バイオ製品、物流などへの事業多角化と海外展開を推進 〜潤滑油大手、PSPのセークサン副CEOインタビュー〜

バイオ製品、物流などへの事業多角化と海外展開を推進 〜潤滑油大手、PSPのセークサン副CEOインタビュー〜

公開日 2023.09.19

今年8月末にタイ証券取引所(SET)に上場したタイ大手総合潤滑油メーカーのP.S.P.スペシャルティーズ(PSP)は、各種潤滑油の製品開発と生産から、パッケージデザインや包装、そして保管などの物流やEコマースなどへの事業多角化を積極推進している。同社のセークサン・クローンパーニット副最高経営責任者(副CEO)にPSPの歴史や事業概要、新規事業の展開、日本企業との協業などについて話を聞いた。

(インタビューは7月27日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTJRI編集部)

潤滑油のワンストップサービス、そして物流、Eコマース事業

Q. P.S.P.スペシャルティーズの歴史を教えてください

セークサン副CEO:PSPは1989年に、タイに変圧器油(Transformer Oil)を輸入するトレーディング事業で創業した。当時、父(シン・クローンパーニットCEO)は石油業界で働いており、この事業にビジネスチャンスを見出し、潤滑油製造工場を開設した。その後、オイルターミナル(Terminalling)も設置し、タイの中部地方の南側から西部、南部地方の北側を対象にこれら工業用油の配送を始めた。そして、貨物船などを係留する桟橋(Jetty)を合計5カ所に保有している。2018年には、原料などの輸入から製品開発、生産、保管、顧客への配送を一貫して行うワンストップソリューションを提供できるように、流通センターを設立した。

PSPは強固な中核事業を持っており、長年にわたり業界のリーダーとして活躍してきた。今後はこの強みを生かしながら、新たな成長チャンスを見い出し、リスクを分散するために、事業を多角化していきたい。

PSPの傘下企業には、米石油大手のシェブロン傘下で、燃料・潤滑油添加剤事業を手掛けるシェブロンオロナイトの添加剤(Addictive)の販売代理会社「U.C.Marketing」、国境越えの輸送サービスを提供している「P.S.P. Logistic (Thailand)」、貨物フォワーダーサービスを提供している「Special Interfreight」、ミャンマーのパートナーと共同投資してミャンマーで潤滑油製造を行っている「Pacific-PSP Syntech (PPS)」、シンガポールのパートナーとの共同投資で、Eコマースプラットフォームを運営している「WhatsEGG (Thailand)」などがある。

潤滑油大手、PSPのセークサン副CEOインタビュー01

Q. PSPの中核事業は

セークサン副CEO:PSPの中核事業は、製品販売とサービス事業に分けられる。主力製品は、①潤滑油(Lubricants):自動車用潤滑油と工業用潤滑油 ②グリース(Grease):自動車用と工業用 ③変圧器油(Transformer Oil) ④ゴム加工油(Rubber Process Oil)–の4つだ。

PSPは自動車メーカーからの受託製造(OEM)や小売店での販売向けの自動車用潤滑油を製造している。弊社の収入は、潤滑油が50%、変圧器油・グリース・ゴム加工油が25%、トレーディング事業が20%、他のサービス事業が5%となっている。さらに、PSPの潤滑油の生産能力は年間2億リットルを超え、タイでは最大規模となった。

今後は既存事業の海外展開と新規事業に注力

Q. 既存事業の拡大と新規事業展開方法は

セークサン副CEO:既存事業については、海外展開を計画している。過去2~3年の輸出伸び率は年率約15~20%で、これからもこの平均伸び率を維持していきたい。現在、年間約3000万リットルの潤滑油を輸出しているが、東南アジア諸国連合(ASEAN)の市場規模は年間約30億リットルなので、まだまだチャンスがたくさんあると考えている。

新規事業は、まずB2B向けで、バイオ素材の変圧器油やゴム加工油などのバイオグレード製品を、公的部門や民間と共同で研究、開発している。バイオグレード製品の製造では国内で入手可能な原料、特にパーム油を研究開発対象としている。さらに、食品グレードのグリース開発のパートナーも探している。B2Cでは、既存の設備や強みを活かし、一般消費者向けの多目的油などの新製品を開発していきたい。

Q. SET上場後の戦略は

セークサン副CEO:タイ証券取引所(SET)上場後の戦略は、①海外展開と、自動化設備の導入により、潤滑油市場のリーダーの地位を強化する ②現在の強みを活かし、食品グレードやバイオ製品、電気自動車(EV)用各種液体(EV Fluid)などの新製品を開発し、B2C向けの製品を増やす ③物流事業や新Sカーブ産業、再生可能エネルギーやリサイクルなどのサステナビリティ関連事業など新しいビジネスへ展開する―というものだ。特にサステナビリティ関連事業のパートナーを探している。

潤滑油大手、PSPのセークサン副CEOインタビュー02

タイの物流事業の強みは多くの国と国境を接していること

Q. 国境越えの輸送サービスの現状は

セークサン副CEO:「P.S.P. Logistic」は、P.S.P.スペシャルティーズのパッケージ入り潤滑油の輸送から始まった。その後、社外からの仕事も受託するようになったため、「規模の経済性」が高まり、単位当たりのコストが低下した。現在、収入の90%は他社からの受託事業に伴うものだ。P.S.P. Logisticは、国境越えの陸上輸送のコンテナサービスを提供しており、冷凍食品や織物、半導体、自動車関連製品、危険物などの幅広い製品を輸送している。

タイは多くの国と国境を接しており、トラック輸送には問題がない。鉄道輸送はトラック輸送より重量物を輸送できる。一方で航空貨物輸送はコストが高い。海上輸送も可能だが時間がかかる。

Eコマース事業でB2Cのニーズを把握可能に

Q. Eコマース事業への投資の背景は

セークサン副CEO:PSPが投資した「WhatsEGG (Thailand)」はシンガポール企業との合弁会社で、「EGGMall」というアプリケーションを通じてエンジンオイルや自動車部品、バッテリーなど自動車に関連する商品を販売するB2Bプラットフォームを提供している。潤滑油を製造している顧客にもEGGMallに出店していただいた。このプラットフォームの主要顧客は全国の自動車修理工場だ。この事業を運営することで、B2C顧客のニーズをより詳細に把握できるようになった。

昨年の自動車登録台数の90%は内燃機関(ICE)車、EV車はまだ10%

Q. 自動車のEVシフトは事業に影響を与えるか

セークサン副CEO:今後、EVシフトは進むと思うが、完全に内燃機関(ICE)車から置き換わることはないだろう。2022年の自動車登録台数によると、90%はまだICEで、EVは約10%に過ぎない。EVにはプラグインハイブリッド車(PHEV)及びハイブリッド車(HEV)、バッテリー電気自動車(BEV)が含まれる。PHEVとHEVには潤滑油が必要だ。製品以外に、電気自動車用冷却液(EV Battery Cooling Fluid)を製造・販売するチャンスもあると考えている。

リサイクル事業のノウハウがある日本企業のパートナーを歓迎

Q. 日本企業との協業についてどう考えるか

セークサン副CEO:現在、PSPにはENEOS、日本サン石油(Sunoco)、コスモエネルギーなど多くの日本企業のパートナーがいる。過去の経験から、日本企業は「品質」と「安全性」に対して非常に厳しいことを実感している。日本企業に信頼してもらえれば、長期的なパートナーになることが分かった。日本企業との合弁事業の経験はまだないが、日本企業は高い技術を持っており、リサイクル事業でもそのノウハウを共有できると信じているので、歓迎している。

TJRI編集部

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