THAIBIZ No.150 2024年6月発行味の素が向かう究極のバイオサイクル
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カテゴリー: 対談・インタビュー, 特集, バイオ・BCG・農業
公開日 2024.06.07
「食と健康への貢献」を志に掲げる味の素グループ。1960年に創業したタイ味の素は、タイ人の食生活にも欠かせない唯一無二の存在へと登り詰めた。
一方で同社は、高度な独自技術でバイオサイクルを確立しつつあり、タイの持続可能な未来創りにも大きく貢献している。今回はタイ味の素および味の素FDグリーンのサステナブルな取り組みを通じ、日本企業の技術力の強さに迫る。
目次
うま味成分がグルタミン酸というアミノ酸であることを発見した池田菊苗博士は、実業家の鈴木三郎助氏と手を組んで1909年に味の素を創業した。タイ進出を果たしたのは64年前だが、実はタイ向けにうま味調味料「AJI-NO-MOTO」の輸出を開始したのは約90年も前のことだ。
以降、「YUM YUM」や「RosDee」、「Ajinomoto Plus」に加え、1993年には「Birdy」、最近では2019年にスポーツ愛好者をターゲットとした「aminoVITAL」、2023年には高齢者向けサプリメントとして、ロイシンというアミノ酸を多く含有した「AminoMOF」を発売。タイ味の素は今や、拡大し続けるラインナップでタイの食生活に深く根付いている。
同社は現在、アユタヤ県やカンペンペット県、パトンタニ県などタイ国内に7つの工場、13の法人を有する。販売部門を含めると従業員数は約4,000人にのぼり、味の素グループの中では最大の売上高と最高の利益を記録しており、世界中に広がる同グループの拠点の中でもハブ的な存在だ。
THAIBIZは今年4月、タイ味の素社の坂倉一郎社長にインタビューした。同社が2030年に向けて新たに打ち出したビジョンは「Leading in Creation of Well-Being」であり、ウェルビーイングを実現する対象として「Consumer(消費者)」「Social(社会)」「Employee(従業員)」の3つを規定している。
消費者向けのウェルビーイングとしては、低糖および低塩を実現する商品や、高齢者向けの健康サプリメントなどの商品を通じて、人々の健康栄養に貢献するとしている。従業員向けのウェルビーイングでは、本社ビル内のキャンティーンの刷新や最新式の器具を揃えたジムの新設、そしてタイ人の価値観により即した人事・給与体系の導入等で、従業員の“Eat Well, Live Well”もサポートしていく予定だという。
このインタビューの中で最も際立った話題が、社会向けウェルビーイングの話だった。坂倉社長は「温室効果ガス(GHG)やプラスチックの削減、フードロス削減、水資源対策に取り組んでいる」とし、「GHG削減では、スコープ1、スコープ2は既にほぼ排出量ゼロを実現、現在スコープ3に取り組んでおり、2030年までにトータルでゼロにする方針だ」と胸を張っていた。
スコープ1は企業・組織が直接排出するGHGを表し、スコープ2は他社から供給された電気や熱を使うことで間接的に排出されるGHGを表すが、タイ味の素としてこの2つにおいて既にほぼゼロを実現している事実は驚きだった。さらに、原料から販売後の利用、廃棄に至るまでのサプライチェーン全体で排出されるGHGを表すスコープ3についても、具体的な取り組みを開始しているという。
坂倉社長は「味の素グループは、100年以上にわたるアミノ酸の研究から得た、さまざまな素材・機能・技術・サービスの総称を『アミノサイエンス』とし、その科学的アプローチを用いて、人類、社会、地球のウェルビーイングに貢献することを『パーパス(志)』としている」と説明。
さらには「2030年のアウトカムとして、10億人の健康寿命の延伸、環境負荷の50%削減という目標も掲げている」と壮大なビジョンについても語った。
同社がその目標を達成するために取り組む、具体的な活動とは。今回は主に環境負荷削減に向けたタイ味の素の事業活動を知ることで、経済価値を生み出しながら持続可能なタイ社会の実現に貢献するためのヒントを探ってみたい。
タイ味の素は図1の通り、「2030年までに環境負荷を50%削減する」という目標に向けて、サプライチェーン全体で5つの具体的数値目標を設定している。
プラスチック廃棄物(②)については、全商品の56%をリサイクル可能な包材に切り替えるなど、タイ味の素全体のプラスチック使用量を2018年度比5.6%(365トン)削減することに成功。資源の有効活用等でフードロス(③)も、2018年度から2023年度にかけて70%削減した。
また、廃棄物の3R(Reduce、Reuse、Recycle)に愚直に取り組んだ結果、12万5,000キロリットル(kl)の節水(④)を実現し、これは2018年度比で91%の削減を意味する。
タイ政府が掲げる「2050年カーボンニュートラル、2065年温室効果ガス(GHG)排出量ネットゼロ」の公約にも影響するGHG排出量削減(①)についても、技術的な努力により顕著な結果を出し始めている。2023年度は、2018年度比91%にあたる38万トンのGHG排出量削減を実現した(図2)。具体的な策として、まずスコープ1に当たる「化石燃料からバイオマス燃料への転換」がある。
そして、スコープ2に対する取り組みとして、各工場におけるバイオマスコジェネレーションシステムの導入により購入電力の一部を自前発電に切り替えた。同システムは、「工場で使用する全ての蒸気をバイオマス由来の蒸気に置き換え、同時に蒸気タービンで発電を行う」※1ものだ。資源の有効活用と同時に、GHG排出量削減の推進、およびエネルギーコストの低減を実現する。
タイ味の素は2016年に、アユタヤ工場にもみ殻を燃料とするバイオマスコジェネレーションシステムを初導入。続いて2022年、タイの基幹工場であるカンペンペット工場でも15億バーツ(約57億円)を投じ同システムの導入を実現した。最近では2023年度中に、パトンタニ工場のコジェネレーションシステムの燃料をバイオマス燃料へ転換することに成功した。
サプライチェーン全体を巻き込む必要のあるスコープ3はさらに難易度が高いと思われるが、タイ味の素としては自社工場の生産技術を磨きこみ、生産効率を高めることで「AJI-NO-MOTO」の生産に必要な原料の量を減らす試みに挑んでおり、グループ全体でスコープ3の削減に取り組んでいる。
持続可能な調達(⑤)については、味の素グループを支える重要な原材料の一つであるパーム油において、国際的な承認制度であるRSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil:持続可能なパーム油のための円卓会議)が定める原則と基準を尊重し、持続可能と認められる製品を調達することで目標達成に向けて邁進している。
また、カンペンペット県に拠点を持つグループ会社「味の素FDグリーン」では、「AJI-NO-MOTO」の原料であるキャッサバの持続可能な調達に向けて興味深い取り組みを行っており、これは同時にスコープ3の削減にも大きく貢献しているという(詳しくは次項の究極のバイオサイクル確立に向けてを参照)。
このように、5つの数値目標に向かい着実に前進している事実から、タイ味の素の2030年アウトカムに対する本気度が伺える。
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THAIBIZ編集部
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