進化を続ける中国プレイヤーの東南アジア戦略(後編)

THAIBIZ No.170 2026年2月発行

THAIBIZ No.170 2026年2月発行どうなる?変わるタイ経済2026

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進化を続ける中国プレイヤーの東南アジア戦略(後編)

公開日 2026.02.10

東南アジア市場における中国企業の躍進は偶然ではない。それは、段階的に市場構造を支配する設計思想に基づいており、彼らは単なる輸出企業ではなく、「生活のプラットフォーム」そのものを東南アジアで構築しようとしている。その進出過程は大きく4つのステージに整理できる(図表1)。

前編では、中国企業の東南アジア進出におけるStage 1とStage 2を解説した。後編では、Stage 3とStage 4を論じていきたい。

Stage 3:地上戦の支配 — 実店舗での進出

デジタルインフラとブランド価値を固めた中国企業は、第三段階としてオンラインで築いた優位性を街中の“物理的な接点”へと拡張していった。

代表例のひとつであるPOPMARTは、Stage 2で獲得した再評価の勢いをそのまま持ち込んだ。ブラインドボックスという高いリピート性を持つ購入体験、SNS拡散と連動した店づくり、キャラクターIPの世界観を空間として体験させる設計など、オフラインでそのブランドを視覚化することに成功したのである。

一方、Luckin CoffeeやMIXUE、CHAGEEといった飲料・軽食系ブランドは、まったく異なるロジックで地上戦を展開している。彼らは中国国内で磨き上げられたライトアセットモデルを武器にし、低コスト・高速出店・標準化オペレーションという“3点セット”で東南アジア各国の街角を席巻している。

Luckin Coffeeは店舗面積を極小化し、アプリ注文を前提とすることで、従来型カフェが抱える人件費・設備費の構造を根本から変えた。MIXUEは原材料・製造・物流を垂直統合し、極限まで低価格を追求することで、東南アジアのマス層を取り込んだ。

CHAGEEは一転して美意識と品質を強調し、高級志向のティーブランドとして都市中間層の感性に訴えかける。これらのモデルに共通するのは、価格・品質・オペレーションの最適解を国境を越えてテンプレート化し、そのテンプレートを高速にコピー&ペーストする「システムとしての小売」を展開している点である。

このようにStage 3とは、中国企業が東南アジアの街中に自らのブランド・価格体系・文化・消費行動を常駐させる段階だ。これが次のStage 4における多面的な商品拡張への強力な足場となる。

Stage 4:日常消費財(FMCG)における地産地消 — 生活圏の中国化

これまで商品軸での中国企業の東南アジア進出は、電気自動車(EV)や家電といった耐久財が中心であった。しかし近年、より生活の密着領域、すなわち食品や日用品といったFMCGの領域において、中国企業が地産地消を急速に進めている。

これは中国企業にとって第四の波であり、これまで以上に生活圏そのものへ深く入り込むフェーズの始まりを意味する。越境ECで商品を輸出する段階をすでに越え、東南アジア現地での製造・調達・物流・販売の垂直統合を進めている。単に中国ブランドの商品が流入しているというレベルではなく、日常消費財の供給基盤そのものが中国モデルへと置き換わりつつある。

食品分野ではYiliが先陣を切った。同社はタイやインドネシアで生産設備を整備し、現地嗜好に合わせた乳製品の開発を加速させている。これにより、輸送コストと関税負担を下げながら、中国企業らしい高速PDCA(Plan、Do、Check、Act)で商品を最適化する体制が整った。

アイスクリームのAiceも同様に、東南アジアの消費者に合わせた価格帯・パッケージ・配送網を現地で再構築し、都市部から郊外まで広範囲に浸透している。これらの動きは、食品という毎日使うカテゴリーで中国企業が地場メーカーと対等、あるいはそれ以上の競争力を獲得し始めていることを示す。

こうしたFMCG領域での地産地消化が意味するところは明確である。中国企業は、生活者の「毎日使うもの」を現地で生産し、現地の物流で届け、現地の価格体系にフィットさせることで、生活のインフラそのものを中国モデルで再構成し始めている。

中国のプレゼンスは、東南アジアの生活圏により深く入り込むステージを迎えようとしているのだ。既にその効果は東南アジアの若年層を中心に、「マインドシェアにおける中国」として確実に表れ始めている(図表2)。

※2024年実施、N=500、複数回答可 出所: 消費者アンケートをもとにローランド・ベルガー作成

このように東南アジア市場は、もはや単一商品を輸出して勝てる市場ではない。生活者の動線、価値観、購買体験を含めた“生活圏”そのものをめぐる戦いへと変化しつつある。中国企業が先行して構築したこの新しい競争環境の中で、日本企業がいかに独自の意味を提示し、現地と共に価値を創り出していくか — そこにこそ、次の勝機がある。

>>本連載「ASEAN経営戦略」の記事一覧はこちら

Roland Berger Co., Ltd.
Principal Head of Asia Japan Desk

下村 健一 氏

一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現職。プリンシパル兼アジアジャパンデスク統括責任者として、アジア全域で消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心にグローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、事業再生等、幅広いテーマでのクライアント支援に従事している。
kenichi.shimomura@rolandberger.com

Roland Berger Co., Ltd.
Senior Project Manager, Asia Japan Desk

橋本 修平 氏

京都大学大学院工学研究科卒業後、ITベンチャーを経て、ローランド・ベルガーに参画。その後、米系コンサルティングファームを経て復職。自動車・モビリティ、消費財・小売を中心とする幅広いクライアントにおいて、グローバル戦略、新規事業、アライアンス、DX等の戦略立案・実行に関するプロジェクト経験を多数有する。

Roland Berger Co., Ltd.

ローランド・ベルガーは戦略コンサルティング・ファームの中で唯一の欧州出自。
□ 自動車、消費財、小売等の業界に強み
□ 日系企業支援を専門とする「ジャパンデスク」も有
□ アジア全域での戦略策定・実行支援をサポート

140 Wireless Building, 20th Floor, Unit C, 140 Wireless Road, Lumpini Subdistrict, Pathumwan District | Bangkok 10330 | Thailand

Website : https://www.rolandberger.com/

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