「本当の意味で、要介護高齢者の生活向上に役立ちたい」-高齢化が進むタイで老舗車椅子メーカーが目指す未来

THAIBIZ No.151 2024年7月発行

THAIBIZ No.151 2024年7月発行スマートシティ構想で日タイ協創なるか

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「本当の意味で、要介護高齢者の生活向上に役立ちたい」-高齢化が進むタイで老舗車椅子メーカーが目指す未来

公開日 2024.07.10

日本国内首位の車椅子メーカーとして名を馳せる株式会社松永製作所。アジア市場の開拓を進める同社がターゲットとして選んだのは、少子高齢化が進み、今後30年以内に高齢化社会から超高齢化社会への突入が確実視されるタイだ。車椅子をはじめとする介護用品の需要はあっても、高価な価格設定や不十分なアフターケアなどが、必要な人へのリーチを阻んでいる状況に着目した。

同社は、タイ市場のニーズに合わせた価格と品質で車椅子の普及を目指し、要介護高齢者の生活向上に資する試みに挑んでいる。


MATSUNAGA (THAILAND) COMPANY LIMITED
早矢仕 真史 社長

株式会社松永製作所 1974年設立。岐阜県養老郡養老町にて車椅子を製造販売。高齢者の健康寿命の延伸に貢献するための製品開発を進め、日本国内でトップシェアを持つ。また、車椅子バスケットボールの日本代表やイギリス代表などのパラスポーツの支援も行っている。タイには2014年に販売会社として進出している。


木下 事業内容とタイでの取り組みについて教えてください

早矢仕 主に高齢者向け車椅子の製造販売を行う当社は、2000年4月に始まった介護保険制度を背景に日本で業績を伸ばしてきました。高齢者向けサービスの拡大などで日本での売上は増え続けていますが、少子高齢化社会にあって将来的な市場の縮小は確実であり、海外に出て日本品質の車椅子を提供していこうという流れは、ごく自然の成り行きでした。

アジア一円をリサーチしましたが、所得水準や人口規模、さらには高齢化の進行などを考えた時に、タイに代わる国はありませんでした。親日の土壌も後押しとなり、2014年、タイ法人を設立しました。すでに中国上海に製造工場を稼動させており、供給にも一定の目途がついていました。

ただ、結論から言えば、タイ進出は3年ほど早かったなという印象を持っています。と言うのも、今でこそ「家族が高齢者の面倒を見られない」など介護者の減少にまつわる課題が見られますが、当時のタイの人々は今ほど高齢化を起因とする困りごとは抱えていなかったように思います。また、意識の問題もありました。

例えば、高齢者に座り心地を試していただこうと、体験用の車椅子に席を勧めても、一向に座ろうとしてくれませんでした。後で耳打ちされ分かったのですが、車椅子は縁起が悪くて抵抗を感じたというのです。これには驚きました。

今では高齢者や認知症患者の増加に伴い、当たり前に使われている車椅子ですが、当時のタイ社会ではあまり馴染みのないものでした。

医療従事者向けセミナーの様子

木下 そうだったのですね。車椅子に縁起が悪いという考えがあったことは驚きでした。御社製品の特徴と課題についても教えてください。

早矢仕 車椅子メーカーによって、仕様や価格帯、品質などは実にさまざまです。単純に価格だけで比較すれば安価な外国製とは数倍もの開きがありますが、当社が譲れない要素の一つとして、利用者の姿勢保持機能が挙げられます。姿勢が悪ければ前屈みとなり、内臓が圧迫されるなどの健康被害や肺機能の低下にもつながりかねないからです。

「姿勢が変わると行動が変わる」と言われるほど利用者の生活に重要なことなのです。適正な姿勢を保つため背もたれの傾斜を調整できる機能は、当社製品だけが持つ特徴であり、最大の拘りです。

ただ、タイ市場ではやはり、価格は無視できません。コストダウンを実現する方法として、例えば日本では取り付けている部品カバーの一部を、タイの製品からは取り除くなどの工夫が考えられます。これは、タイの利用者を軽視しているわけではなく、製造物に対する考え方など文化の違いです。

また、ミャンマー・ヤンゴンのティラワ工業団地内にある新工場の安定的な稼動が可能なると、今後は価格を下げることができるようになると考えています。

「売って終わりにしないこと」も重要視しており、備品の修理やメンテナンスなど、アフターケアサービスも提供しています。当社が大切にしている軸はそのままに、価格も含めてタイのニーズに合わせた製品を、必要な人に届けたいと考えています。

背もたれの調整方法のレクチャーの様子

木下 JICA事業の活用における感想と、タイで事業を行う上で大切にしていることは。

早矢仕 海外事業を成功させるために、JICAや省庁などの補助事業への参加や活用は欠かせないと考えています。世界的に名を知られている大企業ならまだしも、中小企業が単独で海外の取引先を開拓することは非常に難しく、公的なサポートが大きな助けになります。

当社では病院や老人ホームが主な営業先となりますが、日本の常識を押しつけるようなことは禁物だと思っています。相手の文化を尊重することから始めなければなりません。一方で、時代に応じた意識改革の提言は続けていきます。例えば、高齢者のためを想う行動として、身の回りの世話を介護者が全て先回りしてやってあげることは正しいのでしょうか。

本来は、そうではありません。自分でできる環境を整え、できる方法を伝授し、できるまで待つことが、本当の意味で「その人を大切にすること」だと思います。今後の目標は、当社の製品を通して、このような意識の改革も実現させることです。

背もたれの張り具合をベルトで細かく調整できる機能は、同社製品だけが持つ特徴
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JICAタイ事務所
Representative

木下 真人 氏

タイの社会課題解決につながる日系企業のビジネス支援を担当。インドネシア、中国、シンガポール、トリニダード・トバゴなどで15年以上にわたり海外のJICA、日本大使館の国際協力業務に従事。2008年以来二度目のタイ赴任。International Institute of Social Studies 開発学修士。
Email:[email protected]

JICAタイ事務所

31st floor, Exchange Tower, 388 Sukhumvit Road, Klongtoey
Bangkok 10110, THAILAND
TEL:02-261-5250

Website : https://www.jica.go.jp/overseas/thailand/office/index.html

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