THAIBIZ No.154 2024年10月発行なぜタイ人は日系企業を選ぶのか
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カテゴリー: 対談・インタビュー
連載: 在タイ日本人駐在員の挑戦
公開日 2024.10.10
「任期中にこれだけは成し遂げる」という強い覚悟でタイでのミッションに臨んでいる駐在員は、一体どれ程いるだろうか。「需給改善を通じてチームの全体最適マインドを育て上げるまでは、帰任できない」と言い切るのは、Toyota Motor Asia (TMA) の福見優一氏だ。
目次
Toyota Motor Thailand (TMT)は1962年に自動車販売から始まり、60周年を迎えた2022年からはタイ企業との協業もスタートしました。TMAは2007年に設立された、アジアの統括事業体です。
私はTMA所属の生産管理担当として2022年に赴任しましたが、2024年1月の組織編成に伴い、TMTも兼務となりました。TMTで生産する自動車は、4割がタイ国内で販売、6割が海外に輸出されます。タイ国内に3つの工場を持つTMTには、全体で1万人以上の従業員が所属しており、うち日本人は30人強です。
私のミッションは「TMT生産車両の生産管理」ですが、本質は生産だけでなく需給を管理することと考えています。その一環として今、トヨタの海外生産として初の試みである「需給改善」に挑んでいます。海外工場では、大半が調達に時間がかかる輸入部品であった数十年前から、2ヶ月先の生産計画を立てています。
一方で日本では、約99%が国内調達のため、1ヶ月先の生産計画を立てるのが通常です。時代は変わり、TMTは大半がタイ国内のサプライヤー様から納入いただく体制になったため、タイの生産計画のリードタイムも「1ヶ月」にすべく検討しています。
ポイントは「何のためにリードタイムを短縮するか」です。お客様のためでなければ意味がありません。販売店様への配車プロセスと同期化し、実需を生産に繋げるプロセスを検討しています。それが需給の現場でできる、トヨタのビジョン「幸せの量産」への貢献であり、目の前で作っている自動車の先に「お客様」がいることを、より生産メンバーに感じてもらいたいと思い取り組んでいます。
タイは、長年培ってきた各機能ごとのオペレーションは素晴らしく、私のような中堅でも新しい取り組みに挑戦できる土壌が整っていると感じる一方で、部門間の壁は日本以上に高く、機能や組織を超えたコミュニケーションや、全体最適という観点で伸びしろがあると思います。
特に需給改善を実現させるには、機能別で部分最適を追い求めるだけでは不十分なため、そこをどう乗り越えるかが課題です。実力のあるタイだからこそ、広い視野で「どうするべきか」を考えられるチームを作りたいと考えています。
赴任当初はTMAにあった生産管理機能が、今年からTMTに移り、生産部門および販売部門と同じ会社になりました。従来は会社間の壁があり、意思疎通がうまくいかない要因でもありましたが、組織編成を経て物理的な壁は一つ取っ払うことができました。さらに、従来の機能を超えた全体最適マインドを育てることができれば、組織としても大きく成長する重要なステップになるはずです。
また、過去の取り組みについても各方面から情報収集する中で、成功へと繋がるポイントの一つは「日本人だけでなくタイ人主体で取り組むこと」だと気が付きました。タイでは、関係性の構築が欠かせません。人の入れ替わりが激しい駐在員だからこそ、「現状」だけを見るのではなく「過去の経緯」を踏まえたアクションが大切です。簡単ではありませんが、先人たちがタイで積み上げてきてくれた軌跡を糧にした推進を意識しています。
需給改善に向けて、パートナーであるタイ人マネジャーと共に全体を少しずつ牽引している感覚は出てきました。数ヵ月前、彼女が率先して全社のワーキングチームを立ち上げました。機能間の壁に悩む現状があるため、一歩前進できたと感じています。
彼女には「数十年変わっていない需給管理を変えたい。タイだからそれができると思う」と正直に伝え、検討を重ねながら改革を進めてきました。彼女が「自ら全体を引っ張る」と決めて行動に移してくれたことは、とても嬉しく心強くもあります。
「アドバイザー」という肩書で赴任したため、来タイ前は「タイ人メンバーが進むべき道に悩んだ時に、『どうすべきか』や『特定のスキル』などのHOWを提供すること」が自分の役割だと捉えていました。そこにプラスして、ビジョンや価値観の共有がうまくできれば、物事は変えられると思っていたのです。
しかし、いざ来タイすると、タイ人メンバーは既にHOWの部分は持っており、人材としても皆優秀でした。では、なぜ変われないのか。彼らと会話しながら考えた結果「組織や会社の枠を超えてチーム全体として物事を進めるための、コミュニケーションやマネジメントの能力を磨く必要がある」という結論に辿り着きました。
パートナーのタイ人マネジャーをリーダーに立てて、タイ人同士で組織を超えた信頼関係を築くことに重きを置き、そこをサポートしていくことが私の役割だと今は考えています。方向性が大きく間違っていなければ、極力彼らの意見を尊重して進めています。
「需給改善を通じた全体最適マインドを育むまでは帰任できない」想いで取り組んでおり、実際に3年間だった任期を1年延長しました。リードタイムをゼロにすることは出来ませんが、当社のような古典的な企業が「努力した結果、ここまでできた」と胸を張った改革をすることで、タイの製造業の羅針盤になれたら、と勝手ながら思っています。
福見 優一氏
TH-Dom. PCL Planning Department Technical Advisor
Toyota Motor Asia (Thailand) Co., Ltd.
2010年、トヨタ自動車に新卒入社。アジア、南米、アフリカ生産の生産管理業務の日本本社担当を経験した後、2022年1月にタイ赴任。Toyota Motor Asia (TMA) およびToyota Motor Thailand (TMT)を兼務。
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THAIBIZ編集部
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