勝ちパターンを組織に残す挑戦 「トップ営業」に頼る構造を変えられるか

THAIBIZ No.178 2026年10月発行

THAIBIZ No.178 2026年10月発行自動車激変時代に光る、マツダの「信頼経営」

この記事の掲載号をPDFでダウンロード

最新記事やイベント情報はメールマガジンで毎日配信中

勝ちパターンを組織に残す挑戦 「トップ営業」に頼る構造を変えられるか

公開日 2026.10.09 Sponsored

タイの市場環境や顧客ニーズが変化するなか、顧客の課題を見極めて解決策を提案する「提案型営業」の重要性が増している。一方で、こうした営業方法はトップ営業の「個人技」にとどまりがちだ。 ダンロップタイヤ(タイランド)(以下、DTT)は現在、リブ・コンサルティング(タイランド)(以下、リブ・コンサルティング)とともに営業改革を推進中だ。目指すのは、個人の経験に頼らない「成果を生み出し続ける営業の仕組み」である。

市場環境の変化や従来の営業体制に危機感

2006年に設立されたDTTは、タイでダンロップブランドの交換用タイヤを販売する企業だ。 社員59人のうち、日本人は田中社長を含めて2人(2026年8月時点)。営業リーダーも含め、ほとんどがタイ人という組織体制だ。

同社が営業改革に踏み出した背景には、市場環境の大きな変化がある。近年、価格が従来のブランドより3~4割安い中華系タイヤブランドが急速に存在感を高めている。厳しい経済環境のなか、価格を重視するエンドユーザーも増えており、従来の売り方では競争力を維持することが難しくなっている。

さらに同社では、全国に営業担当者を配置するなか、複数のエリアで優秀な営業担当者が諸事情により退職するという出来事があった。それまで口頭で受け継がれてきた営業ノウハウも、その営業担当者とともに失われてしまったという。

「これまでは、個人の経験や人間関係に頼って営業していた部分が大きかった。優秀な人が辞めると、その人が持っていた人脈やノウハウまでなくなってしまう。今後もこうしたことは起こりうるため、個人に依存しない、強固な営業組織をどうつくるかが喫緊の課題となった」と、田中社長は振り返る。

こうした理由から、同社がリブ・コンサルティングの支援のもと目指したのが、顧客の課題を把握して価格以外の価値を提案する「提案型営業」への転換と、組織全体で“勝ちパターン”を再現できる体制の確立だった。

なぜ提案型営業は再現性が低いのか

「提案型営業に変えよう」と言うのは簡単だが、実はそれを組織全体に浸透させるのは一筋縄ではいかない。ベン氏によれば、その理由の一つは、優秀な営業担当者が営業先で行っていることの多くが「暗黙知」になっていることだ。

顧客との会話から課題を見つけ、必要な情報を集め、競合と比較しながら提案を組み立てる。こうした一連のプロセスは、経験を積んだ営業担当者にとっては自然にできても、それを言語化して他者に教えるのは容易ではない。

「一般的にタイ人は、優秀な人材を見ても『あの人はセンスがあるからできる。自分には無理だ』と諦めてしまうケースも多い。そこで、まず実際の営業活動に同行し、無意識に行われている優れたプロセスを可視化するところから始めた」とベン氏は説明する。

重要なのは、トップ営業の「才能」をコピーするのではなく、成果につながっている行動を分解し、誰でも実践できる形に変えることだ。

そこでリブ・コンサルティングでは、営業活動を観察したうえで、提案に至るまでのプロセスを徹底的に言語化。さらに、営業担当者が段階的に学べる「型(ブループリント)」と、それを実践するためのツールを整備し、社内研修の実施と改善を反復している。

“勝ちパターン”を組織の力に変える方法

「改革のポイントは、すべてを一度に変えようとしないことにある」とベン氏は語る。まず成果につながる主要な10%に焦点を当てて徹底的に研修を行うことが重要だという。

DTTでは、全国の営業担当者がバンコク本社に集まる月1回のタイミングを活用して研修を実施。単に売上などの「結果」を確認するのではなく、教えた営業活動が実際に行われているかという「プロセス」にも目を向ける。そして、その結果を次回の研修内容や活動の改善につなげている。

ダンロップタイヤの営業研修

ここで重視されているのが、組織全体の「平均値」を引き上げるという考え方だ。田中社長が注目するのは、いわゆる「2(優秀): 6(普通): 2(その他)」の法則のうち、中央の層である。「会社側がサポートしなくても無意識に成果を出せてしまう優秀な2割ではなく、中央の6割をどう引き上げるかが、組織全体の底上げにつながる」と話す。

そのための仕組みの一つが営業ツールの導入だ。顧客が購入している商品や価格、店舗ごとの販売状況、競合環境など、営業活動に必要な情報を集約し、データをもとに分析・提案できるようにする。

ただし、最初から大規模なITシステムを構築するわけではない。まずはExcelや紙を使った「ベータ版」のツールで実践し、現場で有効性を検証。成果につながることを確認したうえでITシステム化することで、投資リスクを抑えながら仕組みを磨いていく。「勝ちパターンが曖昧なまま高機能システムを入れると、管理業務だけが増え、成果は出ずに営業が疲弊する」とベン氏は語る。

改革前は、同社に営業全体で共通したシステムは存在しなかった。現在研修を受けている営業担当者からは「目から鱗が落ちた」、「データに基づいて自信を持って営業できるようになった」といった声が寄せられており、こうした前向きな意見は約8割を占めるという。優秀な営業担当者からも「自分のやり方が間違っていなかったと自信になった」との反応がある。

一方で、変化に対して慎重なメンバーもいる。そのため、まずは変化を受け入れやすいメンバーから成功事例をつくり、「このやり方で売上が伸びた」という事実と実績を組織内に積み重ねていく。リブ・コンサルティングが重視するのも、こうした小さな成功を起点に組織全体へ変化を広げるアプローチだ。

「選ばれるブランド」を支える営業組織へ

今回のDTTの営業改革が示しているのは、単に「営業スキルを向上させる」ことの重要性ではない。個人の経験や勘に依存していた営業を、いかに組織として再現できる仕組みに変えていくか。その挑戦こそが、改革の本質だ。

市場環境が変われば、これまで通用していた営業手法では成果が出なくなる。だからこそ、成果につながる行動を可視化し、型に落とし込み、実践と改善を繰り返す。その積み重ねが、変化に強い営業組織をつくっていく。

DTTの2035年に向けた長期計画では、「誰からも選ばれるタイヤブランド」を目標としている。エンドユーザーから「ダンロップを買いたい」、販売店から「ダンロップを売りたい」、そして従業員から「この会社で働き続けたい」と思われる企業を目指す。

その実現に向けて、田中社長が描く営業像も「単なるタイヤの物売りではなく、お客様の課題を一緒に解決できるビジネスパートナーになること」へと進化している。

トップ営業の「個人技」を、組織の「勝ちパターン」へ。そして、それを新たなメンバーにも受け継げる「仕組み」へ。DTTの営業改革は、変化し続ける市場で選ばれ続けるための組織づくりへとつながっている。

◎田中 隆博 氏
ダンロップタイヤ(タイランド)
社長
2005年に住友ゴム工業に入社。日本国内の交換用タイヤ市場における現場営業から本社企画、広告宣伝等、幅広い業務に従事。2023年より現職にて、日本で培った経験やノウハウをタイ市場に還元すべく奮闘中。

◎サラ・チョンバンヤットチャロン(ベン) 氏
リブ・コンサルティング(タイランド)
マネージング・ディレクター

一橋大学経済学部卒業。米ウォートン校にて経営学修士(MBA)取得。リブ・コンサルティングに参画後、営業改革・新規事業開発・成長戦略を軸に、タイにおける日系・現地企業支援を数多く手がける。


LiB Consulting (Thailand) Co., Ltd.

成果主義・現場主義を重視した日本発の経営コンサルティングファーム。「“100年後の世界を良くする会社”を増やす」を理念に掲げ、企業や政府機関へのコンサルティングを通じてタイ国を良くするため、戦略から実行まで「成果コミット型」で支援している。

E-Mail:[email protected](金谷)
Web:https://libcon.co.th

Dunlop Tire (Thailand) Co., Ltd.

タイ国内交換用タイヤ市場向け、Dunlopタイヤの販売会社。“Japan Quality”の高品質な商品を、タイ全土の消費者のもとに、必要な時に確実に届ける販売網を整備。会社設立20周年を機に全社的なオペレーション改革を推進している。

E-Mail:[email protected](田中)
Web:https://dunloptire.co.th

THAIBIZ編集部
白井恵里子

THAIBIZ No.178 2026年10月発行

THAIBIZ No.178 2026年10月発行自動車激変時代に光る、マツダの「信頼経営」

この記事の掲載号をPDFでダウンロード

最新記事やイベント情報はメールマガジンで毎日配信中

Recommend オススメ記事

Recent 新着記事

Ranking ランキング

TOP