連載: 在タイ日系企業経営者インタビュー
公開日 2023.04.25
2000年に加商、2006年トーメンと合併し業容を拡大してきた豊田通商は、今年4月にタイ現地法人トップが豪亜地域統括を兼任する人事異動を行った。日本の大手商社のタイ法人トップへの連続インタビューの第5回では、豊田通商の豪亜地域統括に就任した前田滋樹・豊田通商タイランド社長に登場いただいた。
(インタビューは4月5日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTJRI編集部)
目次
前田社長:2021年にタイ現地法人社長として赴任したが、豊田通商が今年4月1日の組織改革で豪亜地域統括するトップをシンガポールからタイに移したことで、同地域統括として東南アジア諸国連合(ASEAN)からインド、オーストラリアなど太平洋地域の14カ国を担当することになった。
トヨタグループ全体でタイの存在感が相当高まっている。グローバルで進む電気自動車(EV)シフトにより欧米や中国で内燃機関(ICE)車への規制が厳しくなっているが、アフリカや中近東などではICEからEVに切り替えるのはなかなか難しい。欧米や中国では今後ICE関連への新規投資は難しくなるのでどこかに集約しないといけない。それがアジア、東南アジア諸国連合(ASEAN)になる可能性も高くなると思われる。とりわけタイはシンガポールにはあまりないモノづくりの現場があり、そのインフラも整っており、新しいEVを作っていくと同時にICEの集約拠点になっていくのではないか。
前田社長:サプライチェーン全体で二酸化炭素(CO2)の排出量を見る必要がある。タイの電力はまだ天然ガス由来がメインだ。2002年から2022年までの20年間で、日本の自動車産業はハイブリッド車(HEV)の普及で、CO2を23%削減。欧米では逆に増えている。
水素はまだ法整備などが充分に進んでいないが、今後とても大きな可能性を感じている。さらに、商用車の脱炭素化に取り組む目的でトヨタ自動車などが日本で設立した共同出資会社「コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ」(CJPT)をタイにも展開して、トヨタ単独ではなくもっと大きな企業連合としてタイの社会に貢献していこうという動きになってくるだろう。
前田社長:豊田通商は昔からトヨタグループの縁の下の力持ち的な存在だ。銀行や社会インフラがしっかりしていない国での車の販売では豊田通商が販売代理店として入っていった歴史もある。私自身はずっと欧米市場担当でドイツ、アメリカにも駐在してきて、今回初めてアジア担当になった。タイは親日の国であり人材も豊富でとても仕事がしやすい。近隣の成長市場であるインドやインドネシアも総合的に視野に入れながら、今後もトヨタグループ企業に貢献していきたい。
前田社長:豊田通商は67年前にタイに進出した。当時は繊維関係のビジネスが中心で自動車関係の仕事が活発化してきたのは、タイ国トヨタ自動車が本格的に投資を始めた約60年前からだ。そしてちょうど50年ほど前から日本の自動車部品メーカーの進出ラッシュが始まったが、豊田通商はその水先案内人的な役割も期待され、現在は約90社に出資させて頂いている。タイは今では世界の自動車の生産国トップ10に入り、われわれはタイのモータリゼーションに若干でも貢献してきたのではと思っている。今、タイの自動車産業はおおよそ約200万台生産可能で、その内の約半分を輸出している。部品メーカーによる輸出促進へのお手伝いもわれわれの役割の1つだと思っている。
前田社長:タイは日本同様に民主主義の国であると同時に仏教という同じ宗教を共有し、とても親日で一緒に仕事がしやすい。今後ASEANの成長市場として人口も多いインドやインドネシア、ベトナムといった近隣の国々とモノづくりや機能面で分業となっていく思われるが、例えばタイには先端技術を持ってくるなどの役割が期待されてくるのではないか。
前田社長:これまでの豊田通商では、日本人駐在員がタイに来て引っ張って力を付けきた部分がある。しかし、5年先、10年先を見たら、これまでのやり方は明らかに限界がきている。今後は地場の有力な企業といかに協業し仕事を広げていけるかが重要になる。当社でもたたき上げのタイ人スタッフを積極的に登用し始めている。
タイに駐在して早々に、タイの財閥の方に「日本は単民族主義だ。日本企業は日本企業だけと仕事をしたがるし、まだまだ日本語で話したがる。タイ人スタッフの育成が遅れているのではないか。タイ人同士でも十分なコミュニケーションが取れない」と言われた事がある。優秀なタイ人をもっと育成し、登用していかないとタイの大手企業との仕事が広がっていかないという強い問題意識を持っている。
そこでこの一年、社内で新しい事に取り組む勇気と気概を持った人を増やしたいとの思いから、最初に海に飛び込む「ファーストペンギンになろう」というスローガンを掲げた。新しい仕事をつくる人だけがファーストペンギンではなく、今までにはないやり方を考えるというのがポイントだ。この活動は主にタイのローカルスタッフを意識して始めたが、コンテストをやると、非常に多くのアイディアが出てきた。手応えを感じている。
また、グローバル化をさらに推進するために、タイ人スタッフを積極的に米国や欧州、中国など他国に駐在員として派遣する取り組みも行っている。現在タイ人スタッフ約20名を他の国に送り出している。逆に、タイをもっと好きになってもらうという目的で、マレーシアやエジプトなど他国から積極的にタイに赴任してきてもらっている。当社は現在約45%が豪亜域内のビジネスで、日本の関与度合いが減ってきている。中国や欧米向けなどの域外ビジネスも増やしていきたい。日本人駐在員は3~5年しかいないが、タイ人は長い人で20年、30年務めてくれる。日本人駐在員についていけば良いという時代は終わった。「君たちが引っ張っていってくれ」とタイ人スタッフに話をしている。
前田社長:自動車だけではなく、サーキュラーエコノミー、SDGs、リサイクルなどの分野に入っていく時には異業種連携が必要だと考えている。例えばあらゆる産業で使われている樹脂などでは包括的な事業化の検討が必要だ。社会に偏在する「金(カネ)」「人(ヒト)」「物(モノ)」「情報」を業界の垣根を越えて最適化していきたいと考えている。スタートアップへの投資もこうしたことを意識して行っている。タイも日本同様に今後ますます少子高齢化が進んでいくので、新規事業では医療や健康、農業、フードロスなどの領域で一歩先をいったビジネスモデルを作っていくべきだと考えている。
前田社長:リサイクル、リユースなど「静脈ビジネス」分野も当社の強みの1つだ。今後、EV時代になった時にバッテリーをどうするかも大きな問題になってくる。リサイクルでは金属を主にイメージすると思うが、樹脂も車に再利用出来ないか、あるいは他の産業用途でも使えないかと考えており、われわれが力を入れたい分野だ。
「使用済み自動車(ELV)」のリサイクル実証事業も行っている。タイでのELVが現在、どのようなルートを辿って廃車されているのか、もしくは他国の中古車市場や分解されて中古部品として流れていっているのかなど詳しく調査している。確実に回収できるようなシステムを作るための法整備やインセンティブについてタイ政府や日本大使館にも相談している。タイはまだリサイクルという観点が薄いが、これらの分野は今後、われわれがタイなどアジアの社会に貢献できる領域の一つだと思っている。そして、脱炭素、カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミーの推進など環境問題を意識して、あらゆるモノの再資源化、さらに水素関連事業も取り組んでいきたい。
前田社長:再生エネルギーやエネルギーマネージメント、それに付随するロジスティクスの最適化といったエリアでは、サイアム・セメント・グループ(SCG)やタイ国営石油会社(PTT)グループなどタイの大手財閥企業と一緒により深く事業化を検討していきたいと考えている。加えてインフラの部分でも日本企業が貢献できる部分は多く、工業団地大手アマタ・コーポレーションやWHAグループなどのデベロッパーも大変重要なパートナーだと認識している。
TJRI編集部
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