マレーシア首相、SEMIイベントで熱弁 ~東南アジアの半導体産業の未来(上)~

マレーシア首相、SEMIイベントで熱弁 ~東南アジアの半導体産業の未来(上)~

公開日 2024.06.24

世界の自動車市場で、電気自動車(EV)のシェアがどこまで拡大していくかはまだ分からない。ただ今後の自動車産業を担うCASE技術の「コネクテッド」や「自動運転」分野などでは半導体が不可欠であり、半導体関連産業の重要性が一段と増すのは間違いない。そして、世界では生成AI(人工知能)「チャットGPT」やエヌビディアが経済ニュースの主役に躍り出ている。

そうした中で、5月28~30日の3日間、東南アジアの半導体含むElectric & Electronic(E&E、電気・電子)産業のリーダーとなりつつあるマレーシアの首都クアラルンプールで、国際半導体製造装置材料協会(SEMI)主催の国際イベント「SEMICON東南アジア2024」が開催された。東南アジアの自動車生産ハブの地位確保を目指すタイも半導体関連産業の誘致を始める中で、このイベントが示唆する東南アジアの半導体産業の未来とタイの製造業の課題を3回にわたり探る。

アジットSEMI会長による講演の様子
「アジットSEMI会長による講演」出所:SEMI

アンワル首相の熱い思い

「1972年にインテルは、マレーシアに160万ドルを投資し、同社初の海外生産拠点を開設した。この工場はかつて田んぼだったところに建設された。本当の話、その後インテルの最高経営者(CEO)となるアンディー・グローブ氏がモンスーン期にこの工場を訪問した際、その車はぬかるみにはまってしまった」

マレーシアのアンワル首相は5月28日、「SEMICON東南アジア2024」での特別講演で、マレーシアの半導体産業発展の出発点となったインテル進出の際のエピソードを紹介して話を始めた。同首相は続いて、「AMDや日立製作所、クラリオン、ロバート・ボッシュ、オスラムなど多くの多国籍企業がマレーシアに拠点を構え、追随した。より重要なのは、われわれが地場企業の発展に成功したことだ。・・・インテルの参入から50年が過ぎ、われわれは発展する半導体のエコシステムと強固な基盤を築いた」などとマレーシア半導体産業の歴史を誇らしげに振り返った。

SEMIでのアンワル首相の演説の様子
「アンワル首相のスピーチ」出所:SEMI

そして、「グローバル・サプライチェーンにおけるわれわれの戦略的地位は十分に認知されており、信頼感は引き続き強固だ。2023年だけで、私の出身地であるペナンへの半導体多国籍企業による外国直接投資(FDI)額は128億ドルとなり、過去7年の合計額を上回った。特に、インテルはペナンでの新工場に70億ドルを投資すると発表した」と報告。さらに、「過去半世紀の間にマレーシアは、半導体輸出では世界6位、電気・電子(E&E)製品では世界10位になった。しかし、われわれはOSAT(組み立て・試験受託)というサプライチェーンの後工程に集中し過ぎている。われわれはより多様化し、バリューチェーンの上流に行ける強力な潜在力を持っている。それは。既存の基盤の上に、半導体設計、先進OSAT、先端パッケージング、洗練された半導体製造装置といったよりハイエンド製品にシフトしていくことを意味している。われわれのビジョンは、革新と創造力で地域内、そしてグローバルに競争するために、ダイナミックなマレーシア企業と世界水準の人材がけん引するエコシステムを創出することだ」などと、半導体産業におけるマレーシアの現在地を明快に説明、向かうべき方向性などについて熱弁をふるった。

マレーシアの半導体産業戦略

アンワル首相はこの講演で、「4月16日の国家投資委員会の会合で、マレーシア半導体産業の戦略計画策定を要請した」と明らかにした上で、この「国家半導体戦略(NSS)」は3段階に分かれているとし、各段階の概要を次のように説明した。

第1段階は「マレーシアの基盤確立」で、OSATの近代化を支援するための既存能力のテコ入れと、先端パッケージングの追求で、具体的にはマレーシアの既存ファブ(Fabrication、半導体チップ工場)の発展、パワー半導体など先端半導体の生産能力の拡大に向けたFDIの呼び込み。

第2段階は「先端分野への参入」で、最先端のロジックとメモリー半導体の設計、製造、検査の強化とこれら半導体の購入の高度化。第1段階が完了後、より最先端の半導体メーカーを誘致し、これらファブ企業のエコシステムにマレーシア地場の設計大手がより容易に参加、統合化できるようにする。

第3段階は「最先端分野でのイノベーション」で、世界水準のマレーシアの半導体設計、先端パッケージング、製造装置会社の発展を支援し、先端半導体を購入するアップルや華為技術(ファーウェイ)、レノボなどの先進企業を呼び込む。

第1段階では5000億リンギの投資を誘致

このNSSを推進するための目標値として、第1段階では、IC(集積回路)設計、先端パッケージング、製造装置に焦点を当てた国内直接投資(DDI)と、ウエハー・ファブと製造装置を対象としたFDIとの合計で、最低5000億リンギの投資を誘致する。さらに、第2段階までに、IC設計、先端パッケージング分野で、売上高10億~47億リンギのマレーシア企業を少なくとも10社を創出するとともに、売上高が10億リンギ近くとなる半導体関連企業を少なくとも100社育てることを目指すとした。

このほかの目標としては、世界レベルの大学、企業の研究開発(R&D)、マレーシア人と外国人の優秀な人材が集まるセンターを整備してマレーシアを世界のR&Dハブにすることや、高度技術を持ったマレーシア人エンジニアを訓練することを挙げた。そしてNSSを実行するための財政措置として少なくとも250億リンギの予算を配分すると表明した。

アンワル首相はこれらNSSの概要を公表した後、特に気候変動の対策とリスク低減に残された時間は少なく人類の生存のためにも多国籍の半導体生産の拡大が不可欠だと強調。「より安全で強靭な世界の半導体サプライチェーンの構築を支援するためにマレーシアを最も中立な場所として提供する」と高らかに宣言した。

半導体は「新しい石油」

今回のSEMICON東南アジア2024では、マレーシア政府からはアンワル首相のほか、ザフルル・アジズ投資貿易産業相も開会式で登壇した。同相は、「われわれは現代の世界で半導体が果たす重要な役割を再認識させられている。この小さな、しかしパワフルなコンポーネントは実質的にすべての電子デバイスのバックボーンになっており、われわれの経済、数十億人の日常生活に不可欠だ」と強調した上で、「半導体はまさに新しい石油だ」と表現した。

ザフルル投資貿易産業相による講演の様子
「ザフルル投資貿易産業相による講演」出所:SEMI

そして同相は、半導体の前工程分野を発展させるために昨年策定した「新産業マスタープラン(NIMP)2030」について、「付加価値を高め、前工程に移行するためのさまざまな主要戦略を描いている。そこには、マレーシアでIC設計のチャンピオンを育て、IC設計のクラスターを発達させ、先端ICパッケージの製造能力を強化、ウエハー・ファブを建設する世界のリーダー企業を誘致することが含まれる」と報告した。実際にも過去18カ月間に米インテル、米グローバルファウンドリーズ、独インフィニオン・テクノロジーズ、蘭ニューウェイズなどの世界の最先端電子機器企業が進出しているとアピール。そして昨年、マレーシアが認可した投資総額が過去最高の3295億リンギに達したことを明らかにした。

(増田篤)

(中)へ続く

THAIBIZ編集部

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