紙媒体は減少しても、新聞メディアの役割は変わらない ~バンコク・ポストのウォラチャイ副会長インタビュー~

紙媒体は減少しても、新聞メディアの役割は変わらない ~バンコク・ポストのウォラチャイ副会長インタビュー~

公開日 2023.10.17

日本を含め世界で「オールドメディア」の1つである新聞、特に紙媒体の衰退が叫ばれて久しいが、タイでも2019年6月に英字日刊紙「ネーション(Nation)」が印刷版の発行を終了し、電子版のみの配信に移行した。一方、タイ最古の英字紙であるバンコク・ポスト(Bangkok Post)は今でも紙媒体の発行を続けている。バンコク・ポストのウォラチャイ・ピチャーンチット副会長に会社の歴史と現状、新聞メディアの将来などについて話を聞いた。

(インタビューは8月24日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTJRI編集部)

バンコク・ポストのウォラチャイ副会長インタビュー02
Bangkok Post ウォラチャイ副会長(左)、mediator ガンタトーンCEO(右)

「信頼できるメディア」を理念に印刷版の発行を継続

Q. バンコクポストの歴史と会社の理念は

ウォラチャイ氏:「バンコク・ポスト」は77年前、第2次世界大戦が終結した翌年の1946年に、米海軍戦略局の少佐(Major)だったアレクサンダー・マクドナルド氏と、プラシット・ルリタノン氏によって設立された。バンコク・ポスト紙の創刊号の価格は1バーツだった。

タイシルクを世界に広めたジムトンプソン氏の友人でもあったマクドナルド氏がバンコク・ポスト紙の初代編集長となった。マクドナルド氏は海軍に入る前は記者として働き、メディアの仕事の経験もあった。戦争が終わり米海軍を退役した後、タイにはまだ英語メディアがなかったことに目を付け、バンコク・ポスト紙を創刊した。

バンコク・ポストは現在ではタイで唯一の紙媒体を持つ英字新聞だ。現在も印刷版と電子(オンライン)版の両方を発行しており、タイ証券取引所(SET)にも上場している。

創業以来、欧米メディアと同じ「Fair and balanced」、公平、公正で偏向しないことを信条に事業を行っている。読者は自分の判断や価値観でバンコク・ポストの記事を読むことができる。「信頼できるメディア」が会社の理念であり、今日までも守り続けている。

バンコク・ポストのウォラチャイ副会長インタビュー01

メディアの役割は変わらず、決してなくならない

Q. メディアのオンラインへの移行が一段と進んでいるが

ウォラチャイ氏:現在、バンコク・ポストは紙媒体だけでなく、ソーシャルメディアなどあらゆる種類のオンラインメディアで配信されている。進化するテクノロジーがわれわれに大きな影響を与えているが、メディアとしての役割は変わらない。インターネットはニュースをより速く伝えるための道具だと考えている。われわれは読者や国家、国際関係における利益を守り、読者にとって有益な情報を誠実に伝えなければならない。また、われわれは編集部が慎重に選別したニュースのみを掲載し、噂やフェイクニュースを掲載しないという点で、他のオンラインメディアとは異なる。

Q. 印刷メディアは最終的になくなるか

ウォラチャイ氏:若い世代は携帯電話などでニュースなどを読むことを好むため、印刷メディアは減少していく傾向だが、紙の媒体は読む楽しさがあり、なくなることはないだろう。また、世界のメディア先進国である英国や米国を見ると、印刷メディアは、発行量は少なくなってはいるが、まだ残っている。これから世界は高齢化社会になっていくが、これらの世代は紙の媒体で読むことを好むだろう。

AIで情報収集するが、編集部が事実確認後配信へ

Q. 人工知能(AI)が急速に発展する中で、メディアとしての対応は

ウォラチャイ氏:人工知能(AI)は人間よりも多くの情報について適切な答えを出すことができるため、現在は多くの分野でAIの利用が急拡大している。例えば、医療データの収集や検索エンジンの支援、質問に回答するAIなどが普及しつつある。しかし、時にはAIは危険な情報、法律に反する情報、社会にとって危険な情報を出す可能性もあり、注意する必要があるだろう。

世界のメディアでのAI利用では、人間が情報を入力し、AIがニュースを発信するケースも出始めている。ニュースは起こった出来事、事実を報道するのが主な役割で、質問に答える責務はない。われわれはAIで事実ではないニュースを作成することはない。われわれはAIを情報収集手段として活用するが、編集部が噂やフェイクニュースではないことなど事実を確認してからニュースを配信する。

バンコク・ポストのウォラチャイ副会長インタビュー03

民主主義は国により形は異なる

Q. タイを含む東南アジアで欧米型の民主主義が後退していると指摘されているが、どう考えるか

ウォラチャイ氏:民主主義とは人間の基本的な権利であり、国の利益や、民間の事業活動、平和と幸福な暮らしを重視するものであり、人間生活の基本だ。ただ、民主主義はそれぞれの国の状況に応じて調整されるものだと思う。タイの場合、1932年の立憲革命から、独自の民主主義を発展させ、徐々に良くなってきていると思う。民主主義は英語のようなもので、国によって「アクセント」などが異なる。しかし、最終的には人間に権利と自由を与えられなければならない。平等な権利があり、差別されないことが重要だ。

日本企業に感謝、外国投資を支援するメディアへ

Q. 日本企業によるタイへの投資機会に関して何かメッセージはあるか

ウォラチャイ氏:タイは良い方向に進んでいると思う。タイに投資を続けている日本企業に感謝している。日本は1960年代からタイの人々に、冷蔵庫やエアコンなど手の届く価格で高品質の製品を数多くもたらしてきた。特に日本車は依然、タイ国内でシェアの大半占めている。また、ユニクロ、セイコー、カシオなど、日本の製品はタイ人の生活に大きな影響を与えており、日本食レストランはタイで最も多い外国料理店だ。タイ人は本当に日本のものにこだわっている。タイは外国からの投資を必要としているため、今後もスタートアップを含む日本企業によるタイへの投資に期待している。

われわれは外国投資を支援するメディアでもあり、ニュースを通じて情報や事実を提供できる。日本の皆さんには、バンコク・ポストの記事を読んで、タイの生活、ライフスタイル、ソフトパワー、グルメなどを知っていただきたい。また、タイのビジネス、政治などの一般ニュースもある。すべての記事は編集部が丁寧に確認したものだ。また、バンコク・ポストの新聞広告を通じて日本製品を宣伝することもできる。現在、セイコー、ロレックス、オメガなど世界の一流ブランドがよくわれわれのメディアに広告を掲載している。

TJRI編集部

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