
カテゴリー: 組織・人事
連載: タイ人事お悩み相談室 - Asian Identity
公開日 2026.03.10
Question:タイには非効率な会議が多いと感じます。どうしたら改善できますか?
Answer:「関係性」「進行スキル」「仕組み」の3つの視点で解決していきましょう。
企業において「会議」はもっとも身近なものでありながら、「成果につながる会議」を行うのはなかなか簡単ではありません。定刻通りに始まるか。参加者が必要な準備をしているか。意見が活発に交わされるか。決めたアクションが実行までフォローされるか。そもそも不必要な会議が開催されていないか。今回は、会議をテーマに、タイの組織の生産性向上について考えていきます。

「会議で積極的な発言が出てこない」というのは、多くの日本人リーダーの悩みです。「わかりました」で終わってしまう会議は、一見すると波風は立ちませんが、必ずしも組織にとって良いものではありません。
また、発言が出ないからと言って、必ずしも賛成しているわけではありません。会議でタイ人が発言しない場合、それは「主体性が無い」のではなく、「タイ人の主体性を引き出せていない」と捉えるのが正しいでしょう。
組織の中でタイ人が最も気にするのは、「関係性を壊さないか」であり、「偉い人のメンツをつぶさないか」ということです。いわゆるグレンジャイ(配慮・遠慮)がそのベースにあります。自分の発言が上司の意見と異なる場合でも、それを表明するのはかなり勇気のいることです。
結果として、上司の意向を「受け止めるだけ」の会議が増えてしまう。こうした状況を覆すためには、上司主体の会議運営から、「メンバー主体」の会議運営に変革していく必要があります。
売上向上の議論をしていたはずが、いつの間にか業務多忙の話になり、さらには評価制度の話へと広がっていく。どの話も重要ではあるものの、論点が定まらないまま時間が過ぎていき、生産性が下がっていく。
タイ人スタッフとの会議ではこうしたことがよく起こります。これは文化というよりも、会議進行(ファシリテーション)スキルの問題です。話がズレたら「それは本題とズレているので、分けて考えて、話を元に戻しましょう」などと進行で引き戻さないといけません。
ただし、そもそも「ズレている」「論点が違う」ことに気づくには「論理的思考力」が必要で、そこが課題になっているケースも少なくありません。
「タイ人は論理的思考力が低い」とまでは言いませんが、書店に論理的コミュニケーションの書籍があふれ、また企業でも論理思考力の教育を重視する日本と比べると、「論理思考を学んできた経験」はやはり日本人とは差があるように感じます。
論理思考力は一朝一夕には高まらず、日々の業務の中で鍛えていくしかありません。しかし、少なくとも会議の場で「議論を整理する」ことができるよう、リーダー・マネジャークラスの論理思考力の向上は重要になります。
会議の最後に「では◯◯さん、来週までに確認をお願いします」と言っていても、次回会議では、その確認事項が話題に上がらない。結果として、積み残しのタスクがうやむやになっていく。こうしたこともしばしば起こります。
日本人リーダーからすれば「決めたことをやっていないじゃないか」とつい叱責したくもなりますが、担当者の怠慢というマインドセットの問題に帰結させてしまうと、根本原因の解決には至りません。
意識ではなく「仕組み」の方に目を向けると、アクションを管理する「フォーマットの欠如」、アクションを報告する「ルールの曖昧さ」、さらには、そもそも職務記述書(JD)に書かれていないアクションをどう評価するのかという「評価制度の問題」などにもつながってきます。
タイ人は、「なんとなく依頼されたこと」なのか「公式な業務依頼なのか」をかなり気にします。アクションを確実に実行させたければ、会議のアウトプットが経営の成果と個人の評価につながるという導線をしっかり設計する必要があると言えます。
ここからは、タイの会議を機能させるための要素を、3つの要素に分けて考えていきます。第1が「関係性」、第2が「進行スキル」、そして最後が「仕組み」です。
まず、関係性についてです。上司と部下の「心理的距離」と言っても良いでしょう。上述した通り、タイ人は上司のメンツを立てるために、ある種の壁を作ります。しかし、親しみを感じる相手に対しては、それが上司であっても積極的に気持ちを伝えてくれます。その差はどこにあるのでしょうか。
タイでは普段からランチや雑談を大切にして、関係を深めることが大事だという話をよく聞くと思います。それはその通りですが、より重要なのは「会話の中身」です。単なる飲み会トークのような内容だけでは十分とは言えません。
自分の言葉で想いを語り、人となりや、考えの背景を知ってもらえることが重要になってきます。この点について、昨今重要と言われているのは「ナラティブ」という要素です。ナラティブとは「物語」という意味ですが、自分の伝えたいことを過去・現在・未来という時系列で語ったり、あるいはメッセージの裏側にある原点(Why)を語ることで、相手の共感を引き出すことができます(図表1)。

ある日本人リーダーの事例を紹介します。その方はタイに赴任して間もない頃は、会議で意見を言わないタイ人がとても受動的に見えたそうです。そんな様子に時にいら立ち、厳しい指摘を繰り返しましたが、その度にタイ人メンバーの心は遠ざかっていきました。
ある時から、彼は接し方を変えました。「まずは、自分のことを知ってもらうところから始めよう」と、自身の若手時代の話をしたり、自分を育ててくれた上司の教えなどを話しました(過去)。また、日本で磨いた専門性を使ってタイの将来にどう貢献したいか(未来)、という話を時間を取ってじっくり伝えたのです。そうすると、タイ人から「初めてあなたの考えがわかった」「もっと会社の成長に貢献したい」という反応が得られ、業務上の様子も明らかに変化が見られたというのです。
私はこうした伝え方がタイで働く上で重要だと思っています。ナラティブは、頭に「情景」を浮かばせ、それが「感情」に伝わり、「共感」を呼び起こす効果があります。物語は直感や感情を司る「右脳」に伝わるからです。文化と言語が異なる中で相手に気持ちを伝えるには、こうした物語調のコミュニケーションが有効です。映画やドラマがどの国でも心に響くのと似ているとも言えます。
これは、われわれが仕事で普段行っている「数字・概念・論理」の左脳的コミュニケーションとは一線を画するものです。どちらかだけが必要ではなく、目的に応じて両方を使いこなせることが重要です。ナラティブは、年間方針の伝達や、あるいはビジョンを伝えたい場面などで特に有効でしょう。
または、日常の1on1などに織り交ぜて活用するのも効果的です。こうした努力を通じて心理的距離を近づけることが、タイ人部下の積極的な発言や提案のベースとなるはずです。
あと2つの要素、「進行スキル」と「仕組み」については、次回また続きを書いていきたいと思います。

株式会社アジアン・アイデンティティー 代表取締役
中村 勝裕 氏(愛称:ジャック)
愛知県常滑市生まれ。上智大学外国語学部ドイツ語学科卒業後、ネスレ日本株式会社、株式会社リンクアンドモチベーション、株式会社グロービス、GLOBIS ASIA PACIFICを経て、タイにてAsian Identity Co., Ltd.を設立。「アジア専門の人事コンサルティングファーム」としてタイ人メンバーと共に人材開発・組織開発プロジェクトに従事している。
リーダー向けの執筆活動にも従事し、近著に『リーダーの悩みはすべて東洋思想で解決できる』がある。Youtubeチャンネル「ジャック&れいのリーダー道場」も運営。
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「タイ人事お悩み相談室」コラムで取り上げます!→ info@a-identity.asia
Asian Identity Co., Ltd.
2014年に創業し、東南アジアに特化した人事コンサルティングファームとして同地域で事業を展開中。アジアの多様な人々を調和させ強い組織を作るというビジョンの実現に向けて、"Asia is One”をスローガンに掲げ、コンサルタントチームの多様性や多言語対応を強みに、東南アジアに展開する日本企業を中心に多くの顧客企業の変革をサポートしている。
◇Asian Identityサービスサイト
http://asian-identity.com

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