EVシフトの影響はエンジン周りのみ ~自動車部品大手アーピコ、イエップ社長インタビュー

EVシフトの影響はエンジン周りのみ ~自動車部品大手アーピコ、イエップ社長インタビュー

公開日 2023.11.07

タイの自動車部品大手AAPICO Hi-tech(アーピコハイテック)は、ベトナムの自動車大手ビンファストへの部品供給を開始しているほか、今年7月にはマレーシアの国産車メーカーであるプロトンの部品子会社を買収するなど海外展開を加速している。アーピコのイエップ・シー・チュアン(Yeap Swee Chuan)社長兼最高経営責任者(CEO)に、日系企業との取引開始の経緯など同社の歴史、現在の事業戦略、電気自動車(EV)市場の急拡大の影響などについて話を聞いた。

(インタビューは9月22日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTJRI編集部)

インタビューの様子03 EVシフトの影響はエンジン周りのみ ~自動車部品大手アーピコ、イエップ社長インタビュー
AAPICO HitechのイエップCEO(左)、mediator ガンタトーンCEO(右)

世界中に48の子会社・関連会社

Q. アーピコハイテックの歴史と事業概要は

イエップ氏:私が最初に始めた米フォード・モーターの販売ディーラー事業は長続きしなかったが、その後、フォードが再び私にアプローチしてきたため、彼らのサプライヤーとしての事業に転換することにし、1996年にアーピコ・ハイテックを設立、自動車部品生産を始めた。さらに、タイでは三菱自動車、フォード、MG、マツダ、マレーシアではプロトン、ホンダの販売ディーラー事業も行ってきた。

20年前に中国の崑山市(江蘇省)に進出した後、2019年にはポルトガル市場にも参入した。今では世界中に48の子会社(タイ33社、海外15社)がある。われわれの最も新しい生産設備は、マレーシアのプロトンとの合弁会社であるAAPICO Aveeと、Prem AAPICOだ。そして売上高の中心はタイ、マレーシア、ポルトガル、中国の4カ国だ。

会社のビジョンは「Lean」「Green」「Happy」だ。さらに「QCD」にフォーカスしている。QCDとは、Quality(品質)、Cost(コスト)、Delivery(納期)であり、納期を100%守る。QCDで顧客の幸せ(Happy)をキープする。同時にさまざまなガイドラインで従業員も幸せにし、利益を出すことで株主も幸せにする。さらに寄付やCSR活動によってPublicも幸せにする。ESGにもフォーカスしており、昨年、タイの「ESG100社リスト」に選ばれた。さらに、タイ証券取引所(SET)からはガバナンス格付けで「5つ星」の評価をもらっている。Leanカンパニーとして、カーボンニュートラルに一生懸命取り組んでいる。

われわれの強みは自動車ビジネスのみにフォーカスしていることだ。自動車以外のビジネスはやっていない。スペアパーツ、オートパーツ、ディーラーシップ、テレマティクス、カーナビゲーションなどすべて自動車に関係している。そして日本、中国、ポルトガル、スペイン、ドイツなどで合弁事業を行っている。

インタビューの様子01 EVシフトの影響はエンジン周りのみ ~自動車部品大手アーピコ、イエップ社長インタビュー

Q. なぜ中国企業の参入ラッシュが続くのか

イエップ氏:中国の電気自動車(EV)メーカーがタイに次々に参入してきているのは、中国製EVは無関税で輸入できるからだ。また、日本企業、米国企業に続いて中国企業がタイに参入した理由の1つはタイの部品サプライヤーの製品が高品質だからだ。タイで生産された車は100カ国に輸出されている。その品質はオーストラリア、英国、日本など世界中の国に適している。われわれは高いスキルを持っている。だれもがタイに来れば簡単に作れ、教える必要もない。政府の自動車政策も極めて良好だ。ピックアップ自動車の政策、エコカー制度も良く、今はEV政策もあり、これらの良い政策を利用できるので、中国企業の参入も容易になったと思う。

Q. 部品業界の間では中国メーカーの進出が雇用を伴うのかという懸念もある

イエップ氏:タイ企業が日本の自動車メーカーのために部品を作り始めたころはその量は極めて少なかった。日本のサプライヤーがタイに来てからそのボリュームが大きくなった。同じことが起こるだろう。ボリュームが少ない時は、中国企業はわれわれに部品を作ってくれるよう要請するだが、中国車の売れ行きが極めて良好なら、中国のサプライヤーが来るだろう。もしわれわれが中国製よりも安く作れるなら、われわれも中国製と競争できる。われわれはローカルであり、アドバンテージがある。

政府のEV目標は達成可能

Q. 日本企業のEV市場への対応をどう見るか

イエップ氏:皆が日本企業はEVに対して対応が遅いと言うが、速いだけで勝者になれるわけではない。対応が遅くても勝者になる場合もある。最終的にはQCDの問題で、もし日本のEVの品質が中国製よりも良くなれば、何かが起こるだろう。1日1%ならば、1年で365%だ。あらゆる可能性がある。

Q. BEVでもさまざまな課題が指摘されているが

イエップ氏:今はバッテリーEV(BEV)の多くが完成車(CBU)輸入で来ている。今後、現地生産が始まったら、バッテリーや電子部品などで多くの問題が起こってくるだろう。新製品ではすべて問題が起きるが、だんだんと良くなっていく。自動車には6000~7000のパーツがあり、1つのパーツがなくなれば、自動車は組み立てられず、サプライチェーンには常に課題はある。

Q. EV市場の見通しは

イエップ氏:タイの今年の市場規模は6万~7万台になるだろう。昨年は1万台、今年は6万台とすると500%増ということだ。タイ国内の自動車市場は約100万台なので、まだ10%未満だ。来年は7万~10万台程度まで増えるだろう。ただ、インパクトはまだ小さい。来年以後は伸び率は低下していくだろう。現在の状況からは政府の30@30目標(2030年までに新車販売におけるゼロエミッション車の比率を30%にする)は多分、達成できるだろう。

EV時代の部品サプライヤーとは

インタビューの様子02 EVシフトの影響はエンジン周りのみ ~自動車部品大手アーピコ、イエップ社長インタビュー

Q. EVシフトは、部品供給にどのような影響を与えるか

イエップ氏:当社の主要製品は鉄鋼部品だ。プラスチック部品もある。われわれの部品はすべてのEV向けに供給可能だ。現在、ビンファストの2車種向けにも供給している。タイでビンファストのボディーを作り、ベトナムに出荷し、組み立てて米国にも出荷している。ボディーもタイヤもICEと変わりはない。ただ、アンダーボディーはバッテリーに合わせなければならない。多くの部品は同じだが、違うのがエンジンで、エンジン関連メーカーには若干のインパクトがあるだろう。当社の売上高のうちエンジン関連部品の比率は5%に過ぎない。これを失っても5%だ。他のパーツ、プラスチック部品、フォージング部品、キャスティング部品はEV向けにも供給できる。EVへの移行は自動車産業全体に広範囲の影響を与えるだろうという一般的な誤解がある。EVシフトは実際には産業全体というより、主にエンジン周りに影響を与える。

カーテクノロジーは変化している。例えばギガファクトリー、ギガプレスは良い技術だが高価だ。生産台数が多ければ使える。タイのEV生産台数は当面、5万台、10万台とそれほど多くはないので、ギガプレスはタイには入らないだろう。中国はEVを50万台生産しているのでギガプレスを使えるだろう。

Q. ベトナムのビンファストとの提携の経緯は

イエップ氏:5年前にジョイントベンチャーを組もうと要請され、合弁することにした。当社でBMWのモデルの最初の2台を製造したからだ。すべての「Dies(金型)」を作り、出荷した。そして、自動車部品工場を作った。われわれが51%出資、ビンファストが49%出資した。組み立てライン、プレスラインも準備した。

われわれはベトナム人にいかにパネルを作るか、プレスをするか、ロボットをどう使うかを教えた。最初はすべてをタイでアーピコが管理したが、ベトナム人はとても早く学習した。そして彼らは今、EVを作ろうとしている。彼らは1~3年という短期間で学んだ。そしてEVを手掛け、問題はあったが彼らは迅速に対応している。

Q. プロトンとはいつから合弁を行っているのか

イエップ氏:アーピコはマレーシア企業でもある。マレーシアではすべての人、企業がわれわれのことを知っている。私はマレーシア・タイ商工会議所(MTCC)の会頭を15年務めている。われわれは長年プロトンの部品を作ってきた。そして中国の吉利汽車がプロトンに出資することを決めた。当社の多くの社員が中国語(北京語)を話し、コミュニケートすることができる。そこでマレーシアに行き、プロトンと話し合った。吉利汽車は当社を訪問した。われわれはQCDを重視し、多くの良い製品を持っており、吉利もわれわれとの合弁を希望した。

Q. 日本企業をどう見ているか

イエップ氏:私たちのパートナーの大半は日本企業だ。私たちは日本からビジネス、品質システムを学んだ。日本は製造業分野で優れていた。また、日本人はとても良いリーダーだ。誠実で、自己犠牲的だ。日本企業は機械が壊れた時には自己犠牲してでも24時間工場にいる。

一部の人は、日本人は「Slow way」だと言う。ただ、遅いが「steady(着実)」だ。着実なのは時には良いが、良くないこともある。経済が変化し、技術が変化する時は、人々はアジャストしなければいけない。日本人はアジャストに時間がかかる可能性がある。なぜ時間が掛かるのか。日本の車は内燃機関(ICE)車がほとんどだからだ。もし、EVを作るなら車に乗ったことがない若者を獲得すべきだ。最終的にはICEとEVのミックスになるだろう。

タイの強みは日本の教育だ。私の会社はトヨタ生産システムを持っており、これは非常に良い。われわれはlean製造ができる。そして今、われわれは中国のやり方も学んでいるところだ。中国車の部品も作っているが、彼らは強みもあるが多くの弱みもある。ただ、後から来た人はラッキーだ。「Last come, best served」だ。すべての準備が整っているからだ。良いサービスを得られ、インフラが整っている。産業は日本企業が一生懸命働いてセットアップした。後から来た中国人は迅速にセットアップでき、離陸は容易だ。

海外に向かう中国自動車メーカー

Q. 中国の不動産バブル崩壊や経済危機のタイや東南アジアに影響するか

イエップ氏:中国は米国のようなものだ。米国が風邪を引けば、われわれも感染する。もし中国で何か深刻なことが起これば、われわれに影響するだろう。ただ、われわれは中国に工場があるので、彼らがコントロール可能だと感じている。中国は上昇し続けており、下落したことはない。

われわれはかつて中国人に部品の作り方を教えた。今や、中国はタイよりも良い方法でできる。われわれが中国に行く前は、彼らのスタンダードは極めて低かったが、今では彼らの工場はわれわれの工場より良い。彼らは迅速だ。

中国の自動車市場は現在、若干の減速に直面しているので、中国の自動車メーカーは海外に向かい、マレーシアやタイに輸出してきている。中国政府はとても積極的で、中国の銀行も既にタイに来ており、タイに進出する企業に融資している。

彼らは100年に及ぶICEの歴史を持っていないので、EVが合っている。彼らの頭の中にはICEは20%しかない。他の国は90%がICEだ。だから変化が極めて難しい。中国はICEが20%、80%がEVだ。完全に違うアプローチだ。

EVの課題と自動車の未来

Q. 東南アジアでは電気を化石燃料から作っているが

イエップ氏:EVも汚染をもたらす。バッテリー原料は土中から採掘する。10年後のバッテリーがどうなっているか。やはり汚染につながるだろう。EVが30%になったらどうなるかなど最終的な結果は分からない。

Q. トヨタ自動車のマルチパスウェイ戦略をどう思うか

イエップ氏:誰も未来は予想できない。言えることは、今何が起こっているかだけだ。今のテクノロジーはEVと水素だが、他の技術含めどの技術が有力になるのか分からない。ただ水素には可能性はあるだろう。トヨタ自動車は巨人であり、資金力が豊富で、とても良い会社だ。(水素製造で提携している)タイ大手財閥チャロン・ポカパン(CP)グループも巨人で、2社の巨人が組んだ。ただ、成功するかは私には分からない。

Q. 最後に日本人に伝えたいことは

イエップ氏:日本にとって、タイは投資するには良い国だ。未来も良好で、政治でもセター首相はビジネスマンなので理解が早い。タイには良い未来がある。タイは仏教国でもありハーモニーがあり、戦いを好まない。タイはダウンしても再上昇し、ずっと下降していくことはないだろう。

TJRI編集部

Recommend オススメ記事

Recent 新着記事

Ranking ランキング

TOP

SHARE