第一回タイ人事マネジメント塾「人事戦略」|開催リポート

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    第一回タイ人事マネジメント塾「人事戦略」|開催リポート

    公開日 2025.06.16

    本講座シリーズは、タイにおける日系企業の人事・組織マネジメントの知識を深め、優秀人材のリテンションとより効果的な組織運営を実現することを目的としています。人事戦略、採用と育成、評価制度、組織文化の変革など、日々の実務に直結するテーマについて学び、議論し、実践に活かすことを目指します。

    THAIBIZは5月22日、Asian Identityと共催で「タイ人事マネジメント塾」第一回講座を開催しました。Asian Identityオフィスにて対面で実施した本講座では、17名の参加者が人事戦略フレームワークや人事施策に関する講義に熱心に聞き入り、グループワークでは熱い議論が繰り広げられました。本講座の講師はAsian Identityの中村 勝裕氏および山内 崇氏が務めました。

    本講座シリーズは、タイ人事の基礎知識の実例を交えた学習および、参加者同士の「熱いコミュニティ」づくりを目的として、①「人事戦略」、②「人材採用と育成」、③「評価制度と報酬」、④「カルチャー変革」の4つのテーマで4回にわたり開催。本記事では①「人事戦略」をテーマとした初回の様子をお届けします。

    人事戦略には「国民文化との整合性」と「全体の一貫性」が不可欠

    中村氏は導入として人事戦略フレームワーク「HR Strategy Model」(図表1)について解説。人事戦略は企業理念と事業戦略に紐づく存在であり、「組織構造・人材獲得・評価制度・人材育成・エンゲージメント」という5つのカテゴリーには「国民文化との整合性」と「全体の一貫性」が不可欠であることを強調しました。

    「日本企業は、職能資格や成果主義などの様々な人事施策を、日本人の国民性に合うように試行錯誤しながら取り入れてきた」と中村氏は説明。それは、人々の働き方やモチベーションに深くかかわる「人事」という領域は「国民文化」と切っても切り離せないからだといいます。同氏は、ここタイにおいても、グローバルな人事のセオリーを理解しつつ、タイの文化を尊重し、そこに適合させる重要性を訴えかけました。

    (図表1)人事戦略フレームワーク「HR Strategy Model」
出所:Asian Identityが作成
    図表1:人事戦略フレームワーク「HR Strategy Model」
    出所:Asian Identityが作成

    中村氏によると、人事が踏まえるべきタイ文化の特徴は「階層社会」「ハイコンテキスト」「集団主義」「楽しみ重視」「緩やかな時間感覚」の5点に集約されます。これらを踏みはずして人事施策を設計すると、タイ人の気持ちにフィットしない取り組みとなってしまい、モチベーションが低下するリスクがあるといい、「そうしたポイントを踏まえて人事施策を丁寧に設計していくことが特に重要だ」と強調しました。

    また同氏は、日系企業のタイでの事業環境が大きく変化していることを踏まえ、「長期雇用を前提とした安定的な人事戦略から事業モデルの変化に寄与する人事戦略に転換していくこと、自社の事業特性・ビジネスモデル・業界ポジショニングなどを分析することが、自社に最適な人事戦略を描く上で欠かせない」と述べました。

    撮影:THAIBIZ編集部

    タイの日本企業を「安定」から「変革」にシフトさせる

    次に中村氏は、人事戦略を考える上で欠かせない「人材フロー」(図表2)について解説。伝統的日本企業に多く見られる「安定型」と、米系企業やベンチャー企業に多く見られる「変革型」を比較説明した上で、どのような人事施策が組織を変革型に向かわせるかについて解説しました。

    図表2:人事戦略において重要な「人材フロー」 出所:Asian Identityが作成

    特に、離職率が低い日本と、高い傾向にあるタイ・東南アジアの社会構造の違いにも触れ、「離職を抑えることがゴールではなく、適度な離職を許容しながら組織を変革していくこと」の重要性を強調しました。

    そこから先は、講師の山内氏のリードの元、参加者同士グループに分かれて「日系企業を変革する人事施策」のケーススタディを行いました。タイの日系企業を模したメーカー・商社それぞれのケースを題材に典型的な課題を分析し、自分がその組織のリーダーだとしたら、どのような施策を打つかを議論しました。

    撮影:THAIBIZ編集部

    中村氏は、タイの日系企業変革のポイントとして「変革は上から下へ」という点を強調し、「日系企業は長らく“日本人がタイ人を管理する”という体制で経営されてきた。そこから、“日本人とタイ人が一緒に変革を担う”というステージに移行していく必要があり、そのためには日本人が自ら変わる姿勢を見せることが重要だ」と述べました。

    一人一人の日本人リーダーが「自分がこの会社をどうしたいのか」というビジョンを言葉にして、タイ人幹部と想いを一つにすること。そうした「言葉づくり」無しには、どれだけ人事制度や給与制度を変えてもタイ人の心に響く変革は難しいのではないか。そのようなメッセージで解説を締めくくりました。

    最後に中村氏は、THAIBIZの2024年10月号でも紹介された在タイ日系企業の変革ポイント「PRIDEモデル(①Philosophy、②Recruiting、③ Development、④Evaluation、⑤ Initiative)」(図表3)とチェックシートを説明し、参加者がそれぞれの企業に戻ってから一つ一つ実践して行くことを促しました。

    参加者の声

    講座の参加者からは、以下のような感想が寄せられました。

    「タイでの実体験に基づく具体例が豊富に盛り込まれており、非常に実践的だった」

    「まさに知りたいことを知ることができ、点と点が線になった」

    「他社の参加者と意見交換できたことが良かった」

    「赴任して間もなく、組織運営に悩んでいたのでヒントが得られた」

    7月24日に開催予定の第二回講座では、「優秀なタイ人を惹きつける」をテーマに人材採用と育成について学びます。第一回に参加されなかった方も、受講いただけます。本講座シリーズの詳細についてはこちらをご確認ください。

    >>第二回以降のお申込みはこちら

    講師プロフィール / 会社紹介

    中村勝裕 氏

    Asian Identity Co., Ltd. Founder & CEO
    株式会社アジアン・アイデンティティー 代表取締役

    愛知県常滑市生まれ。上智大学外国語学部ドイツ語学科卒業後、ネスレ日本株式会社、株式会社リンクアンドモチベーション、株式会社グロービス、GLOBIS ASIA PACIFICを経て、タイにてAsian Identity Co., Ltd.を設立。「アジア専門の人事コンサルティングファーム」としてタイ人メンバーと共に人材開発・組織開発プロジェクトに従事している。リーダー向けの執筆活動にも従事し、近著に『リーダーの悩みはすべて東洋思想で解決できる』がある。YouTubeチャンネル「ジャック&れいのリーダー道場」を運営。

    山内崇 氏

    Asian Identity Co., Ltd., Senior Consultant
    株式会社アジアン・アイデンティティー シニアコンサルタント

    熊本県出身。一橋大学経済学部/経済学研究科修了。信託銀行勤務を経てデロイト・グループ、楽天株式会社にてリーダーシップ開発や企業内研修の企画・実行、また組織風土改革プロジェクトを推進。楽天を退社後、イギリスへ留学しビジネス・スクールにてHRMを専攻。現在はAsian Identityにて人材開発コンサルタントとして従事。

    Asian Identity Co., Ltd

    2014年に創業し、東南アジアに特化した人事コンサルティングファームとして同地域で事業を展開中。アジアの多様な人々を調和させ強い組織を作るというビジョンの実現に向けて、”Asia is One”をスローガンに掲げ、コンサルタントチームの多様性や多言語対応を強みに、東南アジアに展開する日本企業を中心に多くの顧客企業の変革をサポートしている。

    開催概要

    タイ人事マネジメント塾【第一回】

    日時:2025年5月22日(木)13:00~17:00(タイ時間)
    形式:オフライン会場 のみ
    会場:Asian Identity オフィス
    主催:THAIBIZ(Mediator Co., Ltd.運営) / Asian Identity Co., Ltd. ※共催

    ※プログラム詳細はこちら

    THAIBIZ編集部

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