THAIBIZ No.151 2024年7月発行スマートシティ構想で日タイ協創なるか
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公開日 2024.07.10
タイでは、タイランド4.0政策に則り、国民の生活の質を向上させることを目的にスマートシティの開発が各地で進められている。しかし、国家予算がバンコクに集中するなど、不均衡な都市開発の現状が問題視されることも多い。
スマートシティ開発を担うデジタル経済社会省傘下のデジタル経済振興庁(DEPA)パサコン・プラトンブット副局長に、タイ全体の都市開発計画やバンコク以外のスマートシティ開発状況、タイ企業と日本企業のビジネス提携の機会などについて話を聞いた。
都市開発やスマートシティの分野におけるDEPAの役割は、都市のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進し、データを収集・分析することで、都市の問題解決のためのソリューションを提供することだ。また、DEPAは「国家スマートシティ委員会」の一員であるため、国全体のスマートシティ開発計画を立て、戦略的に計画を推進するための方針を策定する役割も担っている。パサコン副局長は、「タイのスマートシティ開発は、『20ヵ年国家戦略』の目標の一つだ。地域格差の削減を目指し、バンコク以外のセカンダリー・シティズ(知名度の低い都市)も持続的に成長できるよう支援したい」と説明する。
DEPAのスマートシティ推進に向けた取り組みを象徴する制度が、スマートシティ・ロゴマークだ。複数の条件をクリアした自治体がDEPAにスマートシティ開発計画案を提出し認定申請を行い、承認されればタイ投資委員会(BOI)からの奨励を受けることができる。例えば、民間企業(51%以上のタイ株を保有)がスマートシティ開発に関連する事業を行う場合、最大8年間の法人税免除が適用される。また、国家予算の配分においても、認定された地方自治体は優遇される。
パサコン副局長によれば、2024年6月時点で162都市がスマートシティ・ロゴマークの認定申請を行っており、コーンケーンやプーケット、チェンマイ、ラヨーン県のワンチャンバレーなど36都市が認定取得済みだ。同氏は「2027年までに、105以上の都市のスマートシティ開発を目標としている」と、意気込みを語った。
スマートシティ・ロゴマークの認定申請には、5つの条件を満たす必要がある。
① ビジョン&ゴール
② インフラ計画
③ データプラットフォーム
④ 7つの指標に基づくソリューション
⑤ サスティナビリティ
まずは、ビジョンとゴールの設定だ。認定申請にあたっては、都市開発における目標、そして明確なビジョンを持たなければならない(①)。例えば、プーケットは「持続可能な観光都市」や「観光中心都市」に発展させるビジョンを持っている。加えて、目標達成に紐づくデジタルテクノロジーとインフラについて、交通網や電力などのアクションプランを有していることが求められる(②)。
都市に関するデータ保存・管理システムの構築に向けたポリシーと計画があることも必要条件である(③)。例えば、ナコーンシータマラート県の「デジタル・ツインズ」は、実際の街のデータを使って仮想世界を作り、さまざまな状況を想定できるシステムだ。都市開発を実行する前に、開発結果をテストして想定される変化を確認できるほか、洪水のシミュレーションなど、あらゆる場面で活用できる。
次なる条件は、ビジョンやゴールの実現のために、7つの指標に沿って、具体的なソリューションやプロジェクトを提案することだ(④)。必須指標である「スマート・環境」に加え、「スマート・エネルギー」「スマート・エコノミー」「スマート・モビリティー」「スマート・リビング」「スマート・ピープル」「スマート・ガバナンス」のいずれか最低一つの指標に当てはまる計画を立案する必要がある。
最後に、サステナビリティだ。開発計画を一過性で終わらせないために、プロジェクトの持続可能性を確保するメカニズムの整備、市民やステークホルダーを巻き込むための計画や活動が求められる(⑤)。
では、実際に、タイではどのようなスマートシティ開発が行われているのだろうか。パサコン副局長は、タイ北部のランパーン県メーモ市やタイ中部のナコーンサワン県の事例を挙げた。石炭の発掘地であるメーモ市では、環境汚染に配慮したスマートシティ開発を推進している。
例えば、高層建築物やグリーンハウスなどの建物内で農作物を垂直方向に積み重ねて栽培する「垂直農業」をはじめとした、グリーン産業への転換に取り組んでいるという。
また、ナコーンサワン県には、廃棄物を原料とした発電などの「スマート・エネルギー」の強みがあるほか、充実した医療サービス施設を活かして医療のハブ的存在を目指しているそうだ。
パサコン副局長はタイのスマートシティ開発における日本企業との協業機会について、「多くの自治体が抱える問題の一つは、ゴミの収集やリサイクルなど、廃棄物の管理だ。例えば、ナコーンサワン県とラヨーン県では、廃棄物由来燃料(RDF:Refuse Derived Fuel)事業に取り組んでおり、廃棄物を販売することで埋立地の削減を目指している。また、トウモロコシの穂軸やサトウキビのバガスなどの農業副産物は、バイオプラスチック事業などに活用できるはずだ」とした上で、「このような廃棄物問題においては、日本企業にとってビジネスチャンスになるのではないか」との見解を示した。
また同氏は「日本の技術やサービスをそのまま持ち込むのではなく、まずはタイで概念実証を行い、タイの環境や事情に合わせた形に開発する必要があるだろう。このようにしてタイでの応用が成功すれば、タイ企業とパートナーシップを組み、他のASEAN諸国に横展開できる可能性がある」と、ASEAN諸国の中でも比較的インフラが整っているタイを事業拡大のためのスプリングボードとして活用する可能性についても述べた。
DEPAは2024年11月6~8日の3日間にわたり、バンコクのクイーンシリキット国際会議場(QSNCC)にて「タイランド・スマートシティ・エキスポ2024」を開催予定だ。タイの地方自治体と都市開発事業者とがビジネス商談を行う機会を設け、将来のスマートシティ都市開発に関する協力関係を深める場となるそうだ。スマートシティ構想にビジネスチャンスを探る日本企業にとっても、情報収集や関係性作りの貴重な機会となるだろう。
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THAIBIZ編集部
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