信用状取引の実務-信用状条件と必要書類

THAIBIZ No.150 2024年6月発行

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信用状取引の実務-信用状条件と必要書類

公開日 2024.06.07

みずほ銀行バンコック支店メコン5課が発行する企業向け会報誌『Mekong 5 Journal』よりメコン川周辺国の最新情報を一部抜粋して紹介

橋本 裕輝 |グローバルトランザクション営業部 バンコック駐在 調査役 

はじめに

国際貿易の決済手段である信用状(Letter of Credit、L/C)取引について、これまでの特集記事では輸入者による不払のリスクヘッジや決算対策など、主に活用方法にスポットライトをあててきた反面、貿易実務にはあまりふれて来なかった。

一方で、信用状取引では条件を充足した書類呈示が求められる為、たとえ現地スタッフの方が日常の貿易実務を担っていたとしても、駐在員にとっても貿易実務の知識は重要だ。新規取引を開始する際の信用状条件交渉や信用状条件未充足(Discrepancy、ディスクレ)時の対処など、駐在員が積極的な関与を求められる場面も少なくないだろう。

信用状取引のエッセンスは、売買契約から独立した別個の取引であること(独立抽象性)、および呈示された為替手形と船積書類が信用状条件を充足していれば信用状発行銀行が支払確約を行うこと(書類取引性)にある。

輸入者としては輸出者に履行させたい条件をどのように信用状に織り込むか、輸出者としては信用状発行銀行からの支払確約を受ける為に、如何に正確に信用状条件に沿った書類作成ができるかが肝要だ(図表1)。

信用状取引の一般的な取引フロー
出所:各種資料よりみずほ銀行グローバルトランザクション営業部作成

本稿では主に輸出者の観点から信用状取引の実務におけるポイントを解説する。はじめに信用状条件の中で、特に注意深く確認すべき事項を説明した後、代表的な必要書類として荷為替手形と船荷証券とを取り上げる。最後にディスクレ発生時にどのような対処をすべきか紹介したい。

信用状条件の見方

銀行間で信用状のやり取りをする際、一般的に、世界中の金融機関が加盟するSWIFTという通信ネットワークシステムが用いられる(図表2)。

SWIFTを通じた信用状の発行
出所:各種資料よりみずほ銀行グローバルトランザクション営業部作成

SWIFTは、送金や証券決済など其々の分野・シーンに応じて、Message Type略してMTと呼ばれる標準フォーマットを規定している。これらのフォーマットはタグと呼ばれる数字(+英字)の部分と、それに紐づく情報部分で構成され、タグは其々の情報見出しのような役割を果たしている。

信用状取引で実際に用いられるMT700のサンプル(一部抜粋)を見ながら、重要とされるタグを見ていきたい(図表3)。

先ず輸出者が点検すべきは期限である。最も代表的なディスクレ発生原因が期日超過である為だ。信用状では一般的に(1)いつまでに船積みを行わなければいけないか(=タグ44C 最終船積期限)(2)いつまでに船積書類の呈示を行わなければいけないか(=タグ48 呈示期限)(3)いつまで信用状が有効であるか(=タグ31D有効期限)という3つの期限が設けられる。

必要書類の準備に時間を要した結果、呈示期限や有効期限に間に合わないケースが多いため、何処で誰が必要書類を発行し、呈示までにどれくらいの時間を要するかを事前に整理しておくことが重要だ。特に三国間貿易の場合、輸出者所在国外で発行される書類が含まれることが多く、タイムラインの管理には一層の注意を払いたい。

次に、信用状冒頭に記載される信用状発行銀行に注目したい。信用状取引では輸入者による不払リスクはヘッジできるが、発行銀行のデフォルトリスクは残存する。発行銀行の信用力次第では、追加のリスクヘッジとしてそれ以外の銀行にL/C代金支払いを保証してもらう確認信用状の利用を検討する等、追加のリスクヘッジ対策を講じる必要が出てくるだろう。

最後に、輸出者および輸入者の双方にとって重要なポイントである支払/回収条件についてふれたい。輸入者の支払タイミングは「42C 手形条件」にて規定される。図表3のサンプルの場合、「船荷証券の日付から120日後」に支払が行われる。

また47A追加条件には、以前取り上げたUPAS L/Cの象徴的な文言など、追加の支払または回収条件が付け足されていることもある為、注意を払いたい。

代表的な必要書類

信用状取引で求められる代表的な必要書類として、荷為替手形、船荷証券、コマーシャルインボイス、海上保険証券、原産地証明書、パッキングリスト等が挙げられる。今回はその中でも重要な荷為替手形と船荷証券とを説明する。

1) 荷為替手形(Bill of exchange、B/E)

一般的な約束手形は債務者(支払人)が振り出し、債務者から債権者に対して受け渡されるが、荷為替手形は債権者(輸出者)が作成し輸入者へ代金を請求するものである。

白地フォームは各銀行が提供していることが多く、輸出者が同フォームに必要な情報を記載する。荷為替手形が、船荷証券等の金額や信用状情報と一致しているかについては注意したい(図表4)。

2) 船荷証券(Bill of Lading、B/L)

船荷証券とは貨物を受け取る権利を証券化した有価証券であり、貨物の所有権移転には裏書が必要となる。信用状取引の場合、荷受人を信用状発行銀行とすることがほとんど。輸入者は信用状発行銀行から裏書を受け、船荷証券原本を船会社へ持ち込むことで、貨物を引き取ることができる。

金額をはじめとした各種内容と他の船積書類との整合性が取れているか、信用状の番号は正しいか、書類呈示期限はいつになるか(船積書類呈示期限が船荷証券日付を起算した日数となっている場合)等の確認を行う(図表5)。

ディスクレ発生時の対処

信用状取引における堅確な貿易実務の重要性をお伝えしてきたが、いざディスクレが発生した際にどのような方策を取れば良いか、最後に簡単に触れておこう。

ディスクレには、輸出者および指定銀行が輸入者側へ船積書類を送る前にディスクレが判明する場合と、書類送付後に輸入者側でディスクレが判明する場合の2つのパターンがある。いずれの場合においても、まず、輸出者側で船積書類の訂正または差し替えができないか検討することから始める。

どうしても訂正が難しい場合、信用状の条件を変更(=Amendment、アメンドメント)ができるか、もしくは信用状の条件は変更せずディスクレ付のまま取引を進めることを輸入者または信用状発行銀行が許容できるか等、次善の策を協議していくことになる。

最後に

それぞれ法律の異なる国に所在し、また双方の信用力が把握しづらい国際企業間取引において、信用状統一規則であるUCP600等の国際的な共通ルールに基づき一定の条件のもと銀行から支払確約が得られる信用状取引は有用であると考えられるが、送金取引と比べ事務負担が大きいことも事実だ。

信用状取引のメリットを確りと享受する為には、信用状条件や船積書類の基礎を押さえておく必要があるだろう。本稿が貿易実務に関する知識向上やスムーズな信用状取引実現の一助となれば幸いである。


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