横領への対応

THAIBIZ No.175 2026年7月発行

THAIBIZ No.175 2026年7月発行打倒・競合!カルビーの大構造改革

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横領への対応

公開日 2026.07.10

タイに進出する日系企業において、従業員による会社資金の私的流用など、不正事案が発覚するケースは少なくない。特に経理担当者や管理職による不正は発見が遅れやすく、被害額が高額になる傾向がある。不正が発覚した場合に重要なのは、証拠保全を含めた適切な初動対応を迅速に行うことである。今回は、従業員が横領を行ったケースを念頭に、会社として行うべき初動対応を解説する。

イメージ画像:Magnific

1. 証拠収集・保全

まず、横領の疑いが生じた段階で、横領行為の具体的な方法・状況、時期や期間、被害額などに関する資料の保全を最優先に行うべきである。会計データ、銀行取引記録、請求書、領収書、メール、LINE等のメッセージ履歴などを保存し、後から改ざんや削除ができない状態にしておくことが重要である。これらの関係資料の保全は、従業員本人にヒアリングを行う前に、可能な限り客観的証拠を収集しておくことが望ましい。

2. 対応方針の決定

証拠収集により、横領の疑いが強まった場合、会社として当該従業員に対して今後どのような対応をとるのかを検討する。横領行為の期間や金額、悪質性などを考慮したうえで、懲戒処分として解雇まで行うか、刑事告訴を進めるかを検討する。

横領行為にはタイ刑法上の横領罪(第352条)が成立する可能性がある。横領罪は親告罪とされており、被害者が加害者および加害事実を知った日から3ヶ月以内に告訴手続きを行わない場合、時効により告訴権が失われる。つまり、3ヶ月を過ぎると刑事告訴が行えないことになる。そのため、従業員による横領の可能性を確認した場合、この3ヶ月の告訴期限を念頭において対応を進めることが安全である。刑事告訴は、客観的資料と事実をもとに申告を行うため、確認できた事実を整理しておくことも大切である。

また、労務面においても対応が必要である。従業員による横領は、それが事実であれば、労働者保護法第119条に定める重大な懲戒事由に該当する可能性が高い。この場合、解雇補償金を支払うことなく懲戒解雇できる。実際に解雇まで行う場合には、従業員へのヒアリング前に、横領行為の事実についての確認書や解雇通知などを準備しておく必要がある。さらに、弁償のための示談書なども準備しておくべきである。

3. 従業員本人へのヒアリング

証拠収集と対応方針が固まった段階で、従業員本人へのヒアリングを実施する。実際は、本人が不正を認めるケースも少なくない。この場合、面談内容を録音し、横領行為の内容、期間、金額、方法等について確認したうえで、本人による署名入りの確認書や陳述書を取得することが有効である。

本人が不正を認めた場合には、弁済に関する協議を行うことが考えられる。具体的には、被害額を確認したうえで、返済方法や返済期限を定めた示談書を締結し、分割弁済や担保の提供を受けることが考えられる。場合によっては、会社側が刑事告訴を行わないことを条件として、弁済を優先する解決方法も選択肢となる。

一方、本人が不正を否認する場合や被害額が大きい場合は、刑事告訴および民事訴訟による損害賠償請求を進めるかを別途検討する必要がある。

まとめ

横領が発覚した場合、証拠保全、ヒアリング、労務・刑事対応などを並行して検討する必要があり、初動対応の遅れは回収可能性や法的責任の追及に大きな影響を与える。不正の疑いが生じた場合、早い段階で必要に応じて専門家に相談し、適切な対応を検討することが重要である。

>>本連載「知らなきゃ損する!タイビジネス法務」の記事一覧はこちら

TNY国際法律事務所
日本国弁護士

藤原 杯花 氏

2017年1月よりタイのTNY国際法律事務所にて執務。TNY国際法律事務所は、日本人弁護士2名が共同代表を務める法律事務所であり、会社設立から規制調査、契約書のリーガルチェック、商標登録申請、相続手続きなどのサービスを提供している。

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