第二世代へと進化するタイのバイオエネルギー ~PTTグループ、GGCのクリッサダ社長インタビュー~

第二世代へと進化するタイのバイオエネルギー ~PTTグループ、GGCのクリッサダ社長インタビュー~

公開日 2025.03.05

2022年、タイ農業・協同組合省(MOAC)は農業部門が国内総生産(GDP)の約8.5%を占めたことを発表した。生物多様性の豊かなタイでは、同部門は経済の柱のひとつといえる。さらに、キャッサバやサトウキビを大量に生産できることから、それらを原料とする「バイオエネルギー」は同国産業の強みの一つとなっている。

今回はタイ国営石油PTTグループのPTTグローバルケミカル(PTTGC)の子会社であるバイオ化学製品メーカー、グローバル・グリーン・ケミカルズ(GGC)のクリッサダ・プラサートスコー社長に、事業概要やバイオエネルギーとバイオケミカルの将来、日本企業との提携の可能性について話を聞いた。

(インタビューは2024年10月16日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTHAIBIZ編集部)

タイ国営石油PTTグループのPTTグローバルケミカル(PTTGC)の子会社であるバイオ化学製品メーカー、グローバル・グリーン・ケミカルズ(GGC)のクリッサダ・プラサートスコー社長
グローバル・グリーン・ケミカルズ(GGC)のクリッサダ・プラサートスコー社長

グリーン事業のリーディングカンパニーへ

Q. GGCの設立の経緯と主な事業概要は

クリッサダ社長:GGCは2005年にタイ・オレオケミカルズ(TOL)として創業し、2017年にタイ証券取引所(SET)に上場した。われわれの主な目標はタイの経済、社会、環境の側面から持続可能性を重視し、グリーン事業のリーディングカンパニーになることだ。

中核事業は、主に以下3つの分野に分けられる。

GGCの製品について
「GGCの製品について」提供資料:GGC

バイオエネルギー:総収益の約62%を占める(2024年第3四半期時点)。脂肪酸メチルエステルまたはバイオディーゼル(B100:植物油や廃食用油を原料とする環境配慮型の燃料)と呼ばれる、パーム油とサトウキビを原料とするガソホール混合用のエタノールを生産している。バイオエネルギーの生産能力は年間50万トンだ。

バイオケミカル:総収益の約37%を占める。われわれはタイで唯一の、燃料やケア用品など幅広い用途を持つ有機化合物である脂肪族アルコールのメーカーでもある。現在、年間10万トンの生産能力を持っており、70%以上を中国や日本、アメリカ、欧州連合(EU)などの海外市場に輸出している。また、医薬品や医療製品に使用されるバイオ由来の精製グリセリンや、消費財に利用される脂肪族アルコールエトキシレート(FAE)などの特殊化学品も生産している。

食品原料・医薬品:総収益の約1%を占める新規事業だ。甘味料、食品添加物、栄養補助食品などを製造している。「ニュートラリスト」という自社ブランドを立ち上げ、腸内バランスを整えるプロバイオティクスや美肌原料のあるアスタキサンチンなどの生産を始めている。

豊富な生物多様性がタイの強み、課題は高付加価値技術

Q. タイは将来、バイオハブになる可能性があるか

クリッサダ社長:タイは、これまで継続的に育んできた生産経験を活かせば、バイオハブとしての地位を確立できる可能性は高いのではないか。タイはASEANの中でも森林破壊の問題がそれほど深刻ではないため、環境破壊に繋がる生産プロセスの製品に対して規制の厳しい欧州や米国の市場にタイ製品は入り込むことが可能だ。

もう一つの強みは、他国と比べて生息する生物の多様性が豊かであるため、農産物の高付加価値製品の開発という点で有利であることだ。しかし、タイは原料に価値を付加する高度な技術を欠いており、たとえば、化粧品や特殊化学品の前駆物質の生産技術などが不足している。

GGCは大規模生産を日々管理しているほか、PTTグループの傘下にあるため、グローバル市場を理解している。また、当グループは石油化学からエネルギーまでグループ内で関連製品の事業を展開しているため、川上から川下までのバリューチェーンにおいて効率的に連携できることが特徴だ。タイのバイオハブとしての地位確立に、大きく貢献できる組織だと思っている。

EVシフトの中でもバイオエネルギーの成長余地は十分にある

タイ国営石油PTTグループのPTTグローバルケミカル(PTTGC)の子会社であるバイオ化学製品メーカー、グローバル・グリーン・ケミカルズ(GGC)のクリッサダ・プラサートスコー社長02

Q. バイオの将来と今後のチャンスは

クリッサダ社長:PTTグループでは、GGCをグループの 「グリーン・フラッグシップ」と位置づけ、バイオ製品の開発に取り組んでいる。GGCは戦略的な目標を設定し、グループ各社と連携して、バイオ、循環、サステナビリティ製品の開発に注力している。今後1~2年で、グループ内の統合により新規事業を推進し、PTTグループがこの分野のリーダーとしての地位を確立することを目指している。

現在、自動車産業においては電気自動車(EV)へのシフトが進んでいるものの、バイオエネルギーはまだ成長余地があると見ている。バイオディーゼルやエタノールのような第一世代バイオ燃料は、内燃機関(ICE)車で化石燃料と同様に利用できるため、十分な需要があるだろう。特にトラックなどの商用車において、運用コストの問題からEVへの切り替えが進みにくい状況に適している。

しかし、将来のバイオエネルギーはバイオジェット燃料や船舶燃料としてのグリーンメタノールのような第二世代へと発展していく必要がある。特に船舶用グリーンメタノールは既存のエンジンに使用できるため、今後さらなる需要の増加を見込んでいる。

「タイ産」を目指すバイオ製品、日本企業との連携ニーズ

Q. GGCのバイオ製品の開発における課題とニーズについて

クリッサダ社長:タイのパーム油やサトウキビなどがバイオ製品における高品質な原料として評価されている。このため、われわれの効率的な生産プロセスと組み合わせれば、グローバル市場で競争優位性を高め、持続可能なエネルギーとバイオ製品の需要に対応できる。すべての原材料をタイ国内で調達できる状態を目指している。製品に価値を付加するには高度な技術が必要だが、技術力のある日本企業と連携できれば、グローバル市場でのチャンスを共に掴むことができるだろう。

タイ初のバイオハブ「ナコンサワン・バイオコンプレックス」

Q. タイ初のバイオハブと呼ばれる「ナコンサワン・バイオコンプレックス」の工場について

ナコンサワン・バイオコンプレックス(写真提供:GGC)
ナコンサワン・バイオコンプレックス(写真提供:GGC

クリッサダ社長:タイ政府が掲げるバイオ・循環型・グリーン(BCG)経済に沿った重要なプロジェクトで、工場はナコンサワン県にある。このプロジェクトには主に2つ特徴がある。

1)サトウキビを主原料とするエタノール生産に注力。また、生産工程で副産物として発生するバガスなどを、約80メガワットの生産能力を持つバイオマス発電に利用する。電力の一部は自社のエタノール工場で使用し、残りはタイ発電公社(EGAT)に供給している。

2)電力、水、廃棄物管理などの資源管理パイロット工場。また、PTTグローバルケミカル(PTTGC)子会社へのポリ乳酸(PLA:生分解性バイオマスプラスチック)の生産に必要な原料を供給している。このプロジェクトはPTTグループ内でのバリューチェーン内連携の好例だ。

持続可能なパーム栽培の支援

Q. GGCのサステナビリティ事業と農家への支援は

持続可能なパーム油生産プログラム(SPOPP)(写真提供:GGC)
持続可能なパーム油生産プログラム(SPOPP)(写真提供:GGC

クリッサダ社長:われわれはドイツ国際協力公社(GIZ)と協力して、「持続可能なパーム油生産プログラム(SPOPP)」を実施している。パーム農家の温室効果ガス(GHG)排出量削減支援とはじめとした、EUが定める「森林破壊防止製品規則(EUDR)」に沿った持続可能なパーム栽培の支援を行っている。

具体的にはまず、農家の地域コミュニティーを作り、農業に関する知識の共有や植林コストの削減支援など、生産量の増加に向けた支援を中心に行う。そして、国際的な非営利組織「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」の基準を満たすべく、パームの植林プロセスの改善に向けたサポートを行う。

さらに、農家と市場をつなぐミドルマン(仲介者)として、パーム油工場とも協力している。現在、約10ヵ所の工場から粗パーム油(未精製のパーム油)を購入し、国内販売と輸出用にバイオディーゼルと脂肪族アルコールを生産している。

BCG経済の実現に向けて、日本の技術を求めている

Q. 日本企業に期待することや今後の提携・協力機会について

クリッサダ社長:日本企業はタイのBCG経済の実現に必要な技術、特にバイオエネルギーやバイオケミカルの分野で高い技術やノウハウを有しており、当社と連携できる部分も多くあるだろう。われわれから提供可能な要素として、新製品開発に向けたPTTGCのバックアップ、当グループのイノベーションセンターの知見、高品質な原料などが挙げられる。

特に以下の分野において、日本企業との連携・協力を歓迎する。

1)バイオエネルギーとサステナビリティの技術:二酸化炭素(CO2)でメタノールを製造する技術。特に船舶用グリーンメタノールなどの事業を展開するチャンスを模索している。

2)バイオ燃料の新規事業:バイオエチレンやバイオポリマーなどバイオ燃料の新製品の製造可能性を探るために、日本企業との覚書(MOU)を締結した。また、バイオジェット燃料の開発に向けて研究を続けている。

3)循環型経済に向けた農業廃棄物の利用:日本の企業と協力して、パームの葉や木などの廃棄物をバイオ炭に転換し、製造工程で出る廃棄物の付加価値向上および農業におけるGHGの排出削減に役立てる技術開発に取り組んでいる。

4)高付加価値製品の開発: 特にナノ亜鉛や他の抽出物などの前駆物質の付加価値を向上させ、化粧品や栄養補助食品の開発に役立てることを目指している。

THAIBIZ編集部

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