THAIBIZ No.157 2025年1月発行日タイ企業が「前例なし」に挑む! 新・サーキュラー エコノミー構想
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カテゴリー: ASEAN・中国・インド, DX・AI
公開日 2025.01.10
「リープフロッグ」という言葉は、2010年代後半のアジア新興国を語るうえで重要なキーワードだ。リープフロッグとは、「蛙跳び」のような進化をアジア新興国が遂げ、日本などの先進国が歩んできた道筋を一気に追い越してきた事象である。そのエネイブラーとして、「デジタル」が果たす役割は大きかった。
新興国の生活者はいわゆるガラケーを飛び越えてスマホを持つようになり、パソコンではなくモバイルを通じたオンラインアクセスを果たした。暇さえあれば(日本人以上に)スマホをいじり、インターネットから情報を得てECサイトで日用品を購買する。このようなデジタル浸透度の高さを背景に、ライドヘイリングやオンラインフードデリバリーなどの新たなビジネスモデルも登場した。
しかし、そのような現象も今や昔、という感もある。本稿では、アジア新興国に起こったリープフロッグの代表的な事象を取り上げつつ、改めてそのメカニズムを論考したい。
まずはリープフロッグの基本とも言われるEC化率について、その推移を概観しておく。図表1は、Euromonitorのデータを基に作成した、日本を含むアジア各国のEC化率である。
リープフロッグという言葉が一般化し始めたのが2010年代後半。他方、タイやインドネシアなどでEC化率が、まさにリープフロッグ的に上昇したのは2019年から2021年の期間、つまりはコロナ禍に入ってからである。
それ以前の2010年代後半からスマホの普及やオンラインアクセスの浸透は進んできた。しかし、実産業の中で目に見えるリープフロッグが起こるトリガーは、「コロナ禍」という強烈な環境変化だったわけだ。スマホやインターネットというインフラが整うだけでは、強いリープフロッグは起こるわけではないとも言える。
続いて、もう少し個別具体的なリープフロッグ例を見ていく。図表2は、オンラインフードデリバリー率の推移だ。オンライン上で食事を注文し、自宅まで運ばせるという様式はコロナ禍で進んだリープフロッグの代表例の一つである。
その推移を見ると、コロナ禍で一気にオンラインフードデリバリーが跳ね上がったのはシンガポール、インドネシア、タイなどである。他方、日本やベトナムの上昇率は緩やかだ。この背景には、もちろんフードデリバリーを可能とするインフラが整っているかどうかなどの要素が存在することは間違いない。
しかし、重要な因子の一つに、生活者の食事に対する価値観もあるのではないだろうか。例えば、ベトナム人は、家族揃って食卓を囲むことを何よりも重視する。そのため、オンラインでデリバリーして食事をするという、その利便性にあまり価値を感じないと考えられる。他方で、単身者も多いシンガポールでは、手軽に食事を済ませることも珍しくない。
また、アジア圏のリープフロッグのもう一つの代表例としてGrabやGojekなどのシェアードモビリティがある。これまでは「所有」を前提として提供されていた「車」を、皆でシェアするというビジネスモデルがリープフロッグを起こした。
図表3はアジア各国のシェアードモビリティ率である。これも国による差異が存在する。シンガポールはそもそも新車購入のハードルが高いという点が、シェアードモビリティを後押ししているだろう。また、アジアの多くの国で、コロナ前に見られたシェアードモビリティの躍進が、コロナ禍でその比率を押し下げている点も興味深い。コロナによって、生活者の衛生観念が高まり、「所有」への揺り戻しが起こったと考えられる。
以上の例示だけでも、新興国におけるリープフロッグは決して、経済ステージとデジタル化という単純なファクターで発生する事象でないことがわかる。各国生活者の価値観や既存インフラの状況など複雑な因子の組み合わせによってもたらされるものだ。難解な現象であるが、我々としてはそのメカニズムを可能な限りスタディする必要性があるのではないか。なぜなら、アジア新興国のリープフロッグが落ち着いた今、次のリープフロッグを起こさなければならないのは日本だからだ。
Roland Berger Co., Ltd.
Principal Head of Asia Japan Desk
下村 健一 氏
一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現職。プリンシパル兼アジアジャパンデスク統括責任者として、アジア全域で消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心にグローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、事業再生等、幅広いテーマでのクライアント支援に従事している。
[email protected]
Roland Berger Co., Ltd.
Senior Project Manager, Asia Japan Desk
橋本 修平 氏
京都大学大学院工学研究科卒業後、ITベンチャーを経て、ローランド・ベルガーに参画。その後、米系コンサルティングファームを経て復職。自動車・モビリティ、消費財・小売を中心とする幅広いクライアントにおいて、グローバル戦略、新規事業、アライアンス、DX等の戦略立案・実行に関するプロジェクト経験を多数有する。
Roland Berger Co., Ltd.
ローランド・ベルガーは戦略コンサルティング・ファームの中で唯一の欧州出自。
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