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連載: リブ・コンサルティングの経営戦略
公開日 2025.03.18 Sponsered
THAIBIZは2月27日、リブ・コンサルティング(タイランド)と共催で「在タイ日系企業におけるタイ人営業パーソンの営業改革のポイント」と題するセミナーをハイブリッド(オンライン・オフライン)形式で開催した。同社はこれまで多くの在タイ日系企業を支援する中で、タイで営業改革をする上では特に「顧客の購買心理」が重要だと強調する。同社の香月義嗣マネージング・ディレクター(MD)とアソシエイト・パートナーのラリター・ハリタイパン(ミン)氏、ディレクターの金谷泰佑氏に事例を交えながら営業改革のポイントを解説いただいた。
目次
リブ・コンサルティング(タイランド)では在タイ日系企業に対し、戦略立案や生産性向上、営業支援、新規事業開発をはじめ、さまざまな支援を展開しているが、中でも近年営業の課題に関する問い合わせが多く、関心の高いトピックの一つだという。
そもそもなぜ今、営業改革が必要なのか。それを紐解くために、香月氏はまず、タイの急激なビジネス環境の変化のポイントとして、①タイ国内市場の限界、②競争の脅威の高まり、③カーボン投資の不確実性、④デジタル変革競争、⑤AIの急速な変化、⑥人材ミスマッチの課題—の6つキーワードを指摘した。これらを背景として、日系企業は「従来の勝ちパターンから新たな勝ちパターンへの変革が求められるようになっている」とし、具体的に「①運用スピードと戦略的敏捷性、②イノベーションの確保、③スピード感のある能力獲得、④人、プロセス、テクノロジーの統合、⑤企業エコシステム全体での戦略的なリソース共有」の5つを挙げた(図表1)。
特にタイ自動車業界における構造変化として、2020年代前半と比較して、現在のタイ市場における日系メーカーは、「中国メーカーを中心とした新規参入」「ローン厳格化に伴う購買力低下による買い手の交渉優位性の高まり」「同業界の競合とのシェア争い」の3つの脅威が急激に高まっていると指摘した。
こうした変革的なトレンドを考慮し、企業は生き残るために①製品戦略、②顧客戦略、③組織戦略—の3つの戦略を再設計する必要があると考えられるが、営業改革においては②顧客戦略が注力ポイントとなる。既存マーケットが縮小している自動車業界では、「既存市場で新規顧客を見つける顧客ポートフォリオの多様化」あるいは「競争優位性に基づいた新規市場への参入」のいずれか、またはその両者が求められ、各企業は状況を見極めて戦略を練っていく必要があると香月氏は説明した(図表2)。
同社が在タイ日系企業経営者に実施したアンケート結果によると、経営課題の1位(49%)は「営業・マーケティング」だったという。さらに日系企業の営業に関するトレンドとして、香月氏は次の3つを挙げた。
1つ目は「営業の現地化」だ。これまで多くの日系企業は主な顧客が日本企業だったため、日本人主体の営業活動で成長し、タイ人社員は日本人のアシスタント役として報連相や段取り力が求められたが、顧客がタイ企業になると、タイ人主体の営業で行動量や関係構築力、情報収集力、提案力が求められる。
2つ目は「提案営業の推進」である。日本企業の製品・サービスは価格が高い傾向にあるため、価格でなく品質で勝負するために「モノ売り営業」ではなく、付加価値を付けた提案営業の実現を目指す企業が多いが、「セールスの提案力強化」をうまく推進できてない。
3つ目は「デジタルトランスフォーメーション(DX)による効率化」である。営業やマーケティングのDXを推進する企業は増えている。DXは本来、営業の勝ちパターンが明確であれば効果を発揮できるが、営業の勝ちパターンが曖昧なままDXを進めてしまうと、管理業務が増える割に成果が出ず、結果として営業社員が疲弊するか、データ入力が形骸化してしまう。
こうしたトレンドを踏まえ、香月氏は営業改革のポイントとして9つのキーワード(図表3)を挙げ、これらは「仕組み作り」あるいは「スキル・マインドセット強化」によるアプローチで改善を図ることができると説明した。
香月氏は、「通常の新規営業活動では、顧客接触から始まり、ターゲット顧客訪問とニーズ把握、課題に合わせた提案、ハードル把握、見積書提示といったセールスステップがあるが、この時に『顧客の購買心理』を押さえる必要がある」と強調した。購買心理とは、購入するまでに変化するお客様の気持ちのことを指し、具体的には不安からスタートし、不信、不要、不適、不急、予算不足、不満の7つのハードル(買えない理由)があるという(図表4)。
これらのハードルは一つずつ順番にクリアしていく必要があり、仮に購買心理が上がらないまま、セールスステップを進めてしまうと失注につながってしまう。そのため、購買心理が上がるのを見ながら、セールスステップを進めていく「心理学的アプローチ × 科学的アプローチの両軸の改善を行うこと」が重要となり、これらの「営業の勝ちパターンを見える化・仕組み化することが成功シナリオとなる」と説明した(図表5)。
また、実際に日系電機・機械メーカーの成功事例として、勝ちパターンのマニュアル化とオンライン教育を含む同アプローチで「営業一人当たりの売上が40%向上した」ことを明かした。
続いてミン氏は、「売上の大半を既存顧客に依存し、新規顧客の開拓を行う体制がない。またベテラン営業社員への依存性が高い」という課題を持つ日系食品原料製造・販売企業の営業改革プロジェクトの事例を紹介した。同プロジェクトでは、ターゲットリストの作成と営業の仕組み化のアプローチにより、「1ヶ月あたりの新規顧客数が2倍、新規顧客アプローチ数が約1.7倍改善された」という。
ミン氏は、勝ちパターンの要因として、「①既存顧客の購買決定要因(KBF)の調査、②ベテラン営業から成功要因を抽出した上でのセールスステップの仕組み化、③購買心理ステップの確認」の3つを解説した。また、こうした改革をタイで進める際に重要な点として、「タイ人には理論を最初に教えるのではなく、なぜ学ぶ必要があるのか、マインドセットを先に説明する必要がある」と強調した。さらに、「全体をモニタリングするために顧客との関係性やステップの現状が一覧でわかる管理ボードを作成し、部署内に掲示することもポイントだ」と付け加えた。
一方、金谷氏は「日系企業がメインの取引先となる自動車部品等の製造・販売企業」のプロジェクト事例を紹介した。同企業は、市場環境の変化に伴い、日系以外や非自動車関連企業への販路拡大を目指していたが、新規営業に対するタイ人営業のスキルとマインドセットに不安があるという課題を抱えていた。
そこで同プロジェクトでは、これまでアシスタントの役割だったタイ人営業社員が積極的に新規顧客に対応できる状態に持っていくことを目指し、「①新規営業ターゲットリストの作成、②新規営業の仕組み化、③セールスワークショップの実施とスキルセット・マインドセット評価のアプローチ」で改革を実施した。また自信を持って営業ができるようトークスクリプトやヒアリング項目の作成、ワークショップでタイ人コンサルタント主導のロールプレイ実施、実需要が見込める新規営業リストへの新規営業など、成功体験を作りやすい環境を準備することで、新規営業に苦手意識を持っていた社員も着実にスキルを向上し、マインドセットにも変化が見られたという。
本セミナーの総括として香月氏は、「タイの営業組織では、教育だけでなく脱・属人化を実現するために仕組みを作ることで一定水準まで能力を上げることができる」とした上で、営業組織の実行力とモチベーションを向上させるために、「タイ人の営業改革においては営業組織内のキーパーソンを巻き込むことが重要だ。また、タイの文化にフィットするよう楽しみながら取り組める土壌を作り、競争意識を高めるゲーム性や成績上位者には報奨を授与するなどの環境づくりが効果的である。その時に、成果や行動の見える化を同時に進めていくことが営業組織の向上の鍵となる(図表6)」と締め括った。
THAIBIZ編集部
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