カテゴリー: 対談・インタビュー, 特集, バイオ・BCG・農業
連載: タイ企業経営者インタビュー
公開日 2022.10.26
国営タイ石油会社(PTT)は化石エネルギー事業の将来の縮小をにらみ事業の多角化を強力に推進している。2020年11月下旬にはライフサイエンス(生命科学)子会社Innobic (Asia) Co., Ltd.(イノビック・アジア)を設立し、現在、医薬品、医療技術・機器、栄養・健康食品の各事業分野で矢継ぎ早に企業買収などの投資を実行している。エネルギー大手が新規事業分野の1つとして生命科学分野を選んだ理由やその戦略をナット・アティタワット社長に聞いた。
(インタビューは9月20日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTJRI編集部)
ナット氏:イノビックはPTTでライフサイエンス(生命科学)事業を担当するフラッグシップ会社だ。PTTの新たなビションが「Powering life new energy and beyond」で、beyondがイノビックなどの新規事業会社という意味だ。タイは新たな重点分野となる「Sカーブ産業」を探しており、その中にはライフサイエンス事業もある。PTTは常に国の目標を支援しているので、イノビックを設立した。イノビックのビジネスには3分野がある。①薬品 ②医療技術・機器 ③栄養食品-だ。イノビックは東南アジアのライフサイエンス分野のリーディング企業を目指しており、イノベーションを通じてタイの国民の生活の質を上げたいと考えている。
ナット氏:人的資源ではスキルや経験を持っている人を探している。PTTのアタポン最高経営責任者(CEO)はライフサイエンス分野の参入ではパートナー方式を通じた早期展開を目指している。台湾のロータスファーマはイノビックのパートナーだ。ロータスはアジア太平洋地域に特化した企業で東南アジアへの進出意向もある。同社とPTTは「ウィンウィン」の関係だ。
ロータスの株式取得は2段階で実行した。最初は6.66%の株を取得。会社のパフォーマンスが結構良かったことが分かった。一部の株主はファンドであり、利益を出すために株を売却するタイミングがチャンスだと思った。そして、2回目は35.7%の株式を取得し、現在の株式保有比率は43%になった。
ナット氏:イノビックは金融投資会社ではなく事業会社だ。早く市場に参入するためにパートナー方式を採用しただけだ。また、将来はタイの国内拠点の開設も検討している。
ナット氏:傘下の化学会社IRPCが医療機器事業を担当している。IRPCの強みは、マスクを作るための不織布を製造できる工場を持ち、良質のプラスチックペレットを開発することができる。将来的には、医療の個人用防護具(PPE)などを展開することを考えている。
さらに、今年5月に殺菌・消毒用医療機器の生産販売を行うナムウィワット・エンジニアリング(NAM)の約17%の株式取得を発表した。殺菌機は再利用可能な医療機器を殺菌する機械だ。製造拠点を確保し、将来的に他の医療機器にも展開できるようにする。タイでは数少ない医療機器製造会社であり、イノビックが将来、開発する医療機器もナムウィワットが製造する。
ナット氏:もちろんある。ロータスファーマは富士製薬工業と資本・業務提携関係にある。もし日本の会社が新薬や日本で開発した薬があれば、ぜひ提案してほしい。製薬も医療機器もオープンだ。
ナット氏:病院向けや一般家庭向けの診断技術のある機器を重視している。例えば、家庭用の糖尿病、血圧、血液などの診断できる機器だ。今後、患者が在宅のケースが多くなり、遠隔医療システムを使って病院の先生と話ができるようになり、家庭用の機器が必要になるだろう。
また、将来的にPTTのガソリンスタンドを健康診断ができる場所にする計画もある。特に、機器の使い方が分からない人でもガソリンスタンドに行って健康診断ができる。
ナット氏:イノビックはタイ食品メーカーのNRインスタント・プロデュース(NRF)の子会社ノーブ・フードと植物由来食品を製造・販売する合弁会社「NRPT」を設立した。工場はロジャナ工業団地に建設中で、来年半ばにOEM(相手先ブランドによる生産)を始める。
さらに「イノビック・ニュートリション」を設立した。この会社はニュートラシューティカルズ(nutraceuti-cals)や医療食品(medical nutrition)など栄養食品の生産・開発会社だ。当初は、大学の先生らと共同で栄養食品を開発するが、将来的には社内に研究開発部を設けて、独自に栄養食品を開発する予定だ。日本などの外国からライセンス製品を輸入することも検討している。栄養食品事業はパートナーとではなく、自社で子会社を設立した理由は、栄養食品ではタイ保健省・食品医薬品局(FDA)の承認を取得することが難しいからだ。また薬品と比べて、栄養食品はタイ人の研究者もかなりいるので、自社で可能だと考えた。
ナット氏:タイは高齢化社会に入り、65歳以上の人口は現在15%で、5年後には20%以上となる。栄養食品市場はさらに拡大するだろう。当社の調査でも20代の若者でも栄養に関心を持つようになったことが分かった。医療用食品、高齢者用食品は、日本がタイより大幅に進んでいると思うので、もしこれらの製品を持ち、私たちとパートナーになりたいと考えている日本企業があれば、ぜひ紹介してほしい。
ナット氏:電気自動車(EV)、人工知能(AI)ロボットなど全新規事業の売上高を2030年までにPTTの全売上高の3割にする目標を掲げている。社員はイノビックやEV子会社の「アルンプラス」などPTTの新規事業に、すごくワクワクしている。
ナット氏:タイの自動車産業、石油化学は既に成熟産業なので、タイが国内総生産(GDP)を伸ばし、投資家を増やすためには新しい産業を探さなければならない。BCGはとても良い方法だと思う。製薬やワクチンはBCG分野にも入っているので、タイがこうした産業を強くする良い機会だ。PTTは30年前に未経験だった石油化学産業に参入し、今日まで事業を継続できており、今回も同様に可能だと考えている。
TJRI編集部
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