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カテゴリー: 組織・人事
連載: タイ人事お悩み相談室 - Asian Identity
公開日 2026.06.10
Question:会議で決まったことが放置されがちです。どのように解決すべきでしょうか?
Answer:決めたことが実行されないのは、人の問題ではなく、「仕組み」の問題とも言えます。
タイの会議では、「あの件はどうなりましたか?」と聞くと曖昧な空気が流れる。つい「やっぱりタイ人は責任感が…」と言いたくなるところですが、決めたことが実行されないのは、人の問題ではなく、「仕組み」の問題とも言えるのです。
これまで2回のコラムで、タイの会議が非生産的になる背景として「関係性」「進行スキル」の問題を取り上げ、前回では特に、「IAOC」という進行スキルのステップをご紹介しました。今回は、最後のひとつの要素である、「仕組み」について書いていきます。

「決定」と「実行」の間には、目に見えない3つの壁があると考えています(図表1)。「ハイコンテクスト(文脈依存)の壁」「ジョブディスクリプション(JD)の壁」「評価の壁」です。リーダーの仕事は、この壁を一つずつ越えて、決定と実行を“配線”していくことだと言ってもよいでしょう。

1つ目は、ハイコンテクストの壁です。日本もタイも、多くを語らずに“察し合う”、いわゆるハイコンテクストなコミュニケーションの文化圏に分類されます。それゆえ、日本人は「ふわっと」依頼し、タイ人もそれを「何となく」受け取る、ということが起こります。ところがお互いに異なるハイコンテクストな文化同士だからこそ、「察してくれるはず」がズレやすいのです。以前のコラムでも触れましたが、タイ人は「なんとなく頼まれたこと」と「公式に任されたこと」の境界に敏感です。曖昧な依頼は「公式タスク」として認識されず、優先順位が自動的に下がってしまうのです。
そこで、「誰が・何を・いつまでに」を、その場で必ず言葉にして決めることを会議のルールにしておくことが重要です。さらにもう一つおすすめしたいのは、ファーストステップとして「次のミーティングをその場で必ず押さえる」こと。これもルールにしておく方が良いでしょう。決定を宙に浮かせず、“次の予定”に着地させる。それだけで、消えていくアクションはぐっと減ります。
2つ目は、職務範囲の壁です。会議で新しく生まれたアクションには、たいてい「仕事が増える」という性質がついて回ります。そして、その新しい仕事はたいてい誰のJDにもぴったりとは収まりません。結果として、どこにも属さないまま放置されてしまう。特に、部門をまたぐタスクは宙に浮きやすいものです。
ここにも日本とタイの違いがあります。日本では「仕事は気づいた人が拾う」のが美徳とされます。しかしタイでは、職務規定に書いていないことは自分の仕事ではない。これは怠慢ではなく、ひとつの筋の通った考え方です。むしろ、曖昧な部分を善意で埋めてしまう日本のほうが、世界の中ではめずらしいのだと考えたほうがよいでしょう。
注意したいのは、日本人リーダーがやりがちな「みんなで一緒に、巻き込んでやってね!」という指示です。一見、協力的でよさそうに聞こえますが、これはオーナーシップを曖昧にする典型例です。「みんなの仕事」は、結局「誰の仕事でもない」になってしまいます。
対策は、「責任の所在」をはっきりさせることです。「この仕事は、このチームの位置づけにしよう」と、どのミッションに紐づくのかを必ず確定させる。会議で生まれたアクションを、組織のどこかにきちんと“着地”させてあげる必要があります。仮に「A部門とB部門の協業」が必要なタスクでも、「共同責任」は「無責任」と紙一重です。「主幹はA部門だからA部門がリードしてください」とメインの責任をどちらかにはっきり寄せることを明確にしましょう。
3つ目は、評価の壁です。会議で決まった追加業務は、そもそも期初に立てた目標には書かれていません。そのため、それをやったところで評価されるのか、やらなくても評価は下がらないのか。そこが曖昧なまま放置されがちです。
タイは、転職を前提とした労働市場です。タイ人は「何が評価されるのか」に対して、とても合理的で、そして素直です。評価につながらない仕事が後回しになるのは、怠慢ではなく、むしろ合理的な判断なのです。
そこでするべきことは、目標を期初に立てたら一年間そのままにするのではなく、タイムリーに、そして柔軟に修正することです。目標管理制度(MBO)の1on1を定期的に回し、会議で新しいアクションが生まれたら、都度目標やアクションプランに反映する。会社として公式の仕事と認識していると示すことが、評価の壁を越える鍵になります。期末に、「君はあれをやらなかったじゃないか」「それは目標に書かれていませんでしたから」というやりとりが起こってしまうのは悲劇です。お互いに納得して評価を行うためにも、目標の柔軟なアップデートを心がけましょう。
以上、3回にわたって会議をテーマに取り扱ってきましたが、改めて強調したいのが、「会議とは、会社そのものである」ということです。会議という小さな器の中には、関係性も、進行スキルも、仕組みも、そのすべてが映り込みます。会議を見れば、その会社が見える。だからこそ、会議を変えることは、会社を変えることなのです。
組織を変えていくとき、私は「ソフト」と「ハード」の両面で捉えることをおすすめしています。ソフトとは人にまつわるものであり、それが「関係性」「進行スキル」です。一方でハードとは、「仕組み」にまつわるもの、つまり本稿で扱った会議設計や運営ルールです。ソフトだけでも、ハードだけでも、会議は機能しません。両方の歯車が噛み合って初めて、会議は、そして会社は、動き出します。決めたことが実行されないとき、犯人を探してはいけません。繰り返しになりますが、リーダーの仕事は人を責めることではなく、「決定」と「実行」をつなぐ“配線”をすることなのです。

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株式会社アジアン・アイデンティティー 代表取締役
中村 勝裕 氏(愛称:ジャック)
愛知県常滑市生まれ。上智大学外国語学部ドイツ語学科卒業後、ネスレ日本株式会社、株式会社リンクアンドモチベーション、株式会社グロービス、GLOBIS ASIA PACIFICを経て、タイにてAsian Identity Co., Ltd.を設立。「アジア専門の人事コンサルティングファーム」としてタイ人メンバーと共に人材開発・組織開発プロジェクトに従事している。
リーダー向けの執筆活動にも従事し、近著に『リーダーの悩みはすべて東洋思想で解決できる』がある。Youtubeチャンネル「ジャック&れいのリーダー道場」も運営。
人事に関するお悩み・ご質問をお寄せください。
「タイ人事お悩み相談室」コラムで取り上げます!→ info@a-identity.asia
Asian Identity Co., Ltd.
2014年に創業し、東南アジアに特化した人事コンサルティングファームとして同地域で事業を展開中。アジアの多様な人々を調和させ強い組織を作るというビジョンの実現に向けて、"Asia is One”をスローガンに掲げ、コンサルタントチームの多様性や多言語対応を強みに、東南アジアに展開する日本企業を中心に多くの顧客企業の変革をサポートしている。
◇Asian Identityサービスサイト
http://asian-identity.com

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