カテゴリー: 自動車・製造業
公開日 2023.03.28
商用車の脱炭素化に取り組む目的でトヨタ自動車などが設立した共同出資会社「コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ」(CJPT)は17日、バンコク・バンナーにあるトヨタ自動車のテストドライブ施設「Toyota Alive Space」で燃料電池車(FCEV)のトラックやハイブリッド車(HV)のタクシーなど、カーボンニュートラル対応の商用車を一堂に集めたメディア向け試乗会を開催した。
CJPTは2021年4月に設立され(現在の出資比率はトヨタ自動車70%、いすゞ自動車10%、スズキ10%、ダイハツ工業10%)、輸送業の課題解決や脱炭素社会実現を目指し、商用車の物流効率化と電動化に取り組んでいる。昨年12月14日に開催されたタイ国トヨタ自動車(TMT)の設立60周年記念式典で、トヨタとタイ財閥チャロン・パカポン(CP)グループがタイでのカーボンニュートラル実現に向けた協力の取り組みを発表した際に、CJPTが大きな役割を果たす方針が示された。それから3カ月後に行われた今回のメディア向けイベントは、CPとの提携の中核であるCPの養鶏農場で排出される鶏糞から発生するバイオガスから精製される水素がトヨタのFCEVの燃料として使えるかの実証試験の最初の報告でもあった。
イベント冒頭のプレゼンテーションで、CJPTの中島裕樹社長(トヨタ自動車)は、CPとの提携について、「エネルギー」「データ」「モビリティー」の3領域でのソリューション提供によるタイならではの脱炭素の取り組みが狙いだと強調。エネルギーソリューションについては、「タイはバイオマスやフードロスなどの豊富な資源があり、これから水素を作り出すことができる」と指摘。データソリューションでは、「地域の中でも最も通信が進んだ国であり、今後、データと通信技術を用いたソリューション構築に大きなポテンシャルがある」とした上で、CPグループの物流効率化が電気自動車(EV)導入より前に、今すぐにできる二酸化炭素(CO2)の削減だとアピールした。
また、モビリティーソリューションについてはCJPTの奥山理志プロジェクトリーダー(いすゞ自動車)が、国や地域によってエネルギー事情、経済状況、顧客の使い方によって脱炭素の「山の上り方」はいろいろあるとし、「バッテリーを多く搭載するバッテリー電気自動車(BEV)は、距離や積載量を多く必要としない使い方では有効なソリューションだ。一方、多くの荷物を積み、長い距離を走るような使い方をする場合はFCEVが1つの選択肢になる。HEVは既存の車の機能を失うことCO2の排出量をゼロではないが確実に減らすことができ、カーボンニュートラルに向けた山の上り方の1つになるだろう」との認識を示した。
この日の試乗会で紹介されたのは日野自動車のFCEVヘビーデューティートラック、いすゞとトヨタのFCEVライトデューティートラック、トヨタ・ハイラックスREVO・BEVコンセプト、トヨタのLPG-HEVタクシーコンセプトなどのほか、日本では軽自動車となるスズキとダイハツのミニバンも持ち込まれた。これについて中島社長は「タイではラストワンマイルの物流にピックアップトラックが使われているが、荷物の量、燃料消費量を考えると、軽自動車の方が圧倒的に有利だ」とした上で、Eコマースが普及する中で、各家庭への荷物の配送にピックアップ、軽自動車のどちらが良いかを検証していくとの考えを示した。
同社長はまた、提携先のCPグループは、ロータスズ、マクロ、セブンイレブンなどの小売りチェーンがあるので、作った水素をトヨタといすゞが共同開発したFCEVの小型トラックに使うことを検討しており、その際にCJPTが日本で蓄積したビッグデータとCPが持っているデータを合わせ、リアルタイム処理による配送の効率化に取り組むことも明らかにした。
そして今回のイベントの目玉が、CPグループの養鶏場の鶏糞から発生したバイオガスから水素を作り、それをFECVの燃料として利用可能かの実証だった。タイにはまだバイオガスから水素を製造する設備がないことから、CPグループの東部チャンタブリ県の養鶏場で採取したバイオガスをいったん北海道鹿追町の水素ファームに持ち込んで水素に転換、それを再びタイに運び、この日の試乗会で燃料として使った。
中島社長は、「今回、(CPグループの養鶏場からのバイオガスから)水素を作り、車を走らせることができた。成分上問題なさそうだ」と説明。CPグループの全養鶏場(約50万羽)の糞尿由来の水素を年間80トン精製できるとした上で、日本の水素ステーションの採算ラインの消費量は年間77トンであり、CPグループの養鶏場由来の水素で、水素ステーション1基分を安定確保できる自立型になるとアピールした。今後はタイのトヨタ・ダイハツ・エンジニアリング・アンド・マニュファクチャリング(TDEM)にプロトタイプの水素製造設備を持ち込んで、タイのさまざまな資源を活用して水素を製造していく方針だという。
今回のイベントはCJPTとしては初の大型プロジェクトだったという。中島社長は「アジア諸国は、それぞれカーボンニュートラルの事情、資源も異なる。タイでやっていることがそのまま横展開できる場合もあるし、違うことをしなければならないこともある」とし、今回の試乗会などで経験を積んで他の国でも展開していくとの意欲を示した。
TJRI編集部
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