
カテゴリー: ビジネス・経済, 食品・小売・サービス
連載: アジアのコングロマリット - 三菱UFJリサーチ&コンサルティング
公開日 2026.07.10
タイのエンターテインメント業界において長らくトップに君臨するGMMグラミー(以下、GMM)。長きにわたるトップ維持の秘訣として、「流行り」や「人々の好み」という移ろいやすいものを扱うがゆえの環境変化を読む力と柔軟性が際立っている。
GMMはタイの音楽とテレビ事業をリードするために設立され、当初は質の高いタイポップ音楽と3つのテレビ番組の制作から始まった。創業者の一人、パイブーン・ダムロンチャイタム氏は中華系タイ人でチュラーロンコーン大学にてマスコミュニケーションを専攻した。卒業後はサハグループの広告子会社Fareast Advertisingにて、サハグループ創業者のティアム・チョクワタナー氏と5年間仕事をする機会を得ている。
この経験が将来の起業への動機となった。その後、一般消費財の販売代理会社であるオーソトサパー(Osotspa)のマーケティング子会社に移った際、知り合ったテレビ局員が裕福そうな様子から番組制作に興味を持った。起業後は、音楽制作にも参入した。
テレビ事業では「ONE31」や「GMM25」のチャンネルで、映画の制作方式を参考にした質の良いドラマを提供した。2014年には英題「Beauty and the Bitches」という、これまでテレビで描かれなかったミスコンの裏側を赤裸々に表現したリアリティドラマが人気を博した。
最近ではSNSの台頭によりテレビ離れが進んだため、芸能事務所としての側面が強まり、また、タイで人気のボーイズ・ラブ(BL)やドラマのコンテンツ制作、デジタル配信に注力している。
音楽事業では、欧米の歌詞の韻を踏む制作方法をうまくタイに適合させ、トンチャイ・マックインタイ(バード)氏をはじめとする数々のレジェンドを生み出して主力事業へと成長させた。時代の流れの中で音楽の提供形態の変遷にも対応。カセットテープからCD、音楽ダウンロードや着信音という嗜好の変化についてGMM Musicのパウィット・チットラコーンCEOは、「音楽が親しまれなくなったのではなく、人々が以前と同じ方法ではお金を払わなくなった」と述べている。その他、現在では事業の多角化を進め、オンラインショッピングやラジオ、映画も手掛ける(図表1)。

一方、直近3年のうち2年間は赤字であり、現在構造改革の最中である。今年2月にはグループ長期目標「国内外でのコンテンツ制作のリーディングカンパニー」は据え置いたものの、ミッションでは「あらゆるプラットフォームを通じてすべての消費者に幸福を届けるため、メディア統合と革新的なソリューションの創出と投資」へと変更された。昨年まではミッションの中に音楽などの特定の事業名が挙げられていたが、全方位の事業拡大が目指されるようになっている。
背景にはコロナ禍の打撃を受け、今なお続いている事業再編がある。タイのテレビ離れは深刻で、「GMM25」を運営するGMM Channelは不振が続いていた。加えて、コロナ禍において、インターネット経由でストリーミングメディアコンテンツを配信するオーバー・ザ・トップ(OTT)というプラットフォーマーが出現し、急激にデジタルへ移行した。音楽事業も、これまでの主力がCD販売とコンサートであったため、コロナ禍のデジタル化と外出控えにより市場が一気に様変わりしてしまった。
そこで、同社はチャンネルこそ維持しながら、コンテンツ制作を「ONE31」を運営するThe One Enterpriseへ集約し、社員の約80%のリストラを実施。音楽事業は2023年に新たに設立したGMM Musicに集約して子会社化し、JOOX、Spotify、LINE、YouTubeなどのオンラインチャネルへ対応するとともに、従来のBtoCのビジネスモデルから、版権管理や広告収入というBtoBビジネスへと変化させている。
再編の渦中でもなお、タイ音楽業界トップであるGMMはシェア拡大戦略をとる。その方向性がグローバル展開だ。グローバルの音楽会社と提携することで配信基盤を確立しながら、GMM Musicは2024年に上場の申請を行い、今年末の新規株式公開(IPO)を目指している。
上場で獲得した資金は版権管理で収益を拡大するため音楽制作への投資に利用予定で、配信プラットフォームへの楽曲追加、新人ミュージシャンの発掘が検討されている。直近の売上発表では2025年第1四半期に売上を20%増加させ、上場への弾みとなるよう自らアピールしている。この動きに伴って、親会社のGMMは事業会社から持株会社となった。
外資との提携も活発である。2024年にWarner Music Asiaから3億7,000万バーツの出資を受けた。2024年7月、中国のTencentがGMM Musicの株式10%を取得して、25億7,000万バーツを獲得。韓国のYG Entertainmentとも合弁会社を設立している。
日本との関連では、2024年に株式会社LDH JAPAN(以下、LDH)がGMM Musicと合弁会社を立ち上げた。LDHのアーティストのクオリティ、育成システム、マネジメントシステムを評価し、双方でアジアで活躍するアーティストの育成・輩出を目指す。

今年5月には「CLOUD DREAM project by G&LDH」という全8話の成長ドキュメンタリー番組が放映開始された。「EXILE TRIBE」の日本人4人と「FLIO」のタイ人3人の計7人がグループを組み、文化も言葉も違うなかで夢を共有する。活動開始までの準備としてダンスレッスンやレコーディングなどを行う過程で、互いのヘアメイクを手伝うなどの微笑ましい場面や、誕生日にはマンゴースティッキーライスをサプライズプレゼントするなど、互いの文化交流をしながら絆を深めていく姿が描かれている。
参考資料:
Interview: パイブーン・ダムロンチャイタム(HiclassSociety.com)
LDH公式サイト「タイ最大のエンタテインメント企業GMM MusicとLDH JAPAN合弁会社を設立」(2024.6.5)
TrueID「CLOUD DREAM project by G&LDH EP.2 : พาฟินกับมิตรภาพไทย–ญี่ปุ่นสุดอบอุ่น」(2026.6.2)
クルンテープ・トゥラキット「GMM Music เดินหน้ายื่นไฟลิ่งขาย IPO 228.8 ล้านหุ้น」(2024.10.28)
GMM Grammy 公式サイト

MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Managing Director
池上 一希 氏
日系自動車メーカーでアジア・中国の事業企画を担当。2007年に入社、2018年2月より現職。バンコクを拠点に東南アジアへの日系企業の進出戦略構築、実行支援、進出後企業の事業改善等に取り組む。

MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Consultant
佐々木 彩乃 氏
コンサルティング会社にてAIやIoTなどの新しく台頭したテクノロジーを企業に導入するための事業選定やPoCを実施。その後、CROにてヘルスケアの事業開発に従事。2025年から現職。
MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
ASEAN域内拠点を各地からサポート
三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のシンクタンク・コンサルティングファームです。国や地方自治体の政策に関する調査研究・提言、 民間企業向けの各種コンサルティング、経営情報サービスの提供、企業人材の育成支援など幅広い事業を展開しています。
Tel:092-247-2436
E-mail:kazuki.ikegami@murc.jp(池上)
No. 63 Athenee Tower, 23rd Floor, Room 5, Wireless Road, Lumpini, Pathumwan, Bangkok 10330 Thailand

SHARE