてもスケールメリットが出にくく、数多くの新興系EVメーカーが苦戦しているのはそのためである。一方、これらの課題を克服し、黒字化に成功しているのは米Teslaと中国BYDの2社である。テスラの現状のビジネスモデルを俯瞰すると、特に電池については年々内製度合いをあげており、鉱物資源などの自前調達など川上にさかのぼってコストダウンを追求している。また、元々はパナソニックとの提携による電池の外部調達が主だった点についても一部を内製にシフトしている。足元の同社の台当たり収益は95,000USD(22年4Q実績)であり、BMW、トヨタを凌駕している。これは同社の価格ポジショニングがプレミアムゾーンであることも見逃せないものの、上記の取り組みの結果でもある点は見逃せない。
上記の観点でVinFastの競争力を整理してみるとどうなるか。図表1は他社と比較した同社の競争力を整理したものであるが、テスラやBYDが基幹部品や技術の内製の度合いが高いのに対して、同社はバッテリーや半導体などの根幹分野では外部調達や他社との提携による獲得がまだ多いのが実態である。更に大きな投資を立て続けに行っており、一台当たり利益率は依然として-8%から-20%強の赤字を見込んでいるが、今後の量産効果などにより、収益は改善される見込みである。同社の強みは創業から驚異のスピードである7年で自動車製造を立ち上げた経営のスピード感である。一方で立ち上げ優先のため、実態としては主な部品はほぼ外部調達と時間を買う戦略をとっているのは否めない。これについては従来手掛けていた内燃系車両を想定して設計されたハイフォン工場設備をEV生産においても転用している点も寄与している可能性が高い。
これに対し、同社も着々と対策を打っている。本年10月11日、同社会長であるブオン氏が保有していた電池生産会社であるVinESの株をVinFastに移すことを公表。結果としてグループとしてのシナジーを追求し、▲5-7%のコストダウンが可能との見通しである。同工場はもともと VinFastの北部ハイフォン工場内にあり試験生産段階だったが、グループ再編とあわせ、本格生産開始し量産メリットを追求すると思われる。また組み立てにとどまらずセルの内製にまで着手していると一部報道ではされている。
また、同社は国軒高科股份有限公司(Gotion High-tech Co.,Ltd. 以下Gotion)と22年から電池生産工場を建設・生産体制を整えてきた。これにより、VinFastはEVのみに縛られない電池生産体制を有することで、量販効果を狙いバッテリーコストを下げようと試みている。更に同社との関係は強化されており、23年11月にはVinFastに1.5億USDの出資を行っており、提携強化による更なる製造コストの削減を図っており今後の採算改善については注視すべきイシューとなろう。
一方、同社のポジティブな面として挙げられるのは、①カリスマ経営者による迅速な意思決定、②商品・価格面の優位性(デザイン性の高い商品・サブスクリプション方式での販売)、③不動産事業と一体となった販促、④海外展開などが挙げられる。
①の迅速な意思決定については、VinFastを形作る大きな要素の一つとなっており、変化の激しいEV市場における迅速な判断とそれに追従する企業体制は今後の安定的な収益形成に向けて一定の効果を示せると評価する声も大きい。しかしながら、過去に複数の事業を鶴の一声で事業停止を判断した経験もあるため、どういった判断でVinFastを動かしていくのかを注視する必要がある。
②の商品・価格面の優位性については評価が高く、特に主力車種であるVF8, VF9において落ち着いたテイストの内装と外装によるデザインで評価されている。価格に関しても、バッテリーを切り離した「サブスクリプションモデル」による販売で、エントリーコストを一回り小さく見せる販売方法により、同セグメントのガソリンエンジン車などよりも一回り安価な価格ポジショニングを実現できている。
③はVingroupとしての総力を挙げたエコシステムの構築である。特にベトナム国内でVin系列の住宅にはVinFastの充電器がついてくる上に、自動車割引クーポンが付随するなどのプロモーションも行われている。
最後に④の海外展開への意欲はVinFastを語る上で欠かせない。会長のブオン氏はEVが未成熟な東南アジアなどでEVを展開することより、環境意識の高い北米や欧州市場に照準を合わせることで、大きなEV市場の一部シェアを維持することが重要としており、それに備えた工場建設や米NASDAQ上場、対米輸出などで見て取れるのは、23年は正にVinFastにとっての海外市場攻略の準備の年であったと言える。
これらの強みに関する認知が投資家へ浸透し、足元遅れが目立つ海外事業で進展が見られれば同社はアジア発のEVメーカーとして認知が進むであろう。
ArayZ No.144 2023年12月発行メコン5における中国の影響拡大
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MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Managing Director
池上 一希 氏
日系自動車メーカーでアジア・中国の事業企画を担当。2007年に入社、2018年2月より現職。バンコクを拠点に東南アジアへの日系企業の進出戦略構築、実行支援、進出後企業の事業改善等に取り組む。
MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Consultant
池内 勇人 氏
製造業全般の現場管理サポート、業務効率化サポートや新工場立ち上げなどを経験。2021年にMURCタイに入社、タイをはじめ周辺国へのビジネス展開支援、市場調査、企業ベンチマークなどの業務を担う。
MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
ASEAN域内拠点を各地からサポート
三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のシンクタンク・コンサルティングファームです。国や地方自治体の政策に関する調査研究・提言、 民間企業向けの各種コンサルティング、経営情報サービスの提供、企業人材の育成支援など幅広い事業を展開しています。
Tel:092-247-2436
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