横の連携で急成長するタイのペットヘルス産業 〜トンローペットホスピタルのキティカー獣医師インタビュー〜

THAIBIZ No.164 2025年8月発行

THAIBIZ No.164 2025年8月発行在タイ日系製造業の変革 日新電機タイが変われた理由

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横の連携で急成長するタイのペットヘルス産業 〜トンローペットホスピタルのキティカー獣医師インタビュー〜

公開日 2025.08.08

現在、ペット・ヒューマニゼーション(ペット家族化)のトレンドは、タイを含む世界中で広がっており、ペットの健康維持や治療にも注目が集まっている。そこで今回は、タイにおける動物医療サービスのリーダーとして30年以上の歴史を持つ、トンローペットホスピタルの創立者兼CEOであるキティカー・チャイスパッタナークン獣医師を取材。ペット関連のトレンドやタイ獣医療業界の強み、経営戦略について話を聞いた。

(インタビューは5月16日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTHAIBIZ編集部)

トンローペットホスピタルの創立者兼CEOキティカー・チャイスパッタナークン獣医師(左)、mediator ガンタトーンCEO(右)

タイで初となる、24時間営業の動物病院

Q. トンローペットホスピタルの沿革は

キティカー獣医師:トンローペットホスピタルは1994年にバンコクのトンロー地区に開院しました。当時、動物病院は夜8時に閉院するのが一般的でしたが、動物はいつ病気になったり事故に遭ったりするかわかりません。そこで当院は、24時間営業するタイ初の動物病院となり、これまで多くの反響をいただきました。

また、交通状況や事故を放送するラジオ局JS100が、リスナーから動物の事故の連絡があった際に当院を紹介してくれていたことから、動物の事故が起きると当院を思い浮かべる人が多かったようです。

現在、本院はトンローエリアからラーマ9世エリアに移転しました。敷地内にある7階建ての建物の中には、専門的なクリニックやエキゾチック動物クリニックがあり、CTスキャン装置やMRI装置など人間と同じような病気の診断に使用される医療機器を備えています。

さらに、スイミングプールや顧客以外でも利用できる動物用の芝生もあります。これらの施設を活用していただくことで、動物愛好家のコミュニティを形成したいと考えています。

ラーマ9世本院 提供:トンローペットホスピタル

ペット家族化による医療とライフスタイルの進化

Q. タイのペットのトレンドはどのように変化したか

キティカー獣医師:当院が設立されて以来、タイでペットを飼う習慣は大きく変わりました。具体的には、設立当初の10年間は、犬は動物として扱われ、人は犬に食べ残しを与えることが一般的でした。しかし10年を経て、犬専用の餌を与えるようになり、さらに10年を経て、犬を自分の子どものように扱う人が増えました。

現在では、犬は家族の一員として大切に扱われています。ショッピングモールやホテル、コンドミニアムなど、ペットを歓迎する施設も増えています。

ライフスタイルだけでなく、医療の面でも変わりました。予防が進んだことで、いくつかの伝染病は減少。ペットの寿命が延びましたが、椎間板ヘルニアや糖尿病など、人間と同じような変性疾患や代謝性疾患にかかるペットも見られるようになりました。

また、安全面への配慮が行き届いているため、車にはねられるなどの事故も減りました。ペットフードとおやつも、動物の年齢・種類に合わせて分類されています。われわれもこの傾向に対応し、獣医師が栄養面を考慮し、動物の肥満防止につながるペットのおやつを開発しました。

さらに、エキゾチック・ペット(犬や猫以外のペット)も人気が高まっています。以前はネズミやウサギがよく飼われていましたが、現在ではチンチラなど特殊な道具や餌を必要とする珍しい動物が増えています。

Q. タイの獣医業界の強みは

キティカー獣医師:タイの獣医師は、東南アジアの中でも特に優れた能力を持っていると言えるでしょう。多くの大学の獣医学部のカリキュラムでは、最初の2年間は医学生と同じ内容を勉強するなど、基礎力の高い能力を身につけることができます。

また、当院はヨーロッパ、アメリカ、オーストラリアでの研修にも人材を派遣しています。さらに、動物ではなく、人間を治療する研修も受けさせています。例えば、白内障や内視鏡手術の技術を持つことで、犬が異物を飲み込んでしまった場合、従来の手術法では7日間入院しなければならないところを、内視鏡手術により回復を早めることができ、すぐに自宅に帰すことが可能になります。

また、インドネシアやマレーシアの獣医師を研修に受け入れるなど、アジア各国から人材育成における協力も進んでいます。今後はマレーシアとの組織文化やマネジメントシステムの導入について相談する予定です。

組織文化の構築とデータベース活用で成長

Q. トンローペットホスピタルの組織文化とは

キティカー獣医師:トンローペットホスピタルの組織文化は、スタッフが動物を愛することです。病気の動物たちが元気を取り戻すことで、スタッフ自身も喜びを感じることができます。また、当院の理念は、社会全体の利益を第一に考えることです。

Q. 今後の拡大戦略は

キティカー獣医師:動物病院の需要は増え続けています。トンローペットホスピタルはタイ国内に20の分院を展開しており、バンコクやチェンマイ、パタヤ、プーケットなどの大都市に加え、ベトナムのホーチミンにも進出しています。すべて自社で運営し、品質基準を統一しているのが特徴です。

ラーマ9世の本院には、専門知識を持ったスタッフのみが使用できる白内障手術装置やCTスキャン装置、MRI装置などの医療機器を完備。そのため、分院や他院からの患者の紹介も受け入れています。

ラーマ9分院の医療機器 提供:トンローペットホスピタル

Q. トンローペットホスピタルの強みは

キティカー獣医師:1〜2院しかなかった15年前から、病院情報システム(HIS)を導入しています。当院はデータの重要性を認識し、動物病院で最初にソフトウェアを導入した病院と言われています。このシステムは、治療履歴や薬の調剤などを収集するデータベースで、われわれの「背骨」のようなものです。すべての分院がネットワークでつながっており、当院の医療水準を維持することにつながっています。

同業者とは連携し共通の目標へ向かう

Q. タイに住む日本人との関わりは

キティカー獣医師:トンローペットホスピタルは開院以来、長年にわたり日本人のお客様にもご利用いただいています。日本語通訳サービスを通じて、円滑なコミュニケーションや予約をサポートしており、特に日本人居住区に近いラーマ9世本院は、充実した設備と交流の場を備えています。

Q. 同業者間との関係をどう考えるか

キティカー獣医師:同業者は競争相手ではなく、パートナーだと考えています。例えば、設備や人材が不足している病院から当院に患者を紹介いただくことがあります。治療が終わった後は、患者は元の病院へ送り届けます。

患者を病気から回復させるというのは、すべての獣医師に共通する目標です。そうした思いがあるからこそ、このような連携が成り立っているのです。

THAIBIZ編集部
タニダ・アリーガンラート

THAIBIZ編集部
和島美緒

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