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連載: タイ企業経営者インタビュー
公開日 2023.02.28
電気自動車(EV)へのシフトが世界中から注目されている中でさまざまな関連業界の企業がEVへの対応を急いでいる。特に、EVシフトの影響を直接的に受けるのが石油関連業界だ。今号では、タイ全国2200店舗以上のサービスステーション(ガソリンスタンド)を運営している給油所大手PTGエナジーのランソン・プアンプラーン(Rangsun Puangprang)副社長にタイの燃料市場の将来と企業戦略について話を聞いた。
(インタビューは2月1日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTJRI編集部)
目次
ランソン氏:PTGエナジーは、1988年に設立され、石油の卸売業から始めた。タイは国内製油所からの供給が不足していたため、外国から石油を輸入していた。しばらくして卸売業だけでは長続きしないことが分かってきて、1992年に卸売業から小売業に転換した。しかし、1997年のアジア通貨危機の影響で給油所事業も悪化し、成長が難しくなると考えられるようになった。
しかし、PTGエナジーのピタック最高経営責任者(CEO)は、エネルギーは不可欠だとの信念から、フランチャイズオーナーが運営している店舗を自社で所有して運営する戦略に変更したことが会社の転機となった。さらに他のブランドとの契約期間の更新が近いガソリンスタンドを探し、オーナーが継続を希望しなかった場合に賃借して改装した。この戦略のメリットは、オーナーを通さず当社が直接指示することでき、さまざまな調整作業が迅速化したことだ。PTGは地方からの展開を重視し、その主要ターゲットを毎日数百リットルの給油している業務用トラックに据えた。これらにより、2007年の24店舗から、現在の2200店舗まで急拡大した。
PTGは給油所をサービスステーションと呼んでいるが、現在、石油小売市場の売上高ランキングでは国営タイ石油会社(PTT)に次ぐ2位となった。さらに、液化石油ガスLPGスタンド数のランキングでは1位だ。さらに当社は、「パーム・コンプレックス」と呼ぶパーム油やバイオディーゼルなどを製造するパーム油関連ビジネスと、「AMAマリン」と呼ぶ中国、ベトナム、インドへのパーム油の輸送船にも投資している。
ランソン氏:PTGの主力商品はガソリンだ。ただ、どのブランドのガソリンでも品質が同等で、違うのはサービスだ。そこで、顧客がより良いサービスを受けられるように、ガソリンスタンドにレストランや「Punthai Coffee」「Coffee World」というコーヒー店、カーメンテナンスサービス施設なども併設したコミュニティモールのような店舗も展開している。さらに、シャワールームやベッド、コインランドリーなどの設備があるトラック運転手向けの休憩所「Max Camp」もある。
また、商品購入時にポイントや割引などの特典が受けられる「Max Card」会員の管理システムも提供している。現在、会員数は1800万人を超えた。これらの顧客の行動データで新たなビジネス展開も可能だと考えている。また、ステーションで接客する「サービス・マスター」という厳選したスタッフがいるのもPTGの特徴だ。
ランソン氏:現在、タイの政府は電気自動車(EV)を推進しようとしているが、成功するかどうかはコストと顧客からのフィードバック次第だ。例えば、E85燃料(ガソリンにエタノールを85%混合した燃料)は、他の燃料に比べて燃費が悪い。また、石油基金からの補助金を充当しているため、現在は割安で販売することができるが、今後政府が補助金を支給しなくなれば、E85の価格は大幅に上昇し、そのメリットはなくなるだろう。さらにエタノール価格は農産物価格によって変動し、不安定だ。これらの結果、E85は利用者が減少し、徐々に市場から消えていくだろう。
もう一つはガソホール91(オクタン価91のガソリンとエタノールを10%混合した燃料)だ。ガソホール95(オクタン価95のガソリンとエタノールを10%混合した燃料)に比べると燃焼時のエネルギーはより弱く、ガソホール95のほうが人気がある。今後、化石由来の自動車燃料はE20を含め3〜4種類しか残らないだろう。
ランソン氏:EVはいずれタイの将来の主要な自動車になるだろう。PTGはEVだけでなく、水素エネルギー市場にも関心を持っているが、実用化はまだ先だろう。EV事業では、充電スタンドの設置許可取得が厳しいため、製造業のパートナーが必要で、タイ発電公社(EGAT)と提携した。PTGは既に全国にガソリンスタンドを展開している一方、EGATがEV急速充電装置と電力供給を担当している。これまでの2年間で、充電ステーションを北から南へのルート上の全国35カ所に整備してきた。今年はさらに30カ所に新設する計画だ。
ただ、現在35カ所すべての充電ステーションが利用されているわけではない。よく利用されているのはバンコクや、ナコンラチャシマ県パークチョン、チョンブリ県シラチャなど都市部のステーションだ。例えば、バンコクにあるサラヤ・ステーションでは1日に平均10台以上が利用しているが、全国平均はまだ2〜3台だ。このためPTGが重視しているのは充電設備数ではなく、投資価値だ。ピタックCEOはEVが1万台以上販売されたら、充電ステーションの開設を本格化するという目標を設定している。
ランソン氏:PTGエナジーは収入の90%を石油事業に依存している。リスク分散のため、非石油事業を拡大していく方針で、今後3年間で非石油事業からの収入を50〜60%にするのが目標だ。
PTGはサービス産業であり、タイ全国の約900郡の9割の郡に店舗がある。顧客を獲得するために、レストランチェーンなどのサービスパートナーと連携している。また、今までは業務用トラックを主なターゲットにしていたが、全国で80万台しかないので、約1000万台ある自家用自動車にも広げつつある。同時に、幅広い顧客にリーチできるようにブランド力を強化し、積極的に広告も出稿している。また、自家用自動車やトラックを対象にするパートナー企業も募集している。
ランソン氏:自動車関連事業として、日本の自動車用品販売・および整備サービス大手の「オートバックス」をタイで展開しており、現在は50店舗になった。なぜ同社を選んだかというと、ブランド力と信頼性が高く、作業標準もあり、仕事文化もタイと似ている。そして商品のブランド数も多く、お客さんが自由に選ぶことができる。ただ、タイ人は購買力があまり高くないので、タイのオートバックスは商品販売よりもメンテナンスサービスを重視している。
自動車整備サービス市場は、これから大きく成長する可能性があると考えており、今後、年50店舗以上を出店していく予定だ。現在、市場シェアトップは「B-Quik」、2位は「Cockpit」で、3位がオートバックスだ。5年後には売上高トップになることを目指している。
ランソン氏:PTGの新たなビジョンは、「Enriching the quality of life, well-being and contentedness of the people we serve」だ。PTGは「Data is a New Oil(データこそが新しい“石油”)」という信念に基づき、1800万人以上の会員情報を活用し、顧客の個別のニーズを満たす商品やサービスを提供していく。また、PTGはこれから、ソンクラー県ハートヤイにある廃棄物発電所や、物流デジタルプラットフォーム、「Maxme」ウォレットアプリ、自動販売機事業などの事業も推進していく方針だ。
TJRI編集部
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