“持続可能性”を鍵に、農業原料へ新たな価値を生む 〜タイ・イースタン・グループ・ホールディングスのシニーヌット社長

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“持続可能性”を鍵に、農業原料へ新たな価値を生む 〜タイ・イースタン・グループ・ホールディングスのシニーヌット社長

公開日 2026.01.14

タイでは近年、天然ゴムやパーム油等の農業原料の調達において、品質や価格だけでなく、環境対応や透明性が取引条件となりつつある。タイ東部を拠点に生産から再生エネルギー、有機廃棄物管理までを手がけるタイ・イースタン・グループ・ホールディングス(TEGH)は、循環型モデルによって農業原料の価値を高めてきた。本稿では、シニーヌット・コーカヌターポーン社長に、同社の循環型モデル「Thai Eastern Symbiosis」や持続可能なサプライチェーン構築の実像などを聞いた。

(インタビューは2025年10月9日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTHAIBIZ編集部)

mediatorのガンタトーンCEO(右)、TEGHのシニーヌット・コーカヌターポーン社長(右)
mediatorのガンタトーンCEO(右)、TEGHのシニーヌット・コーカヌターポーン社長(右)

農家から、天然ゴム・パーム油生産のリーダーへ

Q. 現在の事業内容は

シニーヌット氏:タイ東部地域を中心に天然ゴムおよびパーム油製品を製造・販売するとともに、有機廃棄物の管理やバイオエネルギーの生産までを一体で手がけています。拠点は東部経済回廊(EEC)にあります。

Q. TEGHの沿革について

シニーヌット氏:元々は、サトウキビやトウモロコシ、キャッサバといった畑作農業からスタートしました。しかし、畑作は多くの資源と労働力を必要とし、天候に左右されやすいという課題がありました。創業者である父はその限界を感じ、永年作物への転換を決断しました。私たちは、東部でパーム油とゴム栽培を始めた先駆けの一社です。

事業は徐々に拡大し、東部初となるパーム原油搾油工場を設立。その後、濃縮ラテックスやゴムブロックの製造へと発展しました。

濃縮ラテックス(左)、ゴムブロック(右) 写真提供:TEGH

1997年のアジア通貨危機を機に、タイヤの主原料であることに着目しゴムブロックの輸出を開始、自動車産業でのさらなる成長の可能性を見出しました。現在では特殊グレードのゴム製品も手がけ、原料調達は東北部にも広がっています。2022年にはタイ証券取引所(SET)に上場しました。

有機廃棄物をバイオガスへ。循環型経済を実装する

Q. 環境対策はどのような取り組みを行っているか

シニーヌット氏:事業拡大に伴い、工場から発生する排水や有機廃棄物の量も増加しました。そこで私たちは、有機廃棄物管理を経営課題として捉え、環境と地域社会と共存できる仕組みづくりに取り組んできました。これが循環型モデルの一つである「Thai Eastern Symbiosis」です。

具体的には、酸性・アルカリ性・油脂分に耐性を持つ独自の微生物を開発し、有機廃棄物をバイオガスへと転換しています。生成されたバイオガスは、ゴムブロックの乾燥工程に再利用し、液化石油ガス(LPG)の代替エネルギーとして活用しています。再生可能エネルギーをゴム乾燥に用いた工場は、世界初だと考えています。

チョンブリー県にある再生エネルギープラントと有機廃棄物管理工場 写真提供:TEGH
チョンブリー県にある再生エネルギープラントと有機廃棄物管理工場 写真提供:TEGH

Q. 有機廃棄物管理において、埋立処分との違いは

シニーヌット氏:埋立処分は短期的には簡便ですが、長期的には水質汚染や悪臭、感染症リスクといった問題を引き起こします。タイでは、廃棄物を排出した事業者が最終処理まで責任を負うことが法律で定められています。

一方、当社の取り組みではCO2排出削減に加え、処理プロセスを可視化・証明できる点が強みです。回収、輸送、処理、バイオガス製造の原料として活用するまでを一体化するトータルソリューションとして食品・飲料、食肉加工、農産物加工、さらにはその他産業から排出されるあらゆる種類の有機廃棄物の受け入れが可能で、自社だけでなく半径300km圏内の他社へも提供しています。

付加価値の本質は「原料の個性化」にある

Q. 農業原料の付加価値化について、どのように考えているか

シニーヌット氏:タイはサプライヤーが多く、メーカーは他社との差別化を図ることが現実的な戦略となります。そこで私たちは、高品質であるだけでなく「持続可能性」を原料の価値として位置づけ、法規制や国際基準に適合したサプライチェーンの構築など、川上の段階から包括的な支援を行っています。農家の段階からデータベース化・マッピングを行い、森林破壊に関与していないか、化学物質や児童労働や不法就労などの違法労働がないかを確認しています。

Thai Eastern Group Holdings PCL(TEGH) シニーヌット・コーカヌタポーン社長(Ms. Sineenuch Kokanutaporn)01

当工場では、LPGや重油といった化石燃料の代替としてバイオガスを活用しているほか、使用電力についても再生可能エネルギー由来のものを導入しています。また、効率的な水管理によって水の浄化と再利用を行っており、こうした環境配慮の取り組みを通じて、トレーサビリティを確保した持続可能な原材料を顧客に提供しています。

日本企業との協業が、循環型経営を磨いた

Q. 日本企業との協業事例は

シニーヌット氏:当社は住友ゴム工業と2つの合弁事業を行っています。ウドーンターニー県のゴムブロック工場(STEC)と、ノーンブアランプー県の大規模ゴム農園(STEP)です。住友ゴム工業が重視していたのは、持続可能なサプライチェーン構築でした。その考えが当社とマッチし、パートナーになったのが出発点です。

住友ゴム工業との合弁会社設立の覚書(MOU)締結発表の様子 写真提供:TEGH
住友ゴム工業との合弁事業開始の覚書(MOU)締結発表の様子 写真提供:TEGH

同社の長期視点での計画、人材育成、組織運営のあり方は当社にとって大きな学びとなりました。現在は日本からの研究者が常駐し、品種改良や収穫方法、品質要因を一貫して研究しています。こうした積み重ねが、原料の品質と信頼性を高めることにつながっています。

Q. その経験が生かされたTEGHの経営姿勢とは

シニーヌット氏:私たちは農家からスタートした企業です。農家が直面する収穫の不確実性などを理解しています。だからこそ、人材についても「持続可能性」を軸に、最初から完璧な人を求めるより、育てることを重視しています。経営層が行動で示し、組織全体が自然に変わっていくことが理想だと考えており、地域コミュニティと社会に貢献できるよう、農家やスタッフへの支援を行っています。

日タイ協業が生む、次の可能性

Q. 今後の日タイ協業の可能性は

シニーヌット氏:タイは自動車産業をはじめとする強固なサプライチェーンのほか、天然ゴムやパーム、サトウキビ、タピオカ、果物などの農業原料が豊富であるという強みも持っています。これらは多岐にわたる産業分野において、高付加価値化が可能です。

さらに、タイ政府はクリーンエネルギー、データセンター、その他Sカーブ産業といった新産業への投資誘致を継続的に推進しています。このような分野において、日本企業に戦略的な投資の余地があると見ています。長年築かれてきた日タイの信頼関係を土台に、日本企業の技術や知見と、タイの資源や現場力が組み合わされば、「持続可能性」を軸とした新たな価値創出が可能になるはずです。

Thai Eastern Group Holdings PCL(TEGH) シニーヌット・コーカヌタポーン社長(Ms. Sineenuch Kokanutaporn)02

Interviewees Profile

シニーヌット・コーカヌタポーン社長(Ms. Sineenuch Kokanutaporn)
Managing Director
Thai Eastern Group Holdings PCL(TEGH)

アサンプション大学および米サンフランシスコ大学で経営学を学び、ケンブリッジ大学やシンガポール経営大学などでサステナビリティ関連プログラムを修了。Forbes Asia「Power Businesswomen 2022」に選出。TEGHをタイ証券取引所(SET)のサステナビリティ関連アワード2年連続受賞へと導いた。

THAIBIZ編集部
タニダ・アリーガンラート / 和島美緒

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