モバイルバンキングと日系ビジネスに強み ~カシコン銀行、カッティヤーCEOインタビュー~

モバイルバンキングと日系ビジネスに強み ~カシコン銀行、カッティヤーCEOインタビュー~

公開日 2023.11.14

タイは世界的にもモバイルバンキングで先行しているが、その中でも民間大手カシコン銀行は「K PLUS」というアプリケーションを展開し、国内でもモバイルバンキングで最も進んでいる銀行と知られており、日本の地方銀行とも緊密に連携している。「Towards Service Excellence(卓越したサービスを目指して)」をモットーにするカシコン銀行で初の女性最高経営責任者(CEO)に就任したカッティヤー・インタラウィチャイ氏に、デジタル化への対応や銀行経営の考え方、海外戦略などについて話を聞いた。

(インタビューは9月19日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTJRI編集部)

カシコン銀行のカッティヤーCEO(左)とmediator ガンタトーンCEO
カシコン銀行のカッティヤーCEO(左)とmediator ガンタトーンCEO

「タイ農民銀行」として創業、今はフィンテックを取り込む

Q. カシコン銀行の歴史と今は

カッティヤー氏:カシコン銀行(KBank)は78年前の1945年6月に、「Thai Farmers Bank」という名称で設立された。当時はタイの国民の多くが農民だったことから自ずと農家が主なターゲットになったようだ。

われわれのミッションは、サステナブルな銀行として、お客様の生活とビジネスに活力を与えることだ。また、変化は常に起こるため、新たなトレンドに適応し続けなければならない。

タイでも現在、スタートアップ企業などによる「フィンテック」が急速に発展しており、銀行の店頭に行く必要性も低下している。しかし、銀行の「取引業務」は社会にとって不可欠だ。新技術は顧客のニーズにより良く対応する方法であり、新たなチャンスをもたらす。

カシコン銀行でのキャリアアップに性別は関係ない

カシコン銀行、カッティヤーCEOインタビュー03

Q. 初の女性CEOとしての心構えは

カッティヤー氏:私は米国でファイナンスの経営学修士(MBA)を取得した後、1987年にカシコン銀行に入行、事業開発部に配属された。入行の32年後の2019年10月に、前CEOのバントゥーン・ラムサム氏から、私を次期CEOに起用すると告げられた。大手金融機関のCEOとしては会社の利益を伸ばすだけでなく、タイ社会を前進させるという任務もある。独自のCEO像も追求している。

カシコン銀行の組織運営では、公平な処遇で行員の潜在能力を最大限伸ばし、それぞれのキャリアアップにつながるよう努めている。現在の取締役会は17人のうち8人が女性だが、性別に関するルールは特にない。男女を問わず、スキルがあれば昇進可能だ。こうした取り組みでサステナブルな大手金融機関としての地位を維持していく。

イノベーションと組織文化の変革

カシコン銀行参加のKBTG社内研修の様子
「カシコン銀行子会社、KBTGの社内研修の様子」出所:Kasikorn Bank

Q. IT事業子会社、「KBTG」の役割は

カッティヤー氏:カシコン・ビジネス・テクノロジー・グループ(KBTG)はカシコン銀行のテクノロジー開発を担当しており、さまざまなアプリケーションやソフトウェアなどを開発している。例えば、カシコン銀行のモバイルバンキングアプリ「K PLUS」もその1つだ。銀行も急速なデジタル化の大きな影響を受けており、われわれは会社組織全体をよりデジタル化に柔軟に対応させることを目指している。デジタル戦略も策定しており、KBTGは高度なテクノロジーを開発するとともに、組織文化を変える役割もある。

例えば、以前は銀行スタッフは制服を着用しなければならなかったが、KBTGでは、スタッフの思考方法と社内文化の変革を狙って、快適でカジュアルな服装も認めることにした。その後、この取り組みを店頭業務以外の銀行本部全体にも広げつつあり、今では行内の雰囲気はより柔軟になり、働きやすい会社になった。

また、「KBTG Labs」というディープテックとイノベーションを開発するチームも作っている。プロジェクトを開発する際に、実現可能性調査が承認されたら、自由に使える予算を与える。この取り組みはイノベーションの開発を奨励し、失敗を恐れず、失敗から学ぶことが目標であり、現在は銀行本部でも導入されている。

タイでナンバーワンのモバイルバンキングアプリ

カシコン銀行が展開するモバイルバンキングアプリK PLUS
「カシコン銀行のモバイルバンキングアプリ – K PLUS」出所:Kasikorn Bank

Q.「K PLUS」の開発の背景は

カッティヤー氏:「K PLUS」はタイで利用者数が最も多いナンバーワンのモバイルバンキングアプリだ。現在、タイ人の支払い行動は大きく変化している。アプリを通した取引は急激に増えており、顧客は小売り店舗で支払い用のQRコードを使えなければ不便だと感じるようになった。順調に増えてきたK PLUSのユーザー数の伸びは、現在やや鈍化傾向にあるが、40~50代の年齢層ではまだ増加している。われわれは、顧客が簡単にアプリを使用できるように、使い勝手を研究し、改善し続けている。

K PLUSの開発では次の要素を重視している。

(1)ベストな経験:アプリを使うことで良い経験を得る。顧客の行動を理解し、簡単に利用できる手順を開発する。

(2)高い利用安定性:アプリはいつでも利用可能で、問題が発生しても早急に解決する。タイ中央銀行によると、K PLUSが利用できなくなったのは1回だけで、それも1時間以内で復旧するなど、タイの全モバイルバンキングアプリのうちで最もトラブルが少なかった。

(3)安全性:安全な取引で、利用者の情報を厳格に保護する。

Q. 人工知能(AI)は今後、金融産業の中でどのような役割を担うか

カッティヤー氏:人工知能(AI)は人間に取って代わるのではなく、人間のアシスタントになるだろう。AIは人間の仕事を支援し、最終的にはより良い協力関係になる。例えば、アプリではお客様の行動を分析することができ、より良い理解、そしてイノベーションの加速につながる。また、資料の作成や顧客の質問に答えるAIなども人間の仕事を補助する。AIは非常に役に立つが、そこに人間がどのように関わるかも重要になるだろう。

「ASEANプラス3」のネットワーク構築へ

カシコン銀行、カッティヤーCEOインタビュー02

Q. 日本企業との連携など海外展開は

カッティヤー氏:われわれは日本とのビジネス連携に真剣に取り組んでいる。東京の「虎ノ門ヒルズ森タワー」内に駐在員事務所を開設している。さらに農林中央金庫や、静岡銀行など30以上の地方銀行と覚書を締結し、相互の情報交換を行うなど協力体制を作っている。日本人スタッフもいて、日本の顧客を大事にしている。また、タイの顧客が日本国内のどこかでビジネスを展開したいという希望があれば、これらの日本の銀行を紹介する。さらに、KBTGは日本のスタートアップ企業との連携にも積極的だ。

われわれは「東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス3(日中韓)」でのサービス提供にも取り組んでいく。さらに、ASEANプラス3の大半の国にはすでに支店があり、これらの国々を結ぶネットワークを構築している。タイでは、多くの大手邦銀が支店を開設しており、お互いの強みを活かし、新たなビジネスチャンスを生み出すことも可能だろう。

TJRI編集部

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