ASEANの自動車DX 競争軸はデータ活用へ(前編)

THAIBIZ No.174 2026年6月発行

THAIBIZ No.174 2026年6月発行日タイで磨く開発力!三菱ケミカルの環境素材革命

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ASEANの自動車DX 競争軸はデータ活用へ(前編)

公開日 2026.06.10

自動車産業におけるデジタル化では、オンライン販売、整備予約、部品電子商取引(EC)などが先に語られやすい。一方で、収益性を左右するのは、車をどう売るかだけではない。中古車の価格査定、在庫回転、販売金融の与信、保険・保証、商用車の稼働率など、車両ライフサイクル全体の経済性とリスクをどう管理するかが重要になっている。

本稿は前後編の2回構成とし、前編ではASEAN市場の現在地を整理する。後編では、中国等の先行事例を踏まえ、在ASEAN日系企業が今後どのデータを取得し、どこで価値を生み出せるかを考えたい。

見える化からインテリジェンス化へ

ASEANの自動車デジタルトランスフォーメーション(DX)は、次の段階に入りつつある。これまでは顧客接点や業務プロセスの効率化が中心だった。しかし足元では、データを事業判断にどう活かすかが重要になっている。車両をいくらで買い、いくらで売るのか。誰に、どの条件で融資するのか。どの車両を在庫として持つのか。焦点は、単なる「見える化」から、価格・与信・在庫・保証・稼働率を判断する「インテリジェンス化」へ広がり始めている(図表1)。

この流れを後押しする環境変化として、人工知能(AI)活用コストの低下がある。Stanford AI Index 2025によれば、GPT-3.5相当のAI推論コストは2022年11月から2024年10月までに280分の1以上に達した。ただし、AI導入だけで価値が生まれるわけではない。価値を得るためには技術だけでなく、データ、業務設計、導入・拡大の仕組みが重要だ。差がつくのは「独自データを持ち、業務判断に組み込めるか」である。

中古車プラットフォームが示すデータ活用の収益化

この「インテリジェンス化」の変化をわかりやすく示すのが、中古車プラットフォームである。その価値は、単に売り手と買い手をオンラインで結ぶことにとどまらない。査定価格、成約価格、オークション結果、在庫日数、車両状態、顧客属性といったデータから、車両ごとの適正価格や売却可能性をより精緻に予測することができる。

マレーシア発のユニコーン、CARSOME(カーサム)はその代表例である。同社はモデル、年式、走行距離などを基に車両価値を予測する独自価格エンジンを導入している。2025年第1四半期には粗利が前年同期比12%増、台あたり粗利(GPU)が2024年比で24%改善した。背景には、価格アルゴリズムの改善、仕入れ戦略の最適化、ユニットエコノミクスの強化がある(図表2)。

この「車両価値を読む力」は金融にも接続している。カーサムの金融サービス部門であるカーサム・キャピタルは、小売金融、ディーラー向け在庫金融、自動車保険を提供し、データ分析と機械学習を用いて車両価格、在庫管理、信用評価を最適化。

設立以来、10億リンギット超(概算で400億円超)、約4万5,000件の融資を実行している。シンガポール発Carro(カーロ)社が展開する金融事業Genie Financial Servicesも、ローンブックは4億9,600万シンガポールドル(概算で600億円超)に達する一方、不良債権率(NPL)は0.5%未満に抑えられている。

中古BEVが問う、車両価値評価の実力

一方で、このモデルが今後そのまま通用するとは限らない。中古バッテリー式電気自動車(BEV)が増えれば、中古車プラットフォームや販売金融会社には、従来以上に精緻な車両価値評価を求められる。

内燃機関車中心の中古車であれば、年式、走行距離、車両状態、過去の取り引き価格を基に、一定程度の価格査定や残価予測ができた。しかしBEVでは、バッテリーの状態、新車価格の変動、技術進化、保証残期間、充電・利用履歴といった要素が加わる。

タイでは新車BEV登録が急増したが、中古BEV市場はまだ小さい。クルンシィ・リサーチでは、2025〜2027年の中古BEV登録を年平均825台、新車BEV登録の0.8%程度と見込む。また、タイの中古EV残価は価格競争やバッテリー技術進化の影響で、グローバル平均より速く低下していると指摘する。

こうした残価不安への対応として、OEMが直接残価を保証する動きも出ている。ベトナムのビンファスト(VinFast)はフィリピンで、6ヶ月後90%、1年後86%、2年後78%、3年後70%の最大保証残価を設定した。この取り組みでは、将来の再販や在庫、保証コストをどう管理するかが問われるため、このモデルが成功するかは注視が必要だろう。

データ活用の射程はフリートにも広がる

なお、データ活用の射程は中古車売買や金融だけに留まらない。商用車・フリート(企業保有車両)領域では、車両データが安全性や稼働率、保険リスクに直結しやすい。

例えば、農業関連大手であるSyngenta(シンジェンタ)APACでは、GreenRoad社の安全運転ソリューション導入により、タイでの車両事故が74%減少、負傷事故が90%減少し、2022年には交通事故による負傷者ゼロを達成した。これは、車両データが単なる位置管理や見える化にとどまらず、危険運転の特定や個別指導、国・地域別の安全施策といった実際のリスク低減に接続しうることを示している。

おわりに

ASEANでは、これらのモデルはまだ発展途上の段階にあると言えるだろう。中古車プラットフォームでは、データ活用が金融事業へ接続し始めている。一方で、BEVの中古車化が進めば、残価、バッテリー状態、保証、再販リスクという新たな論点が加わる。次回は、中国等の先行市場に目を向け、車両データが金融・保険・保証・整備収益にどこまで接続しているのか、在ASEAN日系企業が今後備えるべき視点を探りたい。

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Roland Berger Co., Ltd.
Principal Head of Asia Japan Desk

下村 健一 氏

一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現職。プリンシパル兼アジアジャパンデスク統括責任者として、アジア全域で消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心にグローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、事業再生等、幅広いテーマでのクライアント支援に従事している。
kenichi.shimomura@rolandberger.com

Roland Berger Co., Ltd.
Senior Project Manager, Asia Japan Desk

橋本 修平 氏

京都大学大学院工学研究科卒業後、ITベンチャーを経て、ローランド・ベルガーに参画。その後、米系コンサルティングファームを経て復職。自動車・モビリティ、消費財・小売を中心とする幅広いクライアントにおいて、グローバル戦略、新規事業、アライアンス、DX等の戦略立案・実行に関するプロジェクト経験を多数有する。

Roland Berger Co., Ltd.

ローランド・ベルガーは戦略コンサルティング・ファームの中で唯一の欧州出自。
□ 自動車、消費財、小売等の業界に強み
□ 日系企業支援を専門とする「ジャパンデスク」も有
□ アジア全域での戦略策定・実行支援をサポート

140 Wireless Building, 20th Floor, Unit C, 140 Wireless Road, Lumpini Subdistrict, Pathumwan District | Bangkok 10330 | Thailand

Website : https://www.rolandberger.com/

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