ASEANの自動車DX 競争軸はデータ活用へ(後編)

THAIBIZ No.175 2026年7月発行

THAIBIZ No.175 2026年7月発行打倒・競合!カルビーの大構造改革

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ASEANの自動車DX 競争軸はデータ活用へ(後編)

公開日 2026.07.10

前編では、ASEANの自動車バリューチェーンにおいて、データ活用が業務効率化や「見える化」から、価格・与信・在庫・保証・稼働率を判断する「インテリジェンス化」へ広がり始めていることを整理した。後編では、中国などの先行市場で顕在化している課題と対応策を踏まえ、在ASEAN日系企業が今後どのようなデータを取得し、どこで価値を生み出せるかを考えたい。

先行市場で見えた3つの課題

中国は、電気自動車(EV)普及が進んだ理想の先進市場というより、新たな課題が先に顕在化した市場として捉えることができるだろう(図表1)。

第一の課題は、中古EVの残価・価格形成の難しさである。EVでは、年式や走行距離だけでなく、バッテリーの状態や保証の残存期間、新車価格の改定、整備履歴などによって中古価値が大きく変わる。車両の状態を正しく説明できなければ、市場はリスクを織り込み、保守的な価格を付けざるを得ない。

第二の課題は、保険・保証のリスクを価格化することである。中国では2025年、新エネルギー車(NEV)の保険料収入が1,900億元(約4兆5,000億円)規模まで拡大した一方、業界全体で56億元(約1,300億円)の引受損失が発生したと報じられている。EVやスマートカーでは、バッテリーや先進運転支援システム(ADAS)、ソフトウェアによる故障リスクや修理費を十分に予測しなければ、保険や保証は収益源ではなく損失源になりうる。

第三の課題は、メンテナンス・修理インフラの制約である。EV化・スマートカー化が進むと、整備には診断データや専用ツール、部品、ソフトウェアへのアクセスが必要になる。中国では、独立系整備業者が三電システム(バッテリー、モーター、電気制御系)の修理に必要な情報や設備へアクセスしにくいこと、整備人材の育成が需要の拡大に追いついていないことが課題として指摘されている。

課題への先行対応

これらの課題に対し、先行市場ではいくつかの対応が始まっている。BYDは2025年9月、欧州において認定中古車(Certified Pre-Owned=CPO)制度を発表。認定中古車に対し、179項目点検やフルバッテリーレポートの提出、SOH(バッテリーの健康状態を示す指標)90以上の保証を組み合わせている。このように中古EVでは、バッテリー状態を「見える化」するだけでなく、それを保証や再販価値に結びつけることが重要になっている。

中国では2026年4月から、NEVの動力電池にデジタルIDを付与し、製造、販売、整備、交換、廃棄、再利用までを追跡する国家トレーサビリティ制度が始まった。これはリサイクル政策であると同時に、バッテリーを車両から切り離して管理すべき資産として扱う流れを反映している。

保険領域では、中国当局がNEV保険について、データ共有や車種ごとのリスク分類を進める方針を打ち出している。さらに、中国の損害保険大手Ping An P&Cは、中国第一汽車集団(FAW)の高級車ブランド紅旗(Hongqi、ホンチー)と提携し、スマート駐車や高速道路・都市部での運転支援などを想定した保険サービスを発表。低温環境でのバッテリー故障補償も盛り込んでいる。ここで重要なのは、保険や保証を広く売ることではなく、損失データを蓄積し、リスクを価格化できる範囲を見極めることである。

また、車両データの価値はバッテリー式電気自動車(BEV)に限られない。欧州のConnected Cars社によれば、8年以上経過したコネクテッド車両は、非接続車両よりワークショップ収益が57%高いとされている。これは、保証切れ後は顧客が独立系整備工場へ流れやすい中で、低バッテリーや故障の兆候を車両データから先回りして把握することで、正規ディーラー側から点検や整備提案できることの価値を示している。

在ASEAN日系企業の勝ち筋はTCO提案

在ASEANの日系企業が学ぶべきことは、中国型のBEV競争をそのまま追うことではない。むしろ、日系企業が強みとする正規ディーラー網や整備履歴、部品供給、販売金融、法人顧客基盤をデータでつなぎ、総保有コスト(TCO)を証明することが鍵となる。

法人・フリート(企業保有車両)顧客にとって重要なのは、車両価格だけではない。保険料や修理費、部品供給、整備時間、稼働停止による損失、残価まで含めた実質コストである。日系企業は「品質が高い」「壊れにくい」と語るだけでなく、整備・修理・残価・保険に関する自社データと外部データを組み合わせ、5年間のTCOをシナリオとして提示できるかが今後の競争においてさらに重要となるだろう。特にハイブリッド車(HEV)や内燃機関(ICE)車を含む日系車は、メンテナンス網や安定した部品供給、残価の予測しやすさをデータで示せれば、BEV一辺倒ではない現実的な選択肢として差別化できる。

おわりに

ASEANの日系企業が検討すべき打ち手の方向性は、図表2の通りである。車両データは目的ではなく、販売後の収益と顧客接点を守り、法人顧客にTCO優位を示すための手段である。重要なのは、どのデータを取るか以上に、取得したデータをどの事業判断に使うかを明確に設計することだ。

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Roland Berger Co., Ltd.
Principal Head of Asia Japan Desk

下村 健一 氏

一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現職。プリンシパル兼アジアジャパンデスク統括責任者として、アジア全域で消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心にグローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、事業再生等、幅広いテーマでのクライアント支援に従事している。
kenichi.shimomura@rolandberger.com

Roland Berger Co., Ltd.
Senior Project Manager, Asia Japan Desk

橋本 修平 氏

京都大学大学院工学研究科卒業後、ITベンチャーを経て、ローランド・ベルガーに参画。その後、米系コンサルティングファームを経て復職。自動車・モビリティ、消費財・小売を中心とする幅広いクライアントにおいて、グローバル戦略、新規事業、アライアンス、DX等の戦略立案・実行に関するプロジェクト経験を多数有する。

Roland Berger Co., Ltd.

ローランド・ベルガーは戦略コンサルティング・ファームの中で唯一の欧州出自。
□ 自動車、消費財、小売等の業界に強み
□ 日系企業支援を専門とする「ジャパンデスク」も有
□ アジア全域での戦略策定・実行支援をサポート

140 Wireless Building, 20th Floor, Unit C, 140 Wireless Road, Lumpini Subdistrict, Pathumwan District | Bangkok 10330 | Thailand

Website : https://www.rolandberger.com/

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