ArayZ No.120 2021年12月発行変わる日タイ関係-タイ人における日本の存在とは
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カテゴリー: 特集
公開日 2021.12.09
タイのインフラ建設は必ずと言っていいほど、発表されたスケジュールから遅延する。話題に上っているプロジェクトが夢や理想として語られているものか、政府の開発マスタープラン等に入っている現実的な構想段階なのか、さらには入札が行われて着工がされた段階なのか、どういった次元で〝計画〟されているのかを確認することが重要だ。
私は〝着工〟されてから「計画された開発は夢では終わらず、いつか完成するだろう」と考えるようにしている。〝いつか〟と書いたのは往々にして完成時期が遅れるからである。また、着工されると必ず完成するかというと、それも油断ならない。
例えば、バンコクからドンムアン空港に向かう途中の左手に、放置されたコンクリートの橋脚を見ることができる。これは以前、建設されていたドンムアン空港に向かう高架鉄道の残骸だ。建設途中でアジア通貨危機が勃発し、プロジェクトが止まり放置されてしまった。
それから四半世紀近くが経過した2021年に新たにレッドラインが建設され、ドンムアン空港に乗り入れるようになった。しかし、そのレッドラインも運行開始日が何度も延期された。 今回は今後、実現していく可能性が高いインフラ整備を主に取り上げ、都市鉄道、高速鉄道、高速道路の整備とそれが人々の生活に与える影響を考察してみる。
コロナ禍であっても既に着工されている都市鉄道の路線は、遅延を繰り返しながら完成に向かっている。
代表的なところでは22年に一部開通を予定しているモノレールであるイエローライン、ピンクライン、そして地下鉄と高架鉄道の両方からなる23年開通予定のオレンジラインの3つの新線だ。
これらはかなり完成に近付いているので、遅延しても数年で開通するだろう。バンコク都市鉄道路線図を見ていただくと分かるが、現在の計画では最終的に13の都市鉄道の路線がバンコクを走ることになっている。
いくつかの路線では入札が行われているため、今後10年のうちにこの路線図にある新線や延伸計画の7割程度が完成するのではないか。
ドンムアン空港、スワンナプーム空港、ウタパオ空港の3空港を結ぶ高速鉄道は22年に着工する予定だ。土地の移転等の問題があり、まだ紆余曲折が予想されるが着工に至ればやがて完成するだろう。
その他にも17年に最初の3・5キロ区間の建設が開始された東北線がある。当初、バンコクとナコンラチャシマ間の開業を21年に予定していたが、21年3月に一部区間の建設発注が行われた状況だ。今のところ26年の開業を目指しているが、まだ遅延しそうな気配である。
一方、ラオスの首都ビエンチャンと中国の昆明市を結ぶ鉄道(東北線が時速250キロに対して、160キロなので厳密には〝高速〟ではないが)は16年に着工し、21年12月に開通した。将来的には東北線をナコンラチャシマからノンカイまで延伸し、最後はメコン川を超えてとラオス・中国の鉄道と繋がる計画になっている。
しかし、中国と鉄道で繋がることがタイにとってメリットばかりかというと、そうでもないかもしれない。
観光客増加は嬉しいものの、安い中国製品の流入増加で地場産業が影響を受けるのではないか、という危惧がタイ社会にある。中国からの融資で建設したラオスと異なり、東北線は中国から技術指導を受けているものの、タイ政府が全額出資しているためタイのペースで進んでいる。
このため、ラオスと中国が鉄道で繋がった結果、ラオスがどのような影響を受けるのかを見極めることが今後の延伸計画に重要となるだろう。
モーターウェイと呼ばれる高速道路は、バンコクからカンチャナブリ(M81)、バンコクからナコンラチャシマ(M6)が建設中で、遅延を繰り返しながら現在では23年に開通予定である。
バンコクから西向き(M82)はバンクンティアンからエカチャイが建設中で、さらにバンペオまでの入札が行われており、24年開通を目指している。
その他にも都市間の長距離としては前出のバンコク・カンチャナブリの高速道路の途中であるナコンパトムを起点としてフアヒンで有名なチャアムを結ぶ線が計画されている。
ここまでは完成する可能性の高い高速道路だが、まだ、構想段階の都市間高速道路もあることから徐々に整備が進んでいくだろう。
道路インフラが完成してもそこを走る車が安全でなければ、移動の自由は得られない。その意味で自動運転技術がどこまで進むか、ということは大きな関心事である。
正直、運転が下手な私にとってはEV化よりも安全技術の進化が気になる。しかし、タイの一般道のようにオートバイが文字通り縦横無尽に走る状況では完全自動運転は難しいだろう。
逆走してくるバイクを回避する自動運転システムができれば素晴らしいが、望みは薄そうだ。そのため、先進国で完全自動運転が実現しても、タイではモーターウェイのような自動車専用道路や、国道の一部車線などコントロールされた状況下での自動運転になると考えられる。
自分で運転して、コントロールされた道路まで到達すれば、あとはセットされた目的地近くまでハンドルを握らずとも移動できるような未来が徐々に近づいてくるだろう。
一方、コロナで一気に広がった在宅勤務だが、コロナ後も事務系の職種では在宅勤務を標準とする企業が出てくるだろう。5Gのネットワークがタイ全土に広がることで、どこでもバンコクの事務所と同じ勤務環境が整う。タイ全土でWork from Anywhereな在宅環境が整ってくる。
しかし、だからと言って都会に慣れた人の多くが田舎暮らしを始めるかというと、そうはならないだろう。都市の魅力ということも重要だ。
教育の選択肢が多く、洗練されたショッピングモールや素敵なレストランに多くの人が集う場所。そんな都市の魅力を捨てて、大多数の人が田舎に永住するということは考えにくい。
都心には独身者向けのコンドミニアムが多数ある。一方、バンコクの郊外に行くと無限と言っても過言ではないほど、未開発の土地が広がっている。このため郊外に一軒家を構える家族が増えるのではないだろうか。
参考になりそうなのは米国のサンフランシスコ。通称、バート(BART)と呼ばれている地下鉄は郊外にも延びており、郊外の駅には大規模なパーク&ライド用の駐車場がある。都心への通勤客は、郊外の駅まで自家用車で来てバートに乗り換える。
自宅は郊外の一軒家で庭付き。犬を飼ったりバーベキューができる。在宅勤務の定着とともに、こういったイメージの郊外型と都市型のライフスタイルが浸透するのではないかと考えている。
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THAIBIZ編集部
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