THAIBIZ No.155 2024年11月発行タイの明日を変える!イノベーター大特集
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カテゴリー: ビジネス・経済
公開日 2024.11.11
タイ進出を新たに検討する企業だけでなく、進出済みの企業にとっても、タイでのビジネスにおけるもっとも重要なルールの一つが外資規制です。タイで自社が実施する事業は何か、その事業は外資規制をクリアできるのか、それによってタイ子会社の資本戦略や組織構造も大きく変わってきます。 本連載では、外資規制の基礎から応用までをご説明します。
前回までご紹介した、日系企業にも広く知られている投資委員会(BOI)や工業団地公社(IEAT)の認可に基づく外資規制緩和は、タイの国内法に基づく制度です。これに対して、あまり知られていませんが、「国際法」、つまり外国との条約に基づき外資規制が緩和されるスキームが存在します。現在まで実績がある相手国は、米国、日本、および豪州の3ヵ国に留まりますが、この中で米国との条約は唯一、この制度が現在でも積極的に活用されています。
米国との条約は、一見すると近年の自由貿易協定(FTA)と名前は似ていますが、それとは全く関係がない、1968年に締結された「タイ米友好通商条約」を指します。60年近くの歴史をもつ同条約は、タイで事業を行なう米国資本企業に対して、以下の6事業を除き、タイ資本と同様に扱う、すなわち外資規制が適用されないことを規定しています。
1. 通信
2. 運輸
3. 他社の利益のための資産管理
4. 預金に関係する銀行業
5. 土地または他の天然資源からの利益追求
6. 地場農産物に関係する取引
この条約に基づき、米国資本企業は現在でも、これら6事業に該当しない幅広い販売事業やサービス事業を、外資規制を受けず自由に実施しています。例えば飲食業は、外国人事業許可証(FBL=Foreign Business License)の取得は非常に困難で、またBOIなどの認可対象事業でもなく、資本金による例外措置もないため、タイのローカル資本を過半数とする合弁にせざるを得ないのが通常です。
多数進出している日系飲食業も、ローカルパートナーとの合弁によりタイ資本企業の形式を取っています。しかし、米国系の飲食業は、友好通商条約に基づき外国人事業証明書(FBC)を取得することで、米国資本がマジョリティで事業を行なっている例が多く見られます。KFCの運営会社や、ピザハットの運営会社がこれに該当します。
このスキームを適用するためには、米国資本が過半数の外資企業であること、取締役の半数以上が米国人またはタイ人であること、等の形式的な要件に加えて、在タイ米国大使館からレターを取得することが求められています。このため米国に子会社を持つ日本企業が、その米国子会社に資本を迂回させることで形式的に要件を満たすことができたとしても、在タイ米国大使館の審査をクリアすることができなければ、FBCを申請することはできません。
本スキームは、米国資本だけを特別に優遇する制度であり、日系を含む他国の企業にとっては差別的で不利益を被るものと言えます。このため世界貿易機関(WTO)の基本原則の一つである「最恵国待遇原則(MFN原則)」に一致しないものとして、ルールに基づき1995年のWTO発足から10年以内の撤廃が、かつては期待されていました。
しかし結果的に、それから20年近くを経ても制度は継続されています。今もなお、タイ米友好通商条約に基づく米国企業向けの新たなFBCが多数発行されていることは、前々回にご紹介した通りですが、現在では、改善を求めるべき制度として議論される機会も少なくなったように思われます。今後も当面、米国資本に対する特恵的な制度として継続していくと推測されます。
WTOルールに対する整合性が疑わしい米国資本への優遇に対して、WTOルールに沿うものとされるのがFTAに基づく外資規制の緩和です。一般的にFTAは、物品の関税撤廃が最大のトピックですが、特に経済連携協定(EPA)と呼ばれるFTAでは、貿易以外にも知的財産権保護や経済協力など幅広いテーマを包含します。そのテーマの一つが外国投資における規制緩和です。
2022年1月の地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の発効を受けて、タイは現在、ASEAN9ヵ国を含む18の国・地域との間で、14種類のFTAを発効させています。これらのFTAのうち、外資規制緩和について規定し、かつ実際にFBCを発行した実績があるのは、前々回に述べた通り日本と豪州の2ヵ国に留まります。FBCの発行数は極めて少数に留まっているのも、ご紹介した通りです(2023年末まで日本が累計3件、豪州が同1件)。
タイ米友好通商条約に基づく米国資本へのFBCが現在でも積極的に活用されているのに対して、FTAに基づくFBCがほとんど活用されずに至っているのはなぜでしょうか。
理由の一つ目は、規制緩和の対象業種が限定的であることです。米国の場合は、わずか6事業を例外として、幅広い事業で包括的に規制緩和されています。それに対してFTAでは、いわゆるポジティブ・リスト形式として、規制緩和の対象となる事業をリストアップしていますが、その対象はごく少数に限定されています(図表1)。
理由の二つ目は、外資規制緩和と言っても、米国のように100%出資が認められるとは限らず、出資比率の上限が定められているケースがほとんどである点です。外資がマジョリティを取れるとしても、独資は認められないケースが大多数です。
加えて、制度に対する認知度の不足も大きな課題と考えられます。特に日本とのFTAに基づく外資規制緩和は、まさに日本企業のための制度として政府間で交渉され、実現したもののはずです。これが日本企業にあまり認知されず、活用されていないというのは大変残念ですが、内容や申請方法など、あまり資料や情報が明確に示されていないのも実状です。
今後、FTAのさらなる交渉が進むなかで、規制緩和の対象事業が拡大し、出資比率の上限も撤廃され、日本企業にとって使いやすい制度として広く認知されることが期待されます。
外資企業がタイで実施できる事業の四つ目の類型である、「外国人事業証明書」を取得した事業のご説明は今回で終わります。次回から、いよいよ最後の類型である、商務省から「FBL」を取得した事業についてご説明します。
THAIBIZ No.155 2024年11月発行タイの明日を変える!イノベーター大特集
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MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Managing Director
池上 一希 氏
日系自動車メーカーでアジア・中国の事業企画を担当。2007年に入社、2018年2月より現職。バンコクを拠点に東南アジアへの日系企業の進出戦略構築、実行支援、進出後企業の事業改善等に取り組む。
MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Head of Consulting Division
吉田 崇 氏
東京大学大学院修了、タマサート大学交換留学。ジェトロの海外調査部で東南アジアを担当後、チュラロンコン大学客員研究員、メガバンクを経て、大手コンサルで海外子会社管理などのPMを多数務めた。
MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
ASEAN域内拠点を各地からサポート
三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のシンクタンク・コンサルティングファームです。国や地方自治体の政策に関する調査研究・提言、 民間企業向けの各種コンサルティング、経営情報サービスの提供、企業人材の育成支援など幅広い事業を展開しています。
Tel:092-247-2436
E-mail:[email protected](池上)
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