2025年のASEAN経済見通し

THAIBIZ No.158 2025年2月発行

THAIBIZ No.158 2025年2月発行日タイビジネス70年の軌跡と未来への挑戦

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2025年のASEAN経済見通し

公開日 2025.02.10

みずほ銀行バンコック支店メコン5課が発行する企業向け会報誌『Mekong 5 Journal』よりメコン川周辺国の最新情報を一部抜粋して紹介

田村 優衣 |産業調査部アジア室

2024年の景気はまだら模様

2024年のASEANの景気は各国によってまだら模様の局面となった(図表1)。

出所:CEIC dataより、みずほ銀行産業調査部作成

第一に、財輸出の回復に濃淡が目立った。シンガポール、ベトナム、マレーシアではAIブームなどを起点とした半導体、電子デバイス関連需要が輸出の回復に寄与した。一方、フィリピン、タイは、半導体、電子機器でも比較的汎用品に近いものを製造しているほか、インドネシアは電子機器製造の集積が薄いため、AIブームの恩恵を取り込むことができず、輸出の回復は緩やかなペースにとどまった。

また、電子機器分野が回復するシンガポールやマレーシアでも、その他の化学製品や資源製品の輸出が振るわず、輸出全体の回復に対する足かせとなった。回復の濃淡は仕向先別の動きでも目立った。AIブームの影響国を中心に、米国やASEAN向けの輸出が好調だった一方、中国や日本、欧州向けは総じて不振であった。

加えて、高金利の影響も一部の国で顕著に表れ、内需の重石となった。2023年の金融引き締めから、2024年も総じて高金利が維持された。インドネシアやタイでは、高金利の継続から家計の債務負担が増大し、金融機関における貸出審査基準の厳格化を招いた。借入が難しくなった家計は住宅や自動車を購入しづらくなり、これらの国では住宅投資や自動車販売が落ち込んだ。

その影響は、生産不振による設備投資の停滞にも表れたとみられる。2024年後半には、物価情勢の落ち着きから利下げの動きが広がったが、利下げのペースは総じて緩やかであった。また、マレーシアやベトナムでは、通貨安や食料インフレ等への警戒が根強く、利下げの実施には至っていない。シンガポールも、金融政策の操作対象となる為替誘導スタンスを据え置いた。

2025年のキーポイント

2024年に続き、2025年もASEAN各国の景気はばらつきが残ると予想される。

第一のポイントは財輸出である。2024年は前述の通りばらつきの大きな展開となったが、2025年の前半にかけては、総じて減速に向かうと考えられる。主因は、2024年の輸出増加を牽引した仕向先であった米国で、需要の減速が予想されることである。米国は2022年に急速な金融引き締めを進め、2023年も高金利を維持したが、コロナ禍で積みあがった貯蓄の取り崩しや株高のもと、米国の需要は堅調さを保ってきた。

しかし、金融引き締めの効果は、2024年末にようやく需要の軟化という形で表れつつあり、2025年前半にかけて、米国の景気は減速感が強まるとみられる。ASEANにおいては、輸出のけん引役であった米国が減速に向かうことで、AIブーム等で好調だった国でも輸出の伸びが縮小していく公算が高い。その後の持ち直しは、足元の利下げの効果が米国で表れる2025年後半となるだろう。

第二のポイントは物価、金利動向である。2024年は総じて物価上昇圧力が後退したが、利下げの動きは国によりまちまちであった。2025年も、各国の金融政策のスタンスはグラデーションが残存する形となるだろう。すでに利下げを始めたインドネシア、タイ、フィリピンでは緩やかな利下げが続けられる見込みである。

ただし、フィリピンは天候不順の余波による食料品価格の上昇、マレーシアは燃料補助金削減など、インフレ圧力が高まるリスク要因を抱えている。こうした国では利下げペースの調整や、利下げ開始が先送りされる可能性がある。また、通貨安圧力と外貨準備の不足が根強いベトナムでは、利下げは当面難しい環境が続くだろう(図表2)。

出所:CEIC dataより、みずほ銀行産業調査部作成
※インフレ率は消費者物価指数(総合ベース)の前年比変化率。物価目標は各国中銀が定める目標水準またはレンジ。シンガポールについては政策金利・物価目標が公表されていないため掲載なし。

ASEANをかく乱するトランプ新政権

ただし、これらの基本的な見立てに対しては、トランプ新政権が大きなかく乱要因となりうる。

トランプ氏が選挙中に掲げてきた政策には、自国第一主義的な産業、通商政策が目立つ。とりわけ明確なのは、中国製品の米国からの締め出し強化と、自国内への生産回帰促進である。そのためには、中国やカナダ、メキシコ製品に対する高税率の輸入関税(選挙中は中国について「60%」を表明)や、諸外国製品に対する普遍関税(全世界の製品に対する10〜20%程度の関税)など、強力な手段を辞さない姿勢を示している。こうした極端な通商政策が導入された場合、ASEAN経済にも貿易を通じた影響が発生すると見込まれる。

トランプ氏の通商政策は、ASEAN経済にポジティブ、ネガティブ両面の影響を及ぼすと考えられる。ポジティブな影響として、中国製品の締め出しは、ASEANにとって潜在的な対米輸出拡大の機会となりうる。米国の製造業製品は3割程度を輸入に依存している。対中追加関税が発動された2018年以降、中国製品への依存度が低下してきた一方、それを補う形で、地理的に近いメキシコのほか、ベトナム、マレーシア等のアジア諸国への依存度が高まってきた。

ASEANをはじめとしたアジア諸国は米国に比べて製造コストが低いため、米国企業が価格競争力を維持するために、ASEANからの輸入拡大を選択してきたことを示唆している。トランプ新政権において対中関税が引き上げられた場合には、ASEANからの対米輸出拡大の動きが強まる可能性がある。

一方、ネガティブな影響としては、輸入コストの増大が米国内の需要を下振れさせる可能性がある。トランプ氏が公約に挙げた普遍関税は、米国内で輸入コストの上昇を通じて、企業収益や家計所得を圧迫する要因となりうる。また、追加関税に対して各国の報復関税が発動された場合は、貿易コスト増大の影響が米国以外にも広がり、米国以外の地域向け輸出をも下押ししかねない。

トランプ新政権の政策の影響をまとめると、中国製品の締め出しはASEANにとって対米輸出拡大の機会となりうる一方、普遍関税が導入される場合は、貿易コストの拡大が米国の需要を下押しすることで、対米輸出拡大の効果をオフセットすると考えられる。

まとめ

2025年のASEAN経済は、2024年に続き、成長モメンタムにばらつきのある状況となるだろう。財輸出の回復や利下げの足並みは揃わず、各国の状況見極めが重要となる。

また、関税引き上げをはじめとしたトランプ新政権の政策は、ASEANにとってポジティブ、ネガティブ両面の影響をもたらす可能性がある。トランプ新政権が各国への追加関税、およびASEAN含む世界に対する普遍関税をどの程度の税率に設定するのか、あるいはどのような期間を経て引き上げようとしているのかは、現在も不透明な点が多い。今後も政策の具体化に向けた動きを注視する必要があるだろう。


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