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カテゴリー: ビジネス・経済
公開日 2025.11.28
施設向けの放送設備など音響機器の製造販売を手がけるTOA(神戸市)は、地震計メーカーなどとタッグを組み、「音による行動変容」を促す地震ソリューションをタイで拡大していく考えだ。今年3月に発生したミャンマー大地震ではタイの首都バンコクでも、離れた場所まで伝わりやすい「長周期地震動」で揺れる高層ビルから多くの人が避難した。地震を契機に、商業施設や公的機関などが避難放送のあり方について幅広い関心を寄せている。

3月28日のミャンマー大地震ではバンコクで建設中のビルが倒壊し、建設現場では多くの行方不明者が出ていた。TOAのタイ販売会社、TOAエレクトロニクス(タイランド)の廣田喜之マネジングディレクターは、日本での東日本大震災の経験から、救命活動が続く現場に自社製のメガホンを持って駆け付けた。寄贈したメガホンは、バンコク首都庁(BMA)による現場での作業指示や救出現場での呼びかけに活用されたという。
この地震をきっかけに、タイでも地震避難について同社でできることがないかを考えるようになったと廣田氏は話す。バンコクでもこうした災害が起こった以上、今後もリスクを考慮に入れないといけないと、商業施設や設計事務所などから危機感を持った問い合わせが増えているという。
TOAのタイ事業の軸となる商品は施設内でのアナウンスやBGM、チャイムなどの放送に使うPA(パブリックアドレス)システムやそれに接続するスピーカーで、タイ事業の売上高の約7割を占める。TOAは2010年にタイに拠点を開き、商業施設「エムスフィア」、ワット・プラケオ(エメラルド寺院)、クルンテープ・アピワット駅(バンスー駅)、国防省など多様な施設への納入実績を重ねてきた。
地震を契機にTOAがタイで取り組んでいるのは、こうしたPAシステムを地震の発生を知らせる設備と連動させ、避難の必要性が高い地震が来た時に避難を促すメッセージを自動で放送できるソリューションの開発だ。振動計測装置メーカーのIMV(大阪市)と協業し、長周期地震動も検知する地震センサーとPAシステムを組み合わせる。発生した地震の強さに応じて地震コントローラーが信号を発し、PAシステムは信号に応じて、どのエリアにどんなメッセージを流すかを自動でコントロールする。地震発生から放送までに人の判断が介在しないため、揺れを感知した直後に放送できる。こうした提案を、まずは実証実験のような形でタイで進めていく方針だという。


災害で培った日本の知見を活用
廣田氏は、「災害にさらされて独自の進化を遂げてきた日本企業特有の、製品だけではない部分の知見や商品作りを生かしたい」と話す。放送設備に避難訓練モードを設けているほか、今後は機器の定期点検の際に防災訓練を手伝えるサービスを拡充していきたいと考えているという。「時間の経過と共に地震の記憶が風化していく中、日常の中で災害に備える習慣づくりを、併せて提案できたら」。有事の際だけでなく、日常の放送に使うPAシステムだからこそ、災害の際にも役立てることができると考えている。
タイでは今まで非常放送といえば火災に対するものが想起されていたが、今後は「地震も」という意識改革の道筋をつけていくことが欠かせない。日本では施設の避難放送などを規定する法整備に際し、TOAのような民間企業も参加し、官民で最適な制度設計を話し合う枠組みがある。タイでもそうした官民連携が実現できるよう働きかけているという。
TOAが目指す姿は、「音を通して、必要な人に情報を確実に伝える。その結果、人々の行動が変わること」。その実現には長期にわたる取り組みが求められる。「34年に迎える創業100周年をめどに、人々の行動変容を促せる音響システムを固めていきたい」(廣田氏)。関連する分野の企業とも積極的にアライアンスを組んでいく想定だ。災害情報や気象関係などを扱う企業など、「組むべき相手は多い」という。
中国製品の流入に価値提供で対抗
TOAの生産拠点は日本のほか、インドネシア、ベトナム、台湾に置く。海外事業は4事業部で、タイを含むアジア・パシフィック事業部が最大事業となる。25年3月期のTOAの連結売上高は506億円。そのうちアジア・パシフィック事業が約2割を占めた。
東南アジア全域で喫緊の課題となっているのが、商品の市場価値が下がり一般化してしまう「コモディティー化」の急速な進行だ。メガホンのようなシンプルな製品では、米中の経済摩擦が過熱すればするほど、行き場を失った安価な中国製が南進し、市場が侵食されていくという。
そうした動きに対しては、製品品質の違いの訴求や、顧客が本当に必要としている音は何かを探りプラスアルファの価値を提供する、コンサルティングのような販売手法で対抗する。顧客が買うのは機器ではなく「音」であるという理念の下、「音をコアにした、コミュニケーションの総合ソリューションプロバイダーでありたいと思っている」(廣田氏)。

実際の「音」を訴求
商品力の訴求にはデジタルマーケティングも有効な手段の1つだ。きっかけは新型コロナウイルス禍で売り上げが伸び悩む中、自社でコンテンツを作り、顧客との接点を増やせるよう取り組み始めたことだという。ソーシャルメディアへの動画投稿などを活用し、潜在的な顧客のニーズを捉え、そこに訴求する伝え方をしていく提案活動をするようになってきた。営業担当者だけでなく、技術を担うエンジニアにもそうしたマインドが浸透する効果もあったという。
接点をつくった潜在顧客には実際の音を聞いて違いを知ってもらうべく、その年の新商品やソリューションを展示する全国キャラバンを、北部チェンマイ県や南部プーケット県など国内4カ所で実施している。さらに地方各地のディーラーがセミナーを開催し、販売店や施工店、エンドユーザーに対して商品を紹介する機会を設けることで、ブランド浸透を図っているという。
直近では、11月5~7日にバンコクのクイーン・シリキット国際会議場(QSCC)で開催される施設向けセキュリティー設備の見本市「セキュテック・タイランド2025」で、今後注力していく地震ソリューションを展示する。そのほか、離れた場所でもピンポイントに聞かせ、双方向のコミュニケーションも可能なIP(インターネットプロトコル)ネットワーク放送や、屋外向けに遠方まで明瞭な音声を届けるホーンアレイスピーカーなども展示。ITを活用した次世代都市「スマートシティー」に適した新しい放送のあり方を提示する。


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