カテゴリー: ビジネス・経済
連載: THAIBIZ NOW
公開日 2025.09.10
ここ数ヶ月、タイの主要ビジネスメディアでは、経済の深刻化を象徴する「เผาจริง(パオチン)」という言葉が頻出している。ビジネスセミナーでも有識者が「昨年まではプロモーション期間。これからが本番だ」と警鐘を鳴らす。
金融・マーケティングに精通する投資家タナー・ティエンアチャリヤ氏は、「川が干上がるのは自然の流れ。しかし、流れが変わった川はもう戻らない」と語る。これは今のタイ経済を読み解く鋭いたとえであり、私たちが直面する現実でもある。
長年、回復と停滞を繰り返してきた多くの分野で、“元には戻らない”という認識がタイ社会で静かに広がりつつある。生き残るには、もはや待つのではなく、本格的な変革が必要だ。
目次
かつてASEAN屈指の観光大国とされたタイ。しかし今やバンコクは「観光客を狙う詐欺都市」として知られ、外国大使館からの警告も目立つ。
特に中国社会では、犯罪や混乱、脱法行為の温床という負のイメージが拡大しつつある。近隣のベトナムや日本、中国国内の新興観光地と比べても、タイは“新しさ”や“安心感”を打ち出せておらず、もはや過去のような観光収入は期待できない。
タイの人口構造は急速に変化している。すでに60歳以上が人口の20%を超え、今後10年で「超高齢社会」に突入する見通しだ。出生率も1.2〜1.3と低水準で、人口減少が現実味を帯びている。労働力と消費力が縮小し、教育・イノベーションの不足や家計債務の増加も重なり、経済の“底力”が確実に削られている。
タイの株式市場は長年低迷しており、外国人投資家の関心も著しく低下している。成長ストーリーの欠如やマクロ環境の魅力不足から、海外ファンドは他の新興市場に流れている。国内の投資家もスマホアプリから米国や日本などの株式を簡単に購入できる今、タイ株にこだわる理由は薄れ、相対的な魅力は後退している。
電子商取引(EC)、旅行、広告、エンタメ、金融など、あらゆる生活・商取引分野で、ShopeeやGrab、Google、TikTok、Netflix、ChatGPTといった海外発プラットフォームへの依存が進んでいる。
その結果、いわゆる「通行料」は年々引き上げられ、タイ企業の利益は削られ、成長の余地も狭まっている。ローカル企業が「門番」となった外資プラットフォームと競り合うのは、ますます困難だ。
1945年からの約80年間は、自由貿易と成長の恩恵を受けられた「プロモーションの時代」だった。しかし今、その特典は終わり、世界は混乱・分断・不確実性に満ちた新たな時代へと突入。ナショナリズムの復活、保護主義の強化、地政学リスクの高まりがそれを物語る。こうした時代に求められるのは、データのみを基に最適化されたプロフェッショナルではない。顧客に本気で寄り添い、自ら現場に立ち、行動する「(タオケー)=商人・オーナー」だ。合理性を超えて挑戦できる胆力と直感が、今こそ求められている。
この考え方は、在タイ日系企業にも通じる。従来のやり方だけでは、今後のタイ市場では通用しない。これまでTHAIBIZでは記事やセミナーを通じてその兆候を伝えてきたが、今後はさらに本格的な変革型リーダーシップが求められる時代となるだろう。
社内外のリソースを最大限に活用し、環境変化に適応しているタイ企業からも多くを学べる。ぜひ、社内のタイ人幹部とともに「今後のあるべき会社の姿」と、それを実現する具体的なアクションについて語り合ってほしい。
Mediator Co., Ltd.
Chief Executive Officer
ガンタトーン・ワンナワス
在日経験通算10年。2004年埼玉大学工学部卒業後、在京タイ王国大使館工業部へ入館。タイ国の王室関係者や省庁関係者のアテンドや通訳を行い、タイ帰国後の2009年にメディエーターを設立。日本政府機関や日系企業のプロジェクトをコーディネート。日本人駐在員やタイ人従業員に向けて異文化をテーマとした講演・セミナーを実施(講演実績、延べ12,000人以上)。
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