THAIBIZ No.149 2024年5月発行総合商社の成長戦略
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公開日 2024.05.10
タイでの電気自動車(EV)の普及に伴い、バッテリー産業の継続的な成長傾向が予想されている。クリーンエネルギー転換の観点においても、バッテリーは注目を集める技術の一つだ。しかし、課題もある。タイでは、使用済みバッテリーの廃棄やリサイクルにどう対応していくのか、解決策を確立できていない。バッテリーのリサイクル事業は、国内外の企業にとって新たなビジネスチャンスとなり得るのだろうか。
サイアム・コマーシャル銀行(SCB)の調査機関エコノミック・インテリジェンス・センター(EIC)によるリポート「クリーンエネルギーの転換点となるバッテリーはタイにどのような恩恵を与えるのか」をもとに、タイにおけるバッテリー産業の未来を探る。
目次
近年はEV、特にEV乗用車の普及に伴いバッテリーの開発が加速し続けている。各メーカーは、より長い走行距離に耐えうるバッテリーの開発と製造コストの削減を競っている。これは、再生可能エネルギー生産によるエネルギー貯蔵にも好影響を与えている。風力発電や太陽光発電では24時間安定して電力を供給することは難しいが、バッテリーを用いて電力を一時的に保管しておくことで、安定的な供給が可能となるからだ。
世界のバッテリー産業の成長を推進する重要な原動力は、各国の政府部門だ。共通する主な政策として、①新たな需要の創出 ②投資の促進および法律の整備 ③技術の研究開発の推進―の3つが挙げられる。また、温室効果ガスの排出削減への貢献必要性も重要な加速要因となっている。リチウムイオンバッテリーを製造する過程で排出される炭素量は少なく、わずか約33g-CO2 / kWh※1だ。さらに、再生可能エネルギーで電力を生産する場合、排出される二酸化炭素(CO2)はわずか46~76g-CO2 / kWhで、石炭などの化石エネルギーで電力を生産する場合に比べ10分の1程度だという。
EV用バッテリーの世界的な需要は急速に伸びており、2023年には705ギガワット(GWh)の需要があり、2020年~2023年の年平均成長率は約68%だった。2023年~2030年には、年平均19%の増加が続き、2030年には2,370GWhになると見込まれるという(図表1)。
さらに、化石燃料からクリーンエネルギーへの転換が進む中、再生可能エネルギー発電所へのバッテリー需要も拡大している。2020年~2023年の年平均成長率は約78%で、2023年~2030年には年平均22%で拡大し、2030年には275GWhになると予測されている。そして、世界のバッテリー生産能力は、2030年には11テラワット(TWh)に達するとの予測もある。なお、世界の主要なバッテリー生産国の1位は中国で、2030年には全世界の総生産量能力の68%にあたる7.8TWhに達し、次いで米国が同総生産能力の12%にあたる1.36TWhになると見込まれている。
バッテリー産業を考えるにあたっては、バッテリー価格の推移についても把握しておきたい。現在、バッテリーの主原料であるリチウムの価格が低下傾向にあるため、リチウムイオンバッテリーの価格は今後も低下し続けると予測されている。バッテリーの価格構成は、原材料が約60%で、生産コストが約30%、メーカーの利益率約10%だ。
リチウムの価格は2022年に生産が加速し、市場への供給が増加したことから、2022年の1トン当たり7万~8万ドルから、2023年末には約1万3,000ドルまで急落した。2024年~2026年の平均価格は1トン当たり約1万2,000~1万3,000ドルになると予測される。
さらに、技術の向上によって生産コストも低下傾向にある。例えば、従来の「セル(単電池)」→「モジュール(組電池)」→「パック(システム化)」の3段階から、「セル」→「パック」の2段階へバッテリー組み立ての工程を減らすことができるようになるなど、顕著な技術開発が進んでいる。バッテリー価格は、2024年現在、約121ドル / kWhだが、2024年~2027年に年平均12%の低下を続け、83ドル / kWhまで下がると予測されている。
2030年までに国内のゼロエミッション車(ZEV)の生産台数を総自動車生産台数の30%にする「30@30政策」により、タイにおけるEV乗用車の生産台数は2030年に70万台以上となる見込みだ。2030年にはEV用バッテリー需要が34GWh以上になるほか、再生可能エネルギー生産部門からの需要も2.76GWh以上になり、市場規模が約1,100億バーツに達すると見込まれている。
リチウムの価格低下傾向も手伝って、各メーカーがタイでのバッテリー生産能力の増強を試みており、2026年における全国の生産能力は27.1GWh以上に増加すると予測されている(図表2)。
生産能力は2027年~2030年にかけて、さらに成長する可能性があるが、それでも需要を下回る見込みもあり、市場に参入する既存・新規のメーカーにとっては新たなビジネスチャンスだと考えられる。しかし、タイのバッテリー需要は現在のところ主にEV産業に限られており、今後のバッテリーの需要や新技術の動向を注視すべきとの見解もある。
バッテリー産業が拡大し続ける一方で、課題もある。バッテリーは産業廃棄物となるものを原料としているため、廃棄問題への対応やリサイクルの取り組みが急務と言える。しかし、この分野での研究開発はまだ大手メーカーに限られている現状がある。
タイ陸運局データによれば、タイにおける2023年の全種類EVの累計登録台数は、約13万1,000台となっている。 過去の成長率を基準にすれば、2030年にはタイのEVの累計登録台数は約120万台になると予測されている。バッテリーEV(BEV)のバッテリーは、平均寿命が12年~15年と言われており、寿命を迎えた後は、リチウムを分離して新しいバッテリーに再利用されるか、あるいは再生可能エネルギー発電所で他の発電所とコスト競争できるような形で利用し続ける。
タイにおけるBEVの増加率とバッテリーの寿命を見比べると、2033年までにタイには劣化したバッテリーが約3万1,000個となり、2038年には約65万個まで急増すると推定される。
問題は、バッテリーをリサイクルする場所があるかどうかだ。タイでは、「内燃機関(ICE)車に使われている鉛蓄電池については、その主要部材である鉛はタイでも廃棄、解体、精錬までのルートがかなり確立されており、リサイクルにつながっているが、リチウムイオンバッテリーのリサイクルに関してはまだ技術は確立されていないようで、現時点での事業化は難しいようだ」(THAIBIZ編集部、増田調べ)。
こうした中で、2月21日にセター首相が委員長を務めるタイ国家電気自動車政策委員会(NEVPC)では、セター首相がタイにおけるバッテリー生産への投資促進策を承認した上、使用済みバッテリーの管理基準を作るため、関連部門を任命し、適切な政策について検討を開始した。タイはもはや劣化バッテリー問題に直面していると言える。
以上より、タイを含む世界のバッテリー産業の方向性は、政府の関連支援策も手伝って、順調に成長を続けるだろう。さらに、バッテリー価格は低下傾向にあり、技術も継続的に向上していくと見込まれる。これは世界の温室効果ガス排出削減への貢献ともなり、EV産業と再生可能エネルギー産業の成長を加速させる一助となる。一方タイでは、バッテリーのリサイクル産業を促進する土台を整えなければならず、これは同時に企業にとってビジネスチャンスにもなるだろう。
技術力のある日本企業は、バッテリー生産だけでなく、バッテリーのリユースやリサイクルにおける事業で新規参入することも選択肢として考えられる。なお、この分野での新規事業立ち上げを考えるタイ企業も存在しており、そのような企業と技術を持つ日本企業とが協業することで、新しい道が切り開かれる可能性もあるだろう。
(翻訳・執筆:サラーウット・インタナサック 編集:白井 恵里子)
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THAIBIZ編集部
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