タイ脱炭素への新たな共創モデル ~AZEC-SAVEプラットフォーム、官民連携で発足~

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    タイ脱炭素への新たな共創モデル ~AZEC-SAVEプラットフォーム、官民連携で発足~

    公開日 2025.06.17

    日本が主導する「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」の一環として、タイにおいて省エネ支援の官民プラットフォーム「AZEC-SAVE(Smart and Advanced Value-chain for Environment)」が発足した。2025年4月29日、バンコクで行われた立ち上げ式典には日タイ両政府関係者が登壇し、排出量可視化・脱炭素技術導入・資金調達・人材育成までを一体で支援する、新たな官民プラットフォームの立ち上げが発表された。

    Scope2・3削減の波にどう向き合うか

    製造業が電力消費の約45%を占めるタイでは、電力コスト削減のみならず、脱炭素化の観点でもエネルギー効率の改善が企業にとって重要な経営課題となっている。特に近年では、グローバル企業との取引継続において、Scope2(購入電力に伴う排出)やScope3(バリューチェーン全体の排出)への対応が避けて通れなくなってきた。

    AZEC-SAVEはこうした現場の課題に対し、①温室効果ガス(GHG)排出量の可視化、②省エネ機器の導入、③資金面の支援、④人材育成などを一体的に提供する枠組みだ。

    海外産業⼈材育成協会(AOTS)、在タイ日本大使館、株式会社国際協力銀行(JBIC)、日本貿易振興機構(ジェトロ)、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が事務局を構成し、企業と制度、政府と現場を結ぶ橋渡しの機能を担う。

    AZEC-SAVEプラットフォーム発足式では、在タイ日本大使館の大鷹大使が挨拶
    発足式では、在タイ日本大使館の大鷹大使が挨拶

    日タイ企業の実務課題をつなぐ “協創型” 脱炭素支援

    本プラットフォームは、特定企業や一国の利益に偏ったものではなく、脱炭素に向けた現実的な課題を共有し、日タイ双方の産業界が協調して取り組むための枠組みとして設計されている。

    対象となるのは、エネルギーコストやGHG削減対応に直面する日タイ企業、そしてそれらの課題に対して解決策を提供できる技術やノウハウを持つ日本企業。AZEC-SAVEは、両者を制度的・資金的に結びつける役割を担う。

    例えば、現地企業にとって「どこから着手すべきか」が見えにくいGHG対応を、可視化から導入判断、省エネ投資への意思決定、必要に応じた人材育成まで段階的に支援することが可能となる。

    一方、日本企業にとっては、自社の技術や製品を、現場ニーズに基づく「ソリューション」として展開できる可能性が広がる。

    「成果が見える支援」の仕組み

    具体的な取り組み例としては、工場のコンプレッサーにおける空気漏れをIoTセンサーで可視化し、エネルギー損失の把握と改善につなげるといった省エネ手法が紹介された。

    設備導入にあたっては、初期費用を抑えたい企業にはリース型、短期での回収を見込む企業には購入型など、資金調達の柔軟な選択肢の必要性も認識されている。

    また、制度活用の前提となる「現場理解」も重視されており、排出構造の把握や技術選定、ファイナンス理解といった知識面での支援も組み込まれている。単発的ではなく、継続性のある省エネ投資を根付かせる設計がなされている。

    AZEC-SAVEプラットフォーム記者発表会では、JBICバンコクの宮口首席駐在員(中)がファイナンス支援の具体例について説明
    記者発表会では、JBICバンコクの宮口首席駐在員(中)がファイナンス支援の具体例について説明

    政策対話と現場支援を結ぶ、官民一体の実行基盤へ

    発足式には、大鷹大使、経済産業省の木原エネルギー・地域政策統括調整官、タイ・エネルギー省のクリッティヤ国際部長らが登壇。両政府間のエネルギー政策対話と連動し、省エネ・脱炭素を進めるうえでの実務的な支援枠組みとして、AZEC-SAVEを位置づける方針が共有された。

    Scope3対応を含めたGHG削減は、サプライチェーン全体の信頼構築や輸出競争力にも直結することから、単なる「エコ」や「CSR」といった枠を超え、「省エネ投資」と位置付けたGX対応が、企業戦略の一環として再定義されつつある。

    AZEC-SAVEは、こうした変化に備え、制度・技術・資金を結びつけて具体的な取り組みにつなげていくための基盤を作る。日タイ企業にとっても、自社の足元を見直す機会や、制度やパートナーとの接点を探るきっかけにもなりそうだ。

    THAIBIZ編集部

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