カテゴリー: ビジネス・経済
連載: Business Topics in Thailand
公開日 2025.03.10
本記事を元にした解説動画をYouTubeにて公開しています。併せてご覧ください。
世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)が1月20〜25日にスイスのダボスで開催され、130ヶ国以上から約3,000人が参加した。タイからは、ペートンタン首相や主要閣僚を含む過去最多の代表団が参加した。
また、タイのオンラインニュースメディア「ザ・スタンダード」がオフィシャルメディアとして、会場の様子を報じた。本稿では、ダボス会議でのタイ代表団の活動を振り返り、タイの経済成長戦略を考察する。
ペートンタン首相は、会場内で「タイ・レセプション」を開催。有名なタイ人シェフによるタイ料理を披露し、タイのソフトパワーを強調した。
また同首相は、「ソフトパワーを見失わない」と題したセッションに登壇し、「観光、食、映画、ファッション、フェスティバル、スポーツ、音楽、アート、デザイン、ゲーム、文学、ウェルネス、舞台芸術」の13分野をタイのソフトパワー産業の柱と位置付け、経済成長の起爆剤とする方針をアピールした。
今回のダボス会議でのタイ政府の活動のハイライトは以下の通りである。
物流・インフラ分野:タイ南部のマレー半島を横断する「ランドブリッジ」プロジェクトを推進し、世界の物流ハブを目指すと表明。ペートンタン首相と会談したアラブ首長国連邦ドバイに拠点を置く港湾・物流大手のDPワールドがランドブリッジへの投資に興味を示した。
食品・農業分野:タイは東南アジアで唯一、国連世界食糧計画(WFP)と国連食糧農業機関(FAO)、国際農業開発基金(IFAD)の拠点があり、世界の食料安全保障におけるタイの役割を強調。同首相は食品・飲料大手のネスレやペプシコ等と会談し、タイへのさらなる投資や連携について協議した。
デジタル・技術分野:グーグルやアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)などのグローバルIT企業と会談し、追加投資やタイ国内の AI・デジタル人材の育成、リスキリングへの協力を要請した。
観光分野:デジタルノマドや高度人材の誘致をさらに推進。
タイは今年1月にBRICSに加盟するなど、今後は「コンフリクト・フリー・ゾーン(紛争のない地域)」として、地政学的優位性をアピールしていく考えだ。本ダボス会議でタイ政府は、欧州自由貿易連合(EFTA)との自由貿易協定(FTA)に署名。タイ初の欧州諸国とのFTA締結となる。
調印式に出席したピチャイ商務相は、「現在ベトナムは56ヶ国・地域とFTAを結んでいるのに対して、タイは19ヶ国・地域のみだ。今後はFTA締結を加速させる必要がある」と訴えた。
ダボス会議に出席したCPグループのスパチャイCEOは、「トランプ氏の再選により世界が保護主義の流れに戻る中、同氏の米中貿易摩擦への対応には前政権とは異なる柔軟な姿勢が見られた」と指摘。
また、「タイは米中双方と友好的な関係を維持し、『ASEANのスイス』として中立的な立場を強化する必要がある。タイは米国の貿易赤字ランキング11位にあるが、タイからの輸出には米企業のウエスタン・デジタルやシーゲイトの製品も含まれることを交渉の場で明確に伝えるべきだ」と提言した。
さらに、「CPグループはタイ最大の対米投資企業であり、米国との関係強化に取り組んできた。今後はタイ大手企業の対米投資を強調し、さらに経済的な結びつきを深める必要がある」と考えを述べた。
タイは米国の通商政策やASEAN諸国との競争といった課題に直面している。今後、世界でプレゼンスを高めるには、貿易交渉の推進や国際社会の信頼構築が不可欠である。
今回のダボス会議では、タイの「立地的な優位性」と「全方位外交」が強調された一方で、具体的な戦略が不足していたことは否めない。
タイで事業を展開する日本企業は、タイ政府の政策を理解した上で戦略的に活用し、ステークホルダーとの連携を強化することが今後の成長の鍵となるだろう。
Mediator Co., Ltd.
Chief Executive Officer
ガンタトーン・ワンナワス
在日経験通算10年。埼玉大学工学部卒業後、在京タイ王国大使館工業部へ入館。タイ帰国後の2009年にMediatorを設立。政府機関や日系企業などのプロジェクトを多数手掛けるほか、在タイ日系企業の日本人・タイ人向けに異文化をテーマとしたセミナーを実施(延べ12,000人以上)。2021年6月にタイ日プラットフォームTJRIを立ち上げた。
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