カテゴリー: 対談・インタビュー, ASEAN・中国・インド, 特集
連載: タイ企業経営者インタビュー
公開日 2022.07.12
タイ証券取引所(SET)上場の工業団地開発・物流の包括的なソリューション提供大手「WHAコーポレーション社およびWHAグループ」は2003年に倉庫業・物流センターで創業後、現在ではロジスティクス(物流)、工業団地開発、ユーティリティー・エネルギー、デジタルプラットフォームの4分野を中核事業とし、工業団地内外の顧客に対し包括的なソリューションを提供している。また各事業をサポートするため、「デジタルイノベーション」技術を積極活用し、2024年までに「テックカンパニー」への脱皮を目指している。ジャリーポーン・ジャルコーンサクーン会長兼最高経営責任者(CEO)にタイの工業団地開発ビジネスの現状、日系企業との協力関係のあり方などについてインタビューした。
(聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTJRI編集部)
WHAグループは、19年前の設立以来、日系企業との結びつきが強く、顧客の多くが日系企業だ。物流事業の最初の日系顧客は花王で、花王の物流センターを建設し、2009年9月9日午前9時にオープンした。
当時、日本の本社からこの物流センターを見学しに来た花王の幹部から、「この倉庫の規格を世界の花王の倉庫の規格にしよう」という意向を伝えられたことが非常に自信につながった。それ以後、日立製作所、大和ハウス、マツダ、スズキ、Spiberなど、日系企業と常に良い関係を維持することができるようになった。
WHAの工業団地事業では、顧客のうちの日系企業の割合は一時は38%あったが、現在は中国企業の参入が多くなり、33%程度に低下している。とはいえ、タイ政府が日本を最優先の投資国としてみなしているため、日系企業の比率はまだ高い。
海外投資の際には、信頼できる地元企業のアドバイスが非常に重要になると確信している。タイ投資委員会(BOI)との交渉支援業務から、人材採用や工場設立のプロセスまであらゆる問題に対応できる体制を整えることで、包括的なサポーターとして投資家や日系企業を支えている。
例えばシラチャにある日本人学校の支援もその一例だ。当時、イースタンシーボード工業団地(ラヨーン)の日本人会やトヨタグループのジェイテクトとの協力で5年間の調査を行い、日本政府に提案した。また、2014年のBOIの恩典付与期間の延長は当社がBOIに対し懸命に交渉して実現した。さらに、同工業団地の日系企業と中国の長城汽車(GWM)など他の外資系企業とのビジネスマッチングのようなサポートもしている。
この3〜4年間は、中国勢の動きが非常に早く、かつ明確になったことを認めざるを得ない。中国国内での投資がよりコスト高になり、規制強化によって投資が難しくなったため、中国企業は国外へ進出するようになった。また、今回の新型コロナウイルス流行で世界中の多くのサプライチェーンに障害が出て、中国企業もより一層、海外へのリスク分散を急がなければならなくなった。そして「チャイナ・プラスワン」の流れで、投資拠点を中国から東南アジアに移し始めることになった。ある中国の大手パートナー企業によると、中国が投資拠点の移転先として最も適していると考えているのは、ベトナム、インドネシア、そしてタイの3カ国で、タイはインフラが充実し、物流拠点として適していると評価していた。
当社の物流事業では、中国の顧客数はもともとゼロだったが、中国の大手企業は特に電子商取引(EC)事業の物流拠点としてタイが適していると考え始め、タイに移転し始め、中国の顧客数の比率は10~20%まで高まっている。
一方、工業団地事業では、4年前には全顧客数に占める中国企業の比率は2%でしかなかったが、今や12%まで増えている。特に過去2年間の新規進出を見ると、中国の顧客比率は50〜70%以上にまで達している。これは、中国企業の動きが早く、投資クラスター(集団)としてタイに進出したためだ。つまり親会社のタイ移転に追随して関連サプライチェーン企業などもタイに一緒に付いてきた。日本が昔タイに投資し始めた時のような動きになっている。
WHAグループはこれまで、国の発展に重要なインフラを中心に事業を展開していたが、最近は会社の成長を飛躍的に促すため既存インフラに先端技術を活用する「テックカンパニー」への転換を目指している。技術者チームの採用、光ファイバー、高速大容量規格「5G」、ドローン、自動化、さらに「M2M(Machine to Machine)プロセス、「グリーン輸送(Green Transportation)」までさまざまな分野を準備している。これらにより、2024年までにWHAをテックカンパニーに変身させ、最終的には独自のテクノロジーを生み出すことも視野に入れている。
海外投資計画については、従来、ラオスの水力発電所やインドネシアでの物流事業に投資してきたが、過去3~4年はベトナムに軸足を移し、2018年から現地での投資を開始した。現在、ベトナムの1カ所で既に工業地帯を開発しており、さらに2カ所を追加しているほか、他の事業の展開も考えている。
パナソニックがタイの工場を閉鎖し、生産拠点をベトナムに移すとのニュースもあり、日系企業がタイから拠点を移すことを懸念する声が多い。投資サイクルを深く理解すれば、それは普通だ。例えば、20年前になぜ日本がなぜタイに生産拠点を移したかと問われれば、「コストが安かったからだ」という答えがすぐ返って来るだろう。だから今、賃金がタイより安いからベトナムに移るという人がいても、それはそれで理解できる。タイの賃金が高いのは昔ほど労働力が豊富ではないからだとの見方もある。
しかし、熟練労働者、インフラ、テクノロジーの発展度合いを考慮すべきだ。タイのセールスポイントは安い賃金ではなく、技術やインフラがあり、特にエレクトロニクス企業や自動車メーカーが集まる国だという投資魅力だ。中国のGWMや比亜迪(BYD)は、ベトナムではなくタイに投資することにしたのもそういうことだろう。
個人的な意見になるが、インドネシアがニッケル鉱石を持っているからといって、EVの製造拠点になるとは思えない。また、日本の自動車メーカーはずっと前から研究開発を行ってきており、すでにEV技術を手に入れていると信じている。現状では内燃機関からすぐに変えられない理由があるためだろう。3〜4年前にある欧州企業のCEOは「タイのEV市場の将来は日本の自動車メーカーの動き次第だ」と指摘していた。確かに過去3〜4年、タイのEV市場は実際にそうなっている。一方、米国のテスラは他の大手自動車メーカーのように古いインフラを気にすることなく、さまざまな新しい技術の創造や開発がすぐにでき、世界に自分のEVをどんどん広げることが可能だ。
中国という競争相手の登場は日本企業に対しより早く「切り札」を出すことを促しているようでもある。そして日本企業のEVに関する発表などの動きを見れば、やはり技術的な準備はできている。ただ、製品を出すのに一番適切なタイミングを計っているだけだろう。個人的には、「準備しておいたものをどのタイミングで出すのかは戦略次第だ」と考えている。昔からタイにコストをかけてきた日系企業は準備が整っており、タイはEV時代でも自動車の生産拠点としての地位を維持できると確信している。
タイを家族に例えるなら、この家族は今ずいぶん大きくなった。以前は、タイに投資している日本との連携が一番身近だった、今はそれが「マルチ」というキーワードに変わった。日本に加え、欧州、アメリカ、中国などがタイに投資し始め、大きな潮流の変化が始まっている。
個人的には、日本がビジネスで成功してきた要因は、「日本人コミュニティーへの依存と支え合い」だと考えているが、これらにかかるコストは高い。今の世界では、新しい協力の機会を作ることや海外のパートナーと仕事をすることがより容易になっており、昔からある「壁」を越えて、日本企業が顧客やサプライチェーンの基盤を拡大・成長させ、ビジネスをより効率的にすることをわれわれは期待している。
もともと日本の理念や文化、そして会社、日本人そのものもタイ人にとって憧れの国だ。第二次世界大戦後に急成長を遂げた成功など、日本の人材の技術、製品、知識、能力、組織力などを見ても誰にも負けないと信じている。だからこそわれわれタイ人は、「アジアの誇り」である日本の復活を期待している。
日本には良いものがたくさんある。人材も良い、企業も良い、大学も良いとタイ人は思っている。ただし、その「良さ」をどうアピールすればより多くのタイ人に知ってもらえるかが今後の課題になるかもしれない。
個人的な意見では、日本の良い面をもっと広くアピールするためには「ジャパニーズ・インターナショナルスクール」の開校が鍵になると思う。現在、タイには多くのインターナショナルスクールがあるが、大半は英国や米国のインターナショナルスクールだ。こうしたインターナショナルスクールに通った子どもたちは卒業後、当然その国に留学し、その国の企業に就職することが多い。日本インターナショナルスクールを開校することは、日本への留学や就職を選ぶ動機付けとなり、タイ人がより多くの日本企業とともに歩んでいくための鍵になるだろう。
TJRI編集部
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