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カテゴリー: ASEAN・中国・インド, ビジネス・経済
公開日 2025.08.15
7月にタイと軍事衝突したカンボジアで、タイに絡む製品などを敬遠する動きが広がっている。首都プノンペンではタイ料理のレストランや、タイ資本が経営するガソリンスタンドやコンビニエンスストア、カフェに客が寄り付かず、一部では看板の撤去も。一方で経済界からは関係修復を求める声が強く、日本企業も影響を注視している。【プノンペン・遠藤堂太】
プノンペンで人気というタイ料理と地元のクメール料理を扱うレストラン。売りはタイ料理らしく、ネット上では「昼は多くの人でにぎわっている」と書かれていたが、8月6日の正午過ぎに訪れると客は外国人と地元客の2組だけだった。メニューの表紙にあったタイの英語表記と国旗の部分はシールで消されている。
「タイと書くと気まずい雰囲気だから」と語るのはカンボジア人の店主。「シールをはがせるのは1~2年先かもしれない」とため息をつく。
PTTの不買、SNSが原因か
カンボジア全土に168の給油所を展開するタイ国営石油PTT系の「PTTステーション」。プノンペン近郊の店では夕方になると二輪車がガソリンを入れようと列を成すはずなのに、5日は夕方になっても一向に客が来ない。PTTの多くの給油所に併設されているコンビニ「セブン―イレブン」や、タイ最大のコーヒーチェーン「カフェ・アマゾン」も、いつもなら若者でいっぱいと聞いたが、客が1人いるだけだった。
現地駐在日本人によると、PTTで人々が給油しなくなったのは停戦発効した7月29日以降だ。タイのPTTがタイの軍隊に寄付をしているという情報(真偽不明)がカンボジア側の交流サイト(SNS)で拡散され火が付いたのだという。
カフェ・アマゾンはPTTの子会社が手がけ、カンボジアでは今年3月時点で254店を開業。3月にはプノンペンの中心部に同国初のコンセプトカフェを開き、カンボジア重視の姿勢を示したばかりだ。6日、王宮のそばにある店舗に行くと、店名の看板を外す作業を行っていた。フランチャイジーであるカンボジア企業の判断でこうした作業が行われているようだ。PTTステーションでもこうした動きが進む可能性が取り沙汰されている。
また、カンボジアのセブンはタイの大手財閥チャロン・ポカパン(CP)グループの小売・卸売事業会社CPオールのカンボジア法人が運営し、全土に82店舗ある。商品の8割以上はタイ製品とみられ、タイのセブンの雰囲気とまったく変わらない。
カンボジア企業の幹部にこうした状況をどう思うか尋ねると、「看板を替えてもタイ製のガソリンを買うことに変わりはないのに」と冷静に話す一方で、「もうタイ製を買いたい気分ではない」とも吐露する。タイ製品は品質が良い割には安く、ベトナム製に比べても安心できるというが、この両国産や中国産ではなく、「カンボジア産の製品を」という機運が市民の間で芽生えているという。王宮前では先週末、数百人が愛国を訴えて行進した。現地在住日本人によると、タイへの反感を表したシュプレヒコールはなかったようだ。
経済関係者は「早く関係改善を」
カンボジアの経済関係者の間では総じて、タイとの一刻も早い関係改善を願う声が多いようだ。6日からプノンペンで開催中の縫製業の展示会会場には、カンボジア企業関係者も数多く訪れたが、「不買の動きが起き、仲が良かったタイとの関係が悪化したのは悲しい出来事だ」と率直に言ったり、「今回、国境を一方的に閉鎖したのはタイ側だ。タイの政局にカンボジアは翻弄(ほんろう)されているだけ」と言ったりする声が聞かれた。
会場には商務省高官のサメン・ボーラ国務秘書官もいたので、「不買の動きをどう見ているか」と質問をぶつけてみたが、それには答えず、「近いうちにタイとの関係が修復され、経済活動が正常化される」とのみ語った。
現地日系企業の間では、「両国間の紛争が長引くと影響を受けるのはカンボジア経済だ」との見方が強い。経済関係が年々強まっているとはいえ、タイ企業の輸出に占めるカンボジアのシェアはまだそこまで高くない。一方、カンボジア経済は商品の調達から出稼ぎまで幅広い分野で、タイに依存している。
日系への飛び火は見られず
現地日系企業への影響も探ってみた。プノンペンで3店を展開するイオンモールは、戦闘状態となった時に一時的に客数が減ったが、停戦以降は客足、売り上げともに通常時に戻りつつあるという。カンボジアで扱う商品は、主にタイやベトナムから調達。タイとの国境が封鎖されて以降は、タイからの海上輸送やベトナムからの調達増で対応しているという。
タイから部材や原料を調達してカンボジア国内で製造・販売する企業のうち、味の素は主原料のうま味調味料をタイ工場から輸入し、プノンペンでパッケージしている。従来は陸路輸送だったが、国境封鎖後は海上輸送に切り替えた。トヨタ自動車やホンダの二輪車の組立工場も、部品の供給はタイからだ。
明治グループとCPの合弁会社、CP明治もタイからカンボジアへ牛乳を輸出してきたが、国境の閉鎖で供給が限定的になっている。CP明治の売上高の5%分はカンボジアでの販売だったという。
各社とも今のところ、「不買」の影響は受けていないようだ。しかし、ある在カンボジアのメーカー関係者は、「なるべくタイ製であることは知られたくない。一方で、カンボジアで避難民に寄付を行ったことが、タイのSNSユーザーを刺激して、タイ側の不買運動になりかねない」と懸念する。日本ブランドであっても「メード・バイ・タイ」ということで不買につながるのか、注視していく必要はありそうだ。
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