初のタイ人社長就任、日本企業からグローバル企業へ ~富士通タイランドのカノッカモン社長インタビュー~

最新記事やイベント情報はメールマガジンで毎日配信中


    初のタイ人社長就任、日本企業からグローバル企業へ ~富士通タイランドのカノッカモン社長インタビュー~

    公開日 2025.04.29

    昨今、デジタルトランスフォーメーション(DX)とサステナビリティトランスフォーメーション(SX)は、ビジネス界で非常に多く語られている。IT業界の大手企業である富士通タイランドも在タイ企業を対象にDXとSXのソリューションを提供しており、その分野のリーダー的な立ち位置を目指しながら、企業が変化の激しい時代に適応できるよう支援している。

    また、同社は「日本企業」のイメージを払拭し、「ITグローバル企業」として認識されるべく尽力している。その証のひとつが、初のタイ人社長の就任だ。同社で初めての女性かつタイ人のカノッカモン・ラオハブラナキット社長に、同社の事業概要や、グローバル企業になるための社内変革、経営者マインドの育成方法などについて話を聞いた。

    (インタビューは1月21日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTHAIBIZ編集部)

    富士通タイランドのカノッカモン・ラオハブラナキット社長
    富士通タイランドのカノッカモン・ラオハブラナキット社長

    日本企業に寄り添うITパートナー

    Q. 会社の設立背景と事業概要は

    カノッカモン社長:富士通タイランドは1990年に設立された。パソコンやスキャナー、エアコンの会社というイメージがあるが、主要なコアビジネスのITコンサルティングやクラウド、サービスなどのほか、ハードウェアおよびアプリケーションサポート、DXとSXのソリューションなど提供している。1980年代は、日本企業がタイを含む東南アジアへ生産拠点を続々と移転していた時代だ。われわれはその流れを受けて、日系製造業に向けたIT支援の事業からスタートした。

    4年前からDX&SX支援の事業に取り組んでおり、「Fujitsu Uvance」というソリューションを通じてお客様の事業の成功をサポートしている。お客様の70%は日本企業で、他にはタイやアメリカ、フランスなどの企業がある。現在は製造業だけでなく、自動車や小売業など他の業界にも進出している。

    「Fujitsu Uvanceのソリューション」提供資料:富士通タイランド
    「Fujitsu Uvanceのソリューション」提供資料:富士通タイランド

    グローバル企業を目指し、会社を変革

    Q. 富士通がグローバル企業になるための戦略について

    カノッカモン社長:親会社である富士通株式会社の創業は1935年で、2003年頃から会社の大幅な組織改革に着手し、IT業界のイノベーションに向けた戦略を立て、日本企業からグローバル企業へと変貌を遂げた。グローバル企業になるためには組織カルチャーの変革が必要だと考え、例えば、重要業績評価指標(KPI)、バランススコアカード(業績管理手法の―つ)などの設定や女性のリーダー登用に関する方針、ジェンダー平等の推進など、国際的な企業の基準に準拠した取り組みを行っている。われわれは「グローバル市民としての価値観」を重視しており、それは経営理念の根幹にもなっている。

    「富士通の製品とサービス」提供資料:
    「富士通の製品とサービス」提供資料:富士通タイランド

    富士通のAIとサービスセキュリティ策について

    Q. 富士通が提供しているAIサービスについて

    カノッカモン社長:われわれは「Fujitsu Kozuchi」という人工知能(AI)を開発した。セキュリティに重点を置いて、閉ざされた環境やデータの保護など、情報漏洩の防止策を徹底している。Fujitsu Kozuchiができる分野は次の7つだ。

    ①「Generative AI」創造性の向上、データの安全性の確保
    ②「AutoML」AIモデルの設計と調整の自動化
    ③「Predictive Analytics」正確な需要予測、 自動調整
    ④「For Text」デジタル化されたテキストの処理・分析
    ⑤「For Vision」光学デバイスを使った人間の行動認識
    ⑥「AI Trust」AIの公正性とセキュリティの検証
    ⑦「XAI」AIの因果関係の説明

    サステナブルな社会の実現に向けて、企業のSX支援にも注力

    Q. 富士通のSXサービスについて

    カノッカモン社長:サステナブルな社会の実現に向けて、われわれは企業のSX支援にも注力している。サステナビリティの定義は企業によって異なり、政府の基準も明確ではないため、企業としての基準の設定と戦略の策定をサポートしている。さらに、企業の温室効果ガス(GHG)排出量やエネルギー消費量などのデータの収集および管理に関しても支援している。

    例えば、GHG排出量を測定するソフトウェアの導入によるカーボンニュートラリティの促進ソリューションや、供給リスクを低減するためのサプライチェーン管理支援ソリューションを提供している。

    「Fujitsu UvanceによるSXソリューション」提供資料:
    「Fujitsu UvanceによるSXソリューション」提供資料:富士通タイランド

    組織変革とビジネス潮流への適用が重要

    Q. 日本企業の変革はなぜ難しいのか

    カノッカモン社長:組織変革にはリスクが伴うとの考え方が一般的だ。経営幹部の中には、会社を変革することで将来的に悪影響を及ぼすのではないか、日本への帰任後に批判にさらされるのではないかと懸念する人もいるだろう。また、タイの従業員が変革に反発する可能性もある。リスクも含めたさまざまな要素を考慮した結果、組織変革に踏み切れない会社も多く見られる。

    このため、変革は難しく、実施する場合も時間がかかる。変革を支援する立場であるわれわれは、変革は正しいマインドセットを持った上級管理職から始めなければならないと考えている。さらに、変革を推進した者が失敗した際に処罰されないことも企業にとって重要だ。たとえ変革が失敗したとしても、そこから学ぶものは必ずあり、何も行動しないより望ましい結果が得られるだろう。

    Q. 昨今のビジネストレンドへの対応について

    カノッカモン社長:ビジネストレンドは常に変化しており、われわれのビジネスに影響を与える外部要因も数多く存在するため、変化に対応できる体制を整える必要がある。変革のための環境を整えることが、その一つの方法となるだろう。人々が変化に慣れることで、変化から生じる影響に対して柔軟に対応できる企業になる。変化に迅速に対応するためには、経営分析を支援するためのデータも重要だ。多くの組織がデータを基にしたツールを用いて自社の変革を進めている。また、データを活用することで迅速な行動が可能になり、結果として企業の競争力を高めることができる。

    タイ人と日本人の強みを活かす体制づくり

    Q. タイ人が日本企業の幹部になるメリットは

    カノッカモン社長: 私が社長に就任した理由としては、タイと日本の市場を把握していることや、日本語でコミュニケーションが図れることなどが挙げられる。富士通タイランドでは、従業員の80%がタイ人だ。タイ人の幹部がいることで、現地タイの市場状況やトレンドを早期に察知できる。また、意思決定の時間を短縮できるため、仕事のスピードが速くなる。

    一方で、日本市場に関しては、それをよく理解している日本人チームが直接対応している。それぞれの特徴を活かしたマネジメントが重要だ。さらに、われわれは「ONE Team One Fujitsu」という働き方の文化を確立しており、これによって在タイ日本企業に対して本社と同じ目標を持って取り組むことができるようになっている。

    Q. 会社のリーダーの役割はどのように変化しているか

    カノッカモン社長:現在の社長や最高経営責任者(CEO)の役割については、単なる「会社の代表」という立ち位置だけではなく、自身が意思決定することで、より積極的な役割を果たす必要がある。チームを率いて明確な戦略を立て、縦割りの構造を解消するなど、時代の変化とともに組織を前進させなければならない。

    経営者マインドの育成を推進

    Q. 社員をどのように育成しているか

    カノッカモン社長:さまざまな社内プログラムを通じて、社員のグローバル市民としてのマインドセットを育んでいる。例えば、会社のポッドキャストで、企業文化や変化への適応力、ジェンダー平等、表現の自由などさまざまなテーマの話を発信し、グローバルな視野を持った社員を育成しているほか、「FUJITSU Innovation Circuit」という教育プログラムを通じて、起業家マインドセットの育成にも取り組んでいる。このプログラムには新しいビジネスプランのコンテストが含まれており、社員が創造性を発揮し、意思決定やマネジメントスキルを磨く機会となっている。

    離職する可能性のある社員への投資はあまり意味がないと考える経営幹部もいるかもしれない。しかし、われわれの経験では、協力的な文化の中で育まれたマネジリアルマインドセットを持つ社員は会社の創造性や革新性を高めるだけでなく、長期的に組織の発展に大きく貢献してくれる。

    タイ企業と連携し、タイの人材育成に貢献

    Q. タイ企業との協力については

    カノッカモン社長:われわれは、量子コンピューティングのスキル開発やグリーンプロジェクトの共創など、多くの分野でタイ企業とのコラボレーションの機会を見出している。このほか、キングモンクット工科大学ラカバン校高等専門学校とも覚書(MOU)を締結し、同大学のインターン生を受け入れている。

    さらに、チュラーロンコーン大学などのタイの大学と協力して、IT教育の改善、特に産業界のニーズに沿った現代的なスキルの開発を支援している。われわれは教育機関と連携して、次世代の学習機会を創出し、将来の雇用市場に向けた質の高い人材育成に貢献している。

    両国の提携で持続可能な成長を期待

    Q. 日本企業へのメッセージは

    カノッカモン社長:日本企業には、タイ市場を諦めないでいただきたい。

    日本はタイにとって非常に信頼できる長期的な素晴らしい友人であることが示されており、日本がタイに投資することは、タイにとって最も素晴らしい経験の一つだと信じている。私は、日本企業が短期的な成果や一方的な利益を追求するのではなく、持続可能な価値の創造に注力していると確信している。

    最終的に、タイの人々は誰が本当の長期的な親友であるかを実感することになるだろう。日本企業には、両国の産業の持続的な成長のために、引き続きタイと協力していくことをお願いしたい。

    Interviewee Profile

    カノッカモン・ラオハブラナキット(Ms.Kanokkamon Laohaburanakit
    Managing Director, Fujitsu (Thailand) Co., Ltd.

    チュラーロンコーン大学文学部を卒業後、文部省奨学金を得て広島大学に1年間留学。アサンプション大学にて経営学修士号(MBA)を取得。1997年に富士通(タイランド)に入社して以来、DXの推進を中心にタイ市場における富士通の成長に貢献してきた。社長就任前は営業統括責任者として、モビリティ、製造、金融、小売、官公庁の5業種を担当。グローバルな視点とサステナビリティへの取り組みを重視し、企業文化の変革にも力を注いでいる。2022年度より現職。

    THAIBIZ編集部

    Recommend オススメ記事

    Recent 新着記事

    Ranking ランキング

    TOP

    SHARE

    https://th-biz.com/jp-executive-fujitsu/